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王家の秘薬

ルークは寝る間も惜しんで王都に向かった。

ようやく着いた王宮の執務室は重い空気に包まれていた。


ルークが扉を開けたとき、そこにいたのはアルベルト王太子だった。机に山積みの書類を前にした彼の顔には疲労の色が濃く、眉間に深いしわが刻まれている。ルークは無造作に部屋の中央まで歩み寄り、立ち止まった。


「殿下、急ぎの件です。」


「何の用だ、ルーク。こんな時間に。」アルベルトは書類から顔を上げ、疲れた目でルークを見た。


ルークは間髪入れずに言った。「エリナが魔物憑きで倒れた。」


アルベルトの顔が一瞬、凍りついたように固まる。その反応を逃さずに、ルークは続けた。


「だから、王家の秘薬をよこしてくれ。それさえあればエリナを救える。」


アルベルトは目を伏せたまま、低く呟いた。

「それはできない。」


「は?」ルークの声が鋭くなる。

「エリナが倒れたって言ってるんだぞ。放っておけるわけがないだろ!」


「渡せないものは渡せない。」アルベルトの声は冷たかったが、どこか震えているようでもあった。


ルークは拳を握りしめ、机に叩きつける勢いで近づいた。「お前、エリナのことが好きなんじゃなかったのか? 本人の前じゃ演技してたぐらいだろ!」


アルベルトは目を見開き、一瞬だけ息を呑んだ。そして、その目に怒りの色を宿らせ、ルークに鋭い視線を向けた。


「ああ、好きだ!」


その告白が部屋に響いた。アルベルトは机を叩いて立ち上がり、ルークに詰め寄った。


「好きだったよ、ずっと! でも、俺には王としての責務がある。エリナのためだけに動くことなんて許されないんだ!」


「じゃあ、婚約者としてのエリナじゃなく、国のために動いたエリナのために、薬をよこせよ。」

ルークは一歩も引かず、アルベルトの目をまっすぐに見据えた。

「今この場で、その責務ってやつを果たしてみせろ。」


アルベルトは苦しげに顔をゆがめ、目をそらした。そして、低い声で答えた。


「……秘薬は、もうないんだ。」


「何だと?」ルークは信じられないという顔をした。


アルベルトは深く息を吐き、頭を抱えるようにして語り始めた。


「秘薬は、聖女の血と共に伝承されていたものだ。だが、長い年月の中で失われたんだ。王家にはもう、魔物憑きに対抗する手段は残されていない。」


「じゃあ、リリアーナはどうなんだ?」ルークが問い詰める。「王家は、婚約相手に何よりも聖女の資質を求める。お前、あいつが魔物憑きに対抗する手段を持ってるから婚約したんだろ。」


アルベルトは黙り込み、ルークを見据えた。


「そうだ。」短く、しかしはっきりと答えた。

「リリアーナの魔力が魔物憑きの患者に反応した。彼女が魔物憑きに対抗できる力だと、俺は信じている。だから婚約したんだ。」


「信じてる?」ルークの声は冷たく、皮肉が混じる。「その程度の根拠でエリナを見捨てたってのか。」


「見捨てたわけじゃない!」アルベルトは怒りを爆発させた。「俺には、選択肢なんてなかったんだ!」


二人の間に張り詰めた沈黙が訪れる。


「……わかった。」ルークが低く呟いた。「もういい。」


そう言って踵を返すルークの背中に、アルベルトはかすれた声で問いかけた。


「お前は……エリナをどう思っている?」


ルークは振り返らなかった。ただ、静かに答えた。


「俺はあいつを救う。それだけだ。」


扉が閉まる音だけが、冷たい執務室に響いた。

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