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焼け残った家


エリナはリリアーナの真意を探るべく、彼女が焼き討ちを命じたと見られる村を再訪した。そこでは既に魔物憑きの蔓延は治まり、村の再建が始まっていた。


エリナは治療を求める村人たちを癒して回りながら、村はずれの焼け跡に目を留めた。


「…行ってみるか?」

ルークが気づき、エリナの隣に立つ。


「ええ。」

エリナはそう言ったが、胸の奥には説明のつかない違和感があった。


焼き討ちされた村の報告には、どこか腑に落ちない点がある。魔物憑きが広がれば、村を焼き払うのは致し方ない。しかし―― リリアーナが自らその場に赴き、笑みを浮かべていた という村人の証言が頭から離れなかった。


「…考えすぎかしら。」


「考えすぎるぐらいでちょうどいい。」ルークは短くそう返した。


村はずれの焼け跡は、今もなお黒く焦げた木々が残る場所だった。


一軒の家だけが半壊しつつも形を留めていた。村人が言うには、そこには焼き討ちの際に病で寝込んでいた老人が住んでいたという。しかし、なぜか火

その家にはほとんど届かず、中にいたはずの老人もいつの間にかきえてなかったそうだ。


「…ルーク。」エリナが足を止め、指差す。

家の壁に不気味な黒い手形が焼き付いていた。


「魔物憑きの痕跡だな。」


「ええ。でも、魔物憑きの病に罹った人のものにしては…奇妙ね。」


「何が?」


「…あまりにも形がくっきりしすぎているわ。まるで、魔物化したにも関わらず、意思がはっきりあるような...」


ルークは剣の柄に手を置いたまま、壁を見つめる。


「エリナ、お前は外で待ってろ。」


「嫌よ。」エリナは即答する。「…私が確かめるべきことだから。」


ルークは短く舌打ちし、肩をすくめた。「仕方ねぇな。せめて、そばから離れるな。」


家の中はひんやりとしており、時間が止まったかのようだった。


埃っぽい空気に紛れて、微かに花の香りが漂う。


エリナは棚に目を留めた。そこには、焦げ跡を免れた古びた花瓶がひとつ置かれている。


その花瓶の中に、一枚の手紙が隠されていた。


「手紙…?」エリナはそっと広げた。


『リリアーナ様。いつもありがとうございます。おかげで私たちはあの恐怖から解放されました。』


ルークが背後から覗き込む。「…村人宛ての礼状か。」


「いいえ、宛名は…リリアーナ様。」エリナの指が震えた。「これを書いたのは…魔物憑きに罹った家の老人よ。」


「…どういうことだ?」


エリナの脳裏に、村人の言葉が蘇る。


『リリアーナ様は、この村に何度も足を運んでくれました。焼き討ちを決断される前も。』


なぜリリアーナは魔物憑きの村を焼く前に訪れていたのか。しかも、魔物憑きの家の者から感謝されている――。


「まるで…」エリナは言葉を飲み込んだ。


「何かを計画してその証拠を隠滅したみたいだな。」


エリナは無言で手紙を握りしめる。


もしその推測が正しければ――リリアーナはアルベルトの婚約者としてだけではなく、王国そのものにとって危険な存在だ。


「ルーク。もっと調べる必要があるわ。」


「おう。」ルークは剣の柄を握りしめ、静かに家を後にした。


村を出る時、エリナは再び振り返った。


焼け跡の家が、夕陽に照らされてぼんやりと赤く映る。


「リリアーナ様は、一体何をされていたの。そしてなぜこんなことを…」


答えはまだ闇の中。だが、その闇が深く広がっていることだけは確かだった。

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