灰に沈む村
「王太子様と話せたか?」
屋敷に戻るとルークが話しかけてくる。
「いえ、話し始めてすぐ彼女がいらしたから...」
「そういえば以前、俺が王太子へ任務の途中で報告に行った時も婚約者様はそばにいたな」
ルークが考え込むような顔を見せた。
「どうするんだ?王太子に婚約者様のいないところで話したい、と言うのも元婚約者としては不穏だしな。」
そう、エリナたちはアルベルト王太子と話したいことがあったのだ。
それは、アルベルト領での魔物憑きの病が落ち着き、エリナとルークは王都への帰路についていた時のこと。
道中、王都から程近い小さな村で一泊することに決め、二人は村の宿に荷を下ろした。
「明日の朝には王都に着くな。」
ルークが簡単な旅支度を整えながら言う。
エリナは窓辺に立ち、村の景色を眺めた。
のどかな田園風景が広がっていたが、村の端に広がる黒ずんだ土地が目に留まった。
「ルーク、あの土地……何かあったのかしら?」
ルークが窓から顔を出し、遠くの景色を見た途端、眉をひそめた。
「……あれは、焼かれた跡だな。」
エリナは気になり、外に出ることにした。
ルークは「行くなら俺もついてくぞ」と言いながら、あくびをしつつも剣を腰に下げてついてきた。
焼け跡の村に近づくと、ぽつりと老人が一人、土を掘り返していた。
小柄で痩せこけた老人は、二人の姿に気付くと驚いたように目を見開いた。
「おや……お嬢さん、旅のお方か?」
「ええ。少し気になって……ここで何があったんですか?」
老人はスコップを突き立て、肩を落とした。
「ここは、魔物憑きが出た村でな。」
「魔物憑きが?」
エリナは思わずルークを見たが、ルークは黙って頷いた。
「王太子殿下のご婚約者様が、対処してくださったのさ。」
「対処?」
エリナの胸がざわめいた。
老人は顔を曇らせ、低い声で続ける。
「魔物憑きが出た村は、隔離しないと広がる。それで……侯爵令嬢様が『村ごと焼く』と決められたんだ。」
「村ごと……?」
エリナの心臓が大きく跳ねる。
「焼く前に、逃げた人はいなかったんですか?」
老人はかすかに目を伏せた。
「わしの家族は……逃げられなかった。」
「そんな……」
ルークがエリナの肩に手を置く。
「帰るぞ、エリナ。」
「でも……!」
「焼かれたもんは戻らねえ。」
ルークの低い声が、心に鋭く響いた。
「エリナ、お前がどうにかできる話じゃねえ。これは王家の決定だ。」
「でも、リリアーナ様がそこまで……王太子はご存じなの?」
ルークはため息をついた。
「王太子に報告が上がるのは『病を防ぐために焼いた』って話だけだろうよ。」
老人がぽつりと付け足した。
「でも、あの侯爵令嬢様は笑っていたよ。」
「え?」
「村を焼く夜に、わしは丘の上から見ていたんだ。火が村を包む中、侯爵令嬢様が楽しげに微笑んでいるのをな……。」
エリナは寒気が走った。
ルークがエリナを守るように立ち塞がる。
「聞きすぎだ。行くぞ。」
ルークの声には珍しく鋭い怒りが滲んでいた。
その帰り道、エリナは足を止め、静かに言った。
「ルーク……私、王太子に話さなきゃ。」
「やめとけ。王太子は信じねえよ。」
「それでも……私ははっきりさせたいの。この決定が彼のものなのか。国のみんなを助けるためにも。」
ルークは立ち止まり、じっとエリナを見つめた。
「……お前がそう言うなら、ついていくさ。」
ルークは粗野な口調のまま、それでも真っ直ぐにエリナを見守っていた。




