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王太子からの要請



王宮の壮麗な廊下を歩きながら、私は胸の中で不安を募らせていた。王太子アルベルト殿下が私を呼び出すなんて、悪い予感しかしない。婚約破棄以来、直接顔を合わせるのは初めてだ。


謁見の間に入ると、アルベルト殿下が微笑みを浮かべて待っていた。隣には新たに婚約を結んだ、リリアーナ侯爵令嬢もいる。私とは必要な時以外顔を合わせなかった男が、随分と惚れ込んでいるんだなぁ、と少しだけ胸が痛んだ。


「エリナ、久しぶりだな。聖女と呼ばれているらしいじゃないか。流石だな。」


彼の言葉に、私は一瞬言葉を失った。旅の途中で助けた人々の噂が、ここまで広まっているとは思わなかった。


「ありがとうございます、殿下。しかし、私は聖女などでは――」


「いや、謙遜は不要だ。実は、聖女と見込んで頼みがある。」


アルベルト殿下の表情が真剣なものに変わる。


「私の直轄領で奇妙な病が流行っているという。ここは一つ、聖女として行ってくれないか。」


婚約を破棄した相手によくも頼めるものだと、内心少し苛立ちを覚えたが、もはや、私と彼は上司と部下の関係であるし、困っている人々を放っておくことはできない。


「承知いたしました。すぐに支度を整え、出発いたします。」


謁見を終え、王宮を出ると、護衛騎士のルークが待っていた。彼は私の幼馴染であり、信頼できる友人だ。


「早かったな、エリナ様。久しぶりの元婚約者様はどうだった?やっぱりおまえがいなきゃやっていけない、よりを戻してくれと縋られたか?」


「ルーク、茶化さないで。直轄領の流行り病を鎮めて欲しいと仕事を頼まれただけだわ。病が広がるといけないから、この後すぐに出発するわよ」


「了解、優しいお姫様」


旅支度を進める中、私はふと考え込んだ。アルベルト殿下にしては、頭が回りすぎる。もし私が本物の聖女であれば、私の派遣で問題が解決され、彼の評価は上がる。逆に偽物であれば、民を欺いた不埒な女として、婚約破棄を正当化できる。どちらに転んでも、彼にとって損はないのだ。


「エリナ、どうした?」


ルークの声に我に返り、私は微笑んだ。


「何でもないわ。さあ、行きましょう。」


この国にとって、聖女は特別な存在だ。古くから伝わる聖女伝説は、人々の心に深く刻まれている。聖女という誤解が広まることに一抹の不安を覚えながらも、婚約破棄された私が公爵家のためにできることは民を救うことぐらいね、とひとりごちる。


私はルークとともにアルベルト直轄領へと向かった。

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