最後の村
その日は突然に訪れた。
リストに載った最後の村、ここで最後だと、エリナはほっと胸を撫で下ろしながら微笑んでいた。まだ数人の患者が残っていたが、治療の光は確実に希望を取り戻しつつあった。
しかし、その瞬間、足元がぐらつくような感覚がエリナを襲った。
「……え?」
視界が歪み、身体が思うように動かない。立ち上がろうとしたが力が入らず、膝が地面に崩れ落ちる。
「エリナ!」
ルークの叫び声が遠くで聞こえた。その声に応えようとするが、唇が動かない。意識が遠のきそうになる中で、エリナは思った。
――やっぱり、この日が来てしまったんだ。
目覚めたとき、 エリナは村の簡素なベッドに横たわっていた。天井を見つめながら、自分の状況を理解する。
「魔物憑き……ついに私もかかってしまったのね。」
隣には険しい顔をしたルークが座っていた。
「……どうして黙ってた?」ルークは低く、怒りを隠せない声で問いかける。「お前がそんな状態だってわかってたら、俺は……」
エリナは微かに微笑むと、頭を横に振った。
「魔法を使える私たちは抗体が高い。でも、これだけ多くの患者と関わってきたから、いつかこうなるだろうって覚悟していたわ。」
「覚悟? ふざけるな! そんなもん、俺は――」
「ルーク。」エリナの声は穏やかだが強かった。
「聞いて。まだこの村には数人、患者が残っているわ。私が治せないのなら、あなたに頼まなくちゃ。」
ルークは不満げに眉を寄せる。
「俺が何をするってんだ?」
「王家の秘密よ。聖女が遺した魔物憑きの特効薬があるはず。それを、彼らに使ってほしいの。」
その言葉に、ルークは目を見開いた。
「……そんなもん、本当にあるのかよ?」
「あるわ。代々王家に伝わるもの。アルベルト殿下なら知っているはずよ。」
ルークは黙り込んだ。エリナの目が真剣だとわかると、しばらく葛藤するように眉間にしわを寄せていたが、ついにため息をついた。
「お前を置いていくなんて、俺にはできねえよ。」
「お願い、ルーク。」エリナは震える手でルークの手を掴んだ。
「ここで私が倒れるのは、仕方のないこと。でも、この村の人たちまで失うわけにはいかない。」
「……チッ。仕方ねえな。」
ルークは立ち上がり、エリナを見下ろして拳を握りしめた。
「わかった。必ず取ってくる。それまでお前、絶対に死ぬなよ。」
「ええ、約束するわ。」エリナは微笑んだが、その笑顔は儚く、今にも消えそうだった。
ルークは振り返りもせず、村の外へ向かって駆け出していった。その背中を見送りながら、エリナはそっと目を閉じた。
「頼むわ……ルーク……。」
静かな部屋には、エリナの呟きだけが響いていた




