北端の屋敷
廃墟の屋敷は冷たい静寂に包まれていた。昼間であるにもかかわらず、壁の隙間から漏れる光はわずかで、まるで夜のように薄暗い。エリナとルークは足元を注意深く見ながら、廊下を進んでいく。どこかで朽ちた木材が軋む音が響き、エリナは思わず背筋を伸ばした。
「リリアーナ様はこんな場所で一体なにを?」
ルークの低く粗野な声が廊下に響く。その声には疑念ではなく、彼独特の慎重さが滲んでいた。
「わからない。でも、ここが手がかりだと思う。」
エリナは前を向き、確信を込めて答えた。直感とも言えるその予感が、彼女をこの廃墟に導いていた。
探索を続けるうち、二人は薄暗い廊下の奥で奇妙な扉を見つけた。他の扉と比べて重厚で、何かを守っているかのような威圧感がある。扉の表面には古い文字が刻まれており、その一部はすでに風化して読めなくなっていたが、魔術的な雰囲気を醸し出していた。
エリナはルークに目配せをした。
「ここだな。」
ルークが短く言い、手を伸ばす。その指先が扉に触れると、わずかに冷気が伝わってきた。
「待って、罠があるかもしれない。」
エリナはルークを制し、慎重に扉を調べ始めた。扉の縁には魔力が微かに漂っている。
「魔力の痕跡がある。古いものだけど……これは防御の呪いだわ。」
「解けるのか?」
ルークが眉を潜める。エリナは集中し、手をかざして呪いを解くための呪文を唱えた。光がふっと漏れ、扉がわずかに開いた。
★★
扉の奥に広がっていたのは、薄暗い秘密の部屋だった。古びた家具や棚が並び、中央には一つの机が置かれている。その机の上には乱雑に積まれた書類と、魔法陣の描かれた布が広がっていた。
「これは……?」
エリナは机の上の書類を手に取り、一枚ずつ目を通し始めた。その内容を読んでいくうちに、彼女の表情が強張っていく。
「ルーク、これを見て。」
エリナが震える声で言うと、ルークは彼女の隣に立ち、書類を覗き込んだ。
書類には、いくつもの村の名前と、そこに送り込む予定の「魔物憑きの触媒」のリストが記されていた。さらに、それぞれの村に送り込んだ後の感染拡大の記録や、被害者の数が詳細に書かれている。
「計画的に……魔物憑きを広めていた?」
エリナは手が震えるのを感じながら呟いた。
「ここにも何かある。」
ルークが指差した先には、命令書があった。内容は、魔物憑きの拡散を指示するもので、その文面には冷徹な計算が読み取れた。
「この村……先日焼き討ちされた場所だ。」
エリナが呟くと、ルークの顔が険しくなる。
「つまり、リリアーナは魔物憑きを意図的に広めて、それが拡大した後で、焼き払ったということか?」
焼き討ちされた村の被害が記録された書類も残されており、その隅にはリリアーナ自身が現場に立ち会ったという記述もあった。
「なぜこんなことを……」
エリナは思わず書類を胸に抱きしめた。




