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祠の村


アルベルト領を発ち、王都への帰路を進んでいたエリナとルークは、小高い丘の上にある村に立ち寄った。村の入り口には、風雨にさらされ苔むした古い祠が立っている。


「こんな場所に祠があるのね。」

エリナが呟くと、ルークはわざとらしく肩をすくめた。

「田舎の村ってのはこういうもんだろ。」


「でも……少し変ね。」

エリナは祠に視線を向けたまま、何かに引き寄せられるように近づいていく。



村長の話によれば、最近、夜になると祠から「泣き声」が聞こえるという。


「姿は見えないが、確かに子供のような声が響くんです。」


「それで祠を調べたんですか?」

エリナが尋ねると、村長は首を振った。


「いいえ……祠に近づく者は皆、数日以内に高熱を出して倒れてしまうんです。」


「それでほったらかしかよ。」

ルークが呆れたように腕を組む。


「仕方ないわ。恐怖は人を動けなくするものよ。それより、また「子どもの声」が鍵となって事件が起こっているのが気になるわ。」


一瞬考え込んだ後、エリナは村長に微笑んだ。


「今夜私たちが調べてみます。」


「最近は「聖女さま」も板についちゃって……。」

ルークがぼやいたが、エリナの表情を見て諦めたようにため息をついた。



夜が訪れ、エリナたちは祠の前に立っていた。


「夜になると一層雰囲気出るな...」

ルークが剣を背に背負い、彼女の隣に立つ。


「怖いの?」

「は? そんなわけねぇだろ。」


「でも一緒に来たのね。」

エリナが微笑むと、ルークは鼻を鳴らした。


「エリナ様を守るのが俺の役目だからな。」


「ありがとう、ルーク。」


「……礼を言うくらいなら、さっさと終わらせろよ。生憎たたっきることができない、心霊系は得意じゃないからな...」



「……ひっく……ひっく……。」


夜の静寂を破るように、子供の泣き声が響いた。


エリナはすぐに祠に向かって魔力を放つ。


「浄化の魔法、展開。」


柔らかな光が祠を包み込むが、声は止まらない。


「反応がないわ。」


「言っただろ、こういうのは厄介なんだよ。」

ルークが前に出て、祠の扉に手をかける。


「待って。」

エリナが彼の腕を掴んだ。


「封印されてる可能性があるわ。無理に開けると危険よ。」


「うーん。なら、どうするんだよ。」


エリナはしばらく考え込んだ後、小さく頷いた。

「直接、中を視るしかないわ。」


「おい、それって——」


「魔法で中を覗くだけよ。大丈夫。」


ルークは不機嫌そうに腕を組んだが、何も言わず見守ることにした。



エリナは魔法陣を描き、ゆっくりと目を閉じる。


すると、視界の先に淡く光る何かが映し出された。


「……人形?」


祠の中に置かれていたのは、泥まみれの人形だった。


「子供の声はこの人形から……?」


エリナが目を開けると、ルークが怪訝そうに顔を近づけてきた。


「なんだった?」


「中に古い人形があったの。どうやらそれが声の正体かもしれないわ。」


「人形が声を出すって……おいおい、そんなホラーな話はやめろ。」


「でも、それなら浄化の魔法で反応があるはずなのに。」


「だろうな。ってことは、誰かが仕掛けたんじゃねぇか?」


「可能性はあるわね。」



翌日、エリナは村長を呼び、人形について尋ねた。


「その人形……昔、村で行方不明になった子供のものに似ています。」


「行方不明?」


「20年ほど前のことです。当時の村長が祠を壊そうとした際、子供が突然消えたんです。」


「なるほどね。」

エリナは人形を手に取り、再び浄化の魔法をかける。


——ピキッ。


人形が小さくひび割れ、ぼんやりと光が立ち上った。


光の中からは、あどけない子供の姿が現れる。


「僕を見つけてくれてありがとう、お姉ちゃん。」


その声と共に、子供の姿は消えていった。



「なんだったんだ、結局。」

ルークが肩をすくめる。


「祠に封じられた子供の魂が、人形に宿っていたのでしょう。」


「幽霊ってわけか。」


「ええ。でも、もう安心よ。」


エリナが微笑むと、村人たちは深々と頭を下げた。


「聖女様、本当にありがとうございました。」


「ま、これで一件落着ってわけだな。」

ルークは背伸びをしながら、エリナにちらりと視線を向ける。


「井戸の時といい、お前って意外と、こういうの得意だよな。」


「ふふ、褒めてくれるの?」


「私の主人は、聖女で努力家で献身的で勇敢です」

普段は茶化すようなルークが突然、エリナの目を見据えて敬語で答える。


エリナが驚いて何も言えずに、沈黙が2人の間に落ちた。

「なんてな」

ルークが肩をすくめて笑う。


「もう……。」

なぜか少し早くなった鼓動を抑え、エリナは笑みを返した。


穏やかな夜風が村を包み、彼らの背中をそっと押していった。

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