王都への帰還
充実した傷心旅行を終え、私は王都の門をくぐった。
空は澄み渡り、王都の街並みはいつもと変わらないはずなのに、どこか落ち着かない気持ちが胸をよぎる。
(婚約破棄の噂、まだ消えていないだろうな……)
王太子アルベルト殿下が他の令嬢を選び、私との婚約を破棄したのはつい半年前のことだ。
社交界は噂好きで、婚約破棄など絶好の話題。旅に出ていた間は逃れられたけれど、戻ってきた以上、また好奇の目に晒されることになるだろう。
「エリナ様、お帰りなさいませ」
屋敷の門をくぐると、執事や使用人たちが笑顔で出迎えてくれた。
思ったより歓迎されていることに、少し驚く。
「エリナ、お帰り」
応接間に入ると、父である公爵が椅子に座りながら私を見て、誇らしげに微笑んだ。
「さすが、私の娘だ」
「……父様?」
まるで何か偉業を成し遂げたような扱いだ。
「旅の間に何かした覚えはないのですが……?」
私は首をかしげたが、父は愉快そうに笑う。
「ふむ、お前は知らぬか。ならば、城下町に出れば分かるだろう」
「城下町?」
「見てこい。民に顔を見せておくのも悪くない」
父の言葉に従い、私は久しぶりに城下町を訪れることにした。
◇
「おや……?」
城下町に足を踏み入れた途端、違和感に気づいた。
「聖女様、お帰りなさいませ!」
「聖女様が王都に戻られたぞ!」
道行く人々が次々に私に頭を下げ、にこやかに挨拶をしてくる。
(……聖女様?)
驚いて顔を上げると、店先には「聖女様の祝福パン」と銘打たれた商品が並び、噴水のそばでは「聖女様の奇跡を語る会」が開かれていた。
「な、なんなのこれは……?」
混乱しながら広場を歩いていると、通りがかった少年が私の服を引っ張った。
「聖女様、また村に来てね! ぼく、もうすっかり元気だよ!」
「あ……うん、元気そうで良かったわね」
(これは……まさか、旅の途中で助けた村のこと!?)
私はようやく合点がいった。病に苦しむ村人たちを回復魔法で助けたことが、どうやら「聖女様の奇跡」として王都に広まってしまったらしい。
ただの回復魔法なのに、どうしてここまで話が膨らむのだろう……?
「やっぱり、私は聖女じゃないって説明しないと……」
ため息をつきかけたその時。
「聖女エリナ殿、ご足労願います」
後ろからかけられた声に振り返ると、そこには王宮の使者が立っていた。
「……何か?」
「王太子殿下が、貴女にお目通りを望んでおります」
その言葉に、私は思わず耳を疑った。
(婚約破棄したはずの王太子が……なぜ?)
気が進まないながらも、私は王宮へ向かう馬車に乗せられた。




