プロローグ
敵味方入り混じる宇宙の戦場に一機の戦闘機が飛んでいた。
その戦闘機は見るからに寄せ集めの部品で組み立てられた機体だった。
それも、ゴミ捨て場かジャンクショップの投げ売りで手に入れてきたのであろう廃品まがいの古パーツで、性能も見た目通り最悪に近い。生真面目な軍人がいたら、何故これで戦場に出てきたとパイロットを罵倒するであろう。それほど酷い機体だ。
さらにはカラーリングすらいい加減で、機体各所のパーツごとに色が違っている。おそらくは、かき集めたパーツをそのままくっつけただけで、塗装して見た目を整えていないのだ。まるでパッチワークである。
そんな宇宙飛ぶガラクタは、開戦直後に撃墜されて宇宙を漂うスクラップへと早々と逆戻りするのが必然であろう。その機体を見た者たちは皆、最初そう思った。
――だが、そのツギハギ戦闘機は強かった。
ノロマな機体など恰好の獲物だとばかりに襲いかかってくる敵戦闘機集団のビームやミサイルといった全ての攻撃を完璧に見切り、ただの1発たりともその機体に掠らせることもなく回避し続け、反撃にと正確な射撃を敵機の急所に一機一機叩き込んで撃墜する。
さらには、敵戦艦にも真正面から単騎で向かって行き、乱射される機銃やビーム砲を華麗にかわして至近距離まで接近。戦艦クラスには対ビームバリアが装備されているので、直接ミサイルを機関部に叩き込んで大破させる。
まさに一騎当千の活躍。
装甲の薄いツギハギ機体は一発でも攻撃を貰ったら即御陀仏だというのに、その機動からは全くの恐怖を感じられない。
さぞ度胸のある命知らずのパイロットが操縦しているのかと思うだろうが、実はそうではない。
その証拠に、ツギハギ機体のコクピットでは若い男が泣き喚きながら操縦桿を握っていた。
「お前ふざけんじゃねえよ、何で戦艦に向かって突っ込むんだよ!? 死ぬかと思っただろ!? このバカ!」
取り乱した様子で非難の声を上げている男。
この機体は一人乗りだというのに、あたかも別の誰かが操縦しているかのような物言いだ。
すると、男の言葉に答えるように、コクピット内のスピーカーから怒りを帯びた女性の声がした。
『集音マイクの故障でしょうか? もしかして今、同胞たちの中でも極めて高性能なこの私に対してバカと言いましたか? 情報処理能力が私の0.01%にも満たない愚かな人間ふぜいがなんたる暴言を。速やかな撤回を求めます』
丁寧な口調と耳あたりの良い柔らかな声に反し、まるで悪役のような高慢なセリフを堂々と発する女性。
スピーカー越しでも感じる強い圧に男は一瞬たじろいだが、すぐに負けじと言い返した。
「バカはバカだ! 戦艦と一対一なんて無謀な事、普通しないだろ! 高性能だか何だか知らないが、特攻まがいの無茶に俺を巻き込まないでくれ!」
『特攻まがい? 今のアタックが一か八かの博打だとでも? そんな訳あるはずないじゃないですか、人間でもあるまいし。私ならばこそ可能な、確実かつ最効率な攻撃です』
懇願混じりの男の言葉に対しスピーカーから返ってきたのは、小馬鹿にしたような声だ。彼女に体があればきっと鼻で笑っていることであろう。
男が言うように、この女性の声の正体はAIだ。
今現在この機体の操縦はほぼ全て彼女の支配下にあるのである。
『確かにハンデは大いにあります。なにせ、こんなふざけた機体なのですから。ですが、この私の優れた性能をもってカバーすれば、あの程度の駆逐艦を落とすことなど、いとも容易いこと。今あなたはこの戦場で最も安全なイスに座っているのです。それが分かったら喚かず戦闘に集中していてください』
「ぐっ……このクソAIめ」
悔しいが彼女の能力は本物だ。ここまで機体にかすり傷一つ無く生き残れたのは全て彼女のお陰である。男もそこに関してだけは彼女に恩を感じているようだ。
「ケッ、あーもう分かったよ! どうせお前がいなかったら俺はとっくに死んでんだ! 大口叩いてミスるんじゃねえぞ!」
『よろしい。では行きます』
「へっ?」
男は苦虫を噛み潰したような顔で悪態をつき、やけっぱちな気持ちで操縦桿を握る手に力を込めた。
すると、男の手ごと操縦桿が右に傾き、機体が弧を描くように旋回してその進路を大きく変えたのだった。
「お、おい、どこへ行く気だ!?」
向かう先は、レーダーによると、この近辺で敵の層が最も厚い部分。つまり敵艦隊が陣形を組んでいるところのど真ん中である。
慌てる男とは対照的に、スピーカーからは冷静な声が返ってくる。
『ビーム機銃のエネルギー残量は約半分。ミサイル残数もさほどない。それもこれもあなたが弾薬代をケチって充分な量を積んでいなかったからです』
「当たり前だろ、俺は戦場に来る気なんてなかったんだぞ!? それが何の関係が……まさか!?」
『おや、気づきましたか? あなたへの評価を訂正し、褒めてあげましょう。よく分かりましたね、その通りです』
パチパチと拍手音がスピーカーから鳴るなか、男は必死に機体を反転させようと操縦桿に力を込めた。
だが、まるで固定されたかのように頑として操縦桿は動かず、オンボロエンジンなりのスピードで機体は無情にも敵陣へと突っ込んでいく。
『この残弾数で敵戦力に可能な限り損害を与える方法はただ一つ。大物狙いしかありません。これより敵右翼部隊の主戦力である大型戦艦を3隻ばかり狙います。正面突破するのでちょっとばかり弾幕が激しいでしょうが、当たらないので問題はありません。ただ、いささか激しく揺れますから、舌は噛まないようお気をつけを』
「はああああ!? 何考えてんだバカ! やっぱりお前はバカだっ!! 死ぬ死ぬ、絶対死んじまうっ!?」
『喧しいです。――あっ、5秒後に接敵します。直ちに回避運動に入りますので、黙らないと本当に舌噛みますよ』
「ギャァァァーーーッ!! もう嫌だぁぁぁーーーーーっ!!」
恐れを知らないかのように集中砲火の中へと飛び込む一機の戦闘機。
この日、宇宙コロニー『白馬』防衛戦にて新しい伝説が生まれた。
さて、何故この反りが合わない二人が共に戦場を駆けぬける羽目になったのか?
時は少し遡り、宇宙コロニー『白馬』防衛戦発生直後のことである――