ルークの決断
森の中を駆け抜けるルークの足取りは、重かった。手には何もなく、彼がエリナの元へ持ち帰れる解毒薬はどこにもない。
「弟の形見…」
その言葉が、耳にこびりついて離れなかったのだ。彼女が家族、弟を思い続け、その復讐に人生を捧げたのと同じように、ルークもまたエリナを守りたいという思いだけで動いていた。
リリアーナとの激闘の末、小瓶を手にしたものの、結局彼女の言葉が胸を刺し、その薬を彼女自身に使ったのだ。
だが、結果としてエリナを救うための希望を手放したのは、果たして正しい判断だったのか――その答えはまだ見えないままだった。
やがて、彼がエリナを看病する小屋にたどり着くと、胸が締め付けられるような光景が目に入った。エリナの顔色は青ざめ、呼吸も弱弱しい。汗で濡れた額を冷やすように、村人が彼女を囲んで祈りを捧げている。
「エリナ…戻ったぞ。」
ルークは小さく呟きながら彼女の元に跪き、その手をそっと握った。冷たい。あまりにも冷たい。
「ルークさん!」
村人たちが驚いた顔で振り向いたが、彼の手には何もないことに気づくと、その顔には失望の色が浮かんだ。
「うまくいかなかったのね...」
エリナがかすれた声で呟いた。彼女の目は半分閉じられているが、それでも彼を見つめていた。
「すまない、エリナ。俺は…俺は無力だった。」
ルークの声は震えていた。彼が持ち帰ったのはこの無力感だけだった。
「いいの。」
エリナは微かに微笑んだ。
「あなたが、こうして戻ってきてくれただけで、十分よ。」
その瞬間、ルークの胸の中に深い感情が渦巻いた。彼女の命が今にも消えそうなその状況で、どうして彼女は自分を許すのだろうか。
「駄目だ、エリナ…俺はお前を失いたくない。」
そう呟きながら、彼女の手を強く握ったその瞬間だった。
――ルークの胸から、暖かな光が溢れ出した。
眩い金色の光が、彼の体から放たれ、エリナを包み込む。村人たちはその光景に目を見開き、息を呑んだ。
「ルークさん…これは…?」
誰かが声を上げたが、ルーク自身にもわからなかった。ただ、彼の中から湧き上がるその力が、エリナの体へと注がれ、次第に彼女の顔色が戻っていくのを感じた。
「エリナ…!」
ルークの声が震える中、エリナはゆっくりと目を開けた。彼女の肌には再び血の気が戻り、目にはいつもの力強い輝きが戻っていた。
「…やっぱり…あなた…だったのね。」
エリナが微笑みながら呟いたその言葉に、ルークは驚きの表情を浮かべた。
「俺…?」
その問いにエリナは弱々しくうなずく。
「聖女の血を引いているのは、私じゃなくて、あなた。」
村人たちも、ルークもその言葉に息を呑む。魔物つきを癒す力、聖女の力を引き継いでいたのは、エリナではなくルークだったのだ。
ルークは驚きと同時に、自分の中に芽生えた力の意味を改めて感じた。そして、エリナを救えた安堵感が彼を満たしていった。




