第23話 戦闘回避?
『シドっ、社長を止めてください! あの船は嘘をついています! 故障などしていません!』
「わかった!」
ロナからの警告を受け、シドはすぐさま護衛対象である社長に貨物船を停止するように伝えた。
「ストップしてください社長! 故障というのは嘘です!」
救助活動のために前方の不審な貨物船に近づこうとしていた社長は、その声で慌ててブレーキをかけた。
一度は進もうとしていた社長の貨物船が急停止する。
困惑した顔の社長が通信で理由を尋ねてきた。
『嘘ですって!? 本当ですか、ワークスさん!?』
「それは……」
ロナは不審船を操縦している男性が嘘をついていると言った。
だが、シドにはどの辺が嘘なのかまるでわからない。言い淀んでいると、彼女が説明をしてくれた。
『声や表情に嘘をついている人物特有の反応がありました。また、向こうの通信映像から微かにエンジン音を拾えました。解析しましたが、正常に運転しています。故障などしていません』
ロナの声は通信相手に伝わらないよう細工されているので、社長へはシドの口で説明しないといけない。
シドは、社長へは音声解析ソフトで分析したら正常なエンジン音であることが判明したと伝え、さらに警察への連絡を提案した。
「――なので、あの船は故障してないと思います。宇宙海賊だとしたら近づくのは危険なので警察に通報すると言って逃げましょう」
『わかりました。そうします』
社長が了承したところで不審船の方から再度通信が入った。
モニターに若い男の姿が映る。社長の船が急停止したので訝しんでいるようだ。
『どうかしましたか? そちらも何かトラブルでも?』
探るような目でこちらを見てくる不審船の操縦者。シドたちが罠に気づいたと疑っているのであろう。
社長は緊張した面持ちで答えた。
『いえ……いや、はい。実はこの船も急に調子が悪くなりまして。そちらの船を牽引するという話でしたが、難しそうです。すいませんが、私たちは修理のために引き返させてもらいます。もちろん警察にそちら様の救助を要請しておきますのでご安心ください』
社長がそう告げると、相手の男はあからさまに表情を歪めてチッと大きく舌打ちをした。
『バレたか……めんどくせぇな』
クロ確定。彼は海賊である。
『お前の演技が下手だからバレるんだろうが!』
『あんなオッサンも騙せねえのかバーカ』
『うるせえ!』
不審船の男が誰かと言い争っている。おそらくは仲間だろう。運転席内に姿が見えないということは、向こうも通信でやり取りしているようだ。
通り掛かった船に助けを求め、近づいてきたところを襲う算段だったのだろうが、その目論見は失敗した。
これで逃げ出してくれれば楽なのであるが、彼らは実力行使に打って出ることにしたようだ。
『まどろっこしいのは終わりだ! お前ら逃げられると思うんじゃねえぞ!』
男は態度をガラリと変え、チンピラのような口調でこちらを恫喝してくる。
そして叩きつけるように運転席のボタンを押し、船の荷台を開いた。
中に積まれていたのは2機の茶色い戦闘機。純正品ではなく、寄せ集めのパーツで組まれた機体だ。武装は見たところビームガンやミサイルを搭載している。
先程男が言い争っていたのは、この2機のパイロットであろう。
『あわわわ!?』
「あー、何が出てくるかと思えば……」
戦闘機の登場に社長はあたふたとパニクっているが、シドはいたって平静である。
ロナはこの前4機の戦闘機を相手に圧倒したのだ。たかが2機など怖くもない。実際ロナも『やれやれ』と呆れた声を出して余裕そうだ。
初出撃で泣き喚いていたのが随分と変わったものである。
『ワークスさん、早く逃げましょう!』
「いえ、大丈夫です。ご安心ください」
社長が真っ青な顔でそう言うが、シドは大丈夫だと力強く言った。
以前ロナにするようにと注意された、“自信に満ちた頼れるエースパイロット”の振る舞いを実践しているのである。
表情も作り、いつものシドとは大違いのキリッとした精悍な面構え。これができるのもロナへの信頼あってであろう。シドは勝利を疑わず、安心して演技ができた。
その効果はてきめんである。
シドの言葉を聞いて、血の気が引いていた社長が目に見えてホッとした表情に変わり、少し冷静さを取り戻したのだ。
シドは素早く社長に指示を伝える。
「社長、正面の2機は私が対処します。ワープ船が怖いのでこの場を離れないようにお願いします」
『あ、ああ、わかりました。頼みます』
シドにとって一番困るのは社長を人質に取られることである。
相手はおそらくどこかの宇宙海賊の一味だが、ロナが調べたところ、彼らの中にはワープ装置を搭載した宇宙船を所持しているグループもいるらしい。
であれば用心するに越したことはない。
実際、シドという護衛戦闘機がついているというのに、2機しかいない敵が強気の態度なのは不自然だ。まだ仲間が何処かにいると考えた方がいい。
シドとロナは、敵にワープ船があり、不意打ちを狙ってまだ隠れているのだと想定して行動をする。
社長に遠くに離れないよう指示したあと、シドは操縦桿を握り直し、深呼吸を一つして、敵グループに通信で投降を呼びかけた。
「こちらは白馬傭兵ギルド所属のシド・ワークスだ。こちらにはお前たちを撃墜する用意がある。命が惜しかったらエンジンを切って大人しく投降しろ」
前回、脱走兵たちに言った文言そのままだが、その反応は違う。
『シド……ワークス……? って、あのシド・ワークスかぁ!?』
『ホントだ! エールダイヤに、ドレスを着た女のエンブレム。ネットで見たまんまじゃねえか!』
『なんでこんな所にいんだよ!?』
シドの名前を聞いた海賊たちに動揺が走る。
報道された甲斐あって、今度は偽物扱いされていない。
さっきまで嗜虐的に歪んでいた彼らの顔が途端に自信なさげになる。
『お、おい、どうする?』
『どうするって……俺たちにはまだ“奥の手”が……』
『いや待て! シド・ワークスは、たかがパンを取り返すために戦闘機で宇宙まで追いかけてくる、危ない野郎だって聞いたぞ。関わり合いになるとマズイんじゃねえか……?』
『そ、そうだった! アイツはたった一機で敵軍に突っ込むようなネジの外れたヤツだった!』
『ちくしょう、むしろヤベェのは俺たちじゃねえか!?』
『この間やられた脱走兵たちも心が壊れるほど痛ぶられたらしい。きっとアイツはゲーム感覚で人を殺すんだ』
『ひぃぃ……』
『くそっ、付き合ってられねえ! 作戦中止だ! 向こうにもそう伝えろ!』
見る見る間に弱気になり、一転して逃げ腰になる男たち。
彼らの中ではシド・ワークスという男は蛇のようにしつこく、関わり合いになるのを避けるほど危険な男らしい。
シドも言い返したい気持ちはあるが、敵の会話を聞くに、やはりワープ船もいそうであるし、護衛対象の安全を一番に考えるなら、このまま黙って向こうが尻尾を巻いて逃げるのを見送った方がいいと考えた。
ロナも自分からは仕掛ける気はないようで、機銃の照準だけ相手に合わせて黙っている。
少し待っていると、あちらの方から話しかけてきた。
『お、おい、シド・ワークス! ここは見逃してやる!』
『追いかけてくるなよ!? もし追ってきたら、仲間がそこのオッサンの船を撃つからな!?』
ひどい怯えようである。
シドはロナと社長に確認を取り、海賊たちと戦わないことを決めた。もちろん警察へは既に社長が通報済みである。
犯罪者を逃すことになるのは業腹だが、護衛対象がいる以上は仕方ないことだ。危ない橋は渡れない。
シドは舐められないようあえて偉そうに、あごでしゃくりながら海賊たちにこの場を去るように告げた。
「わかった。何処へなりとも行ってくれ」
その言葉を聞いて途端に安堵する海賊たち。揃いも揃って卑屈な笑みを浮かべ、シドへと立ち去ることを約束した。
『へへっ、じゃあな』
『もう会うことがねえことを祈ってるぜ』
海賊たちの貨物船の荷台が開く。戦闘機を回収するのようだ。
これでこの場は手打ちだと誰もが思ったその瞬間、ロナの鋭い声が飛ぶ。
『シド、戦艦クラスのビーム砲が来ます! 狙いは前方の海賊貨物船!』
その言葉が終わると同時に遥か向こう側から光の線が到来する。
『へっ?』
モニターに映る海賊たちの内の一つが光に包まれ、爆発音と共に消えた。
ビーム砲は海賊の貨物船操縦席を貫き爆散させた。
いったい何事だと全員が恐怖と混乱に包まれる中、広域通信にて若く覇気に溢れた男の声が宙域全体に流された。
『逃すわけにはいかんな。我が国の法では、海賊はすべからく死刑と決まっている』
聞く者が自然と畏怖を覚えるようなカリスマに満ちた声である。
何故か音声だけで映像は入ってこない。
しかし、シドはどこかでこの男性の声を聞いたことがあるような気がした。
(確かテレビか何かで……?)
シドが記憶を探って思い出すより先に、レーダーを確認していたロナが答えを言った。
『高速でこちらに接近する戦艦を確認。王国軍の識別信号を発しています! 艦名は……「ラ・フィーユ・ビアンコ」! ソリスティア王国第四王子、パラディアスの御座艦です!』
傭兵と食品加工業者と海賊しかいなかった所に、場違いな貴人が現れた。
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