再会
「城に報告に行く前に、一度屋敷へ戻るわ。父と母に顔を見せないと。」
「護衛として付きますよ。」
「ルーク、それはいいわよ。」
「……は?」
「ちょっと一人になりたいだけ。」
ルークの眉がわずかに寄るのを見て、エリナは肩をすくめる。
「分かった。ただし、変な輩に絡まれたら即呼べよ。」
「私、そんなに弱くないわよ。」
「いや、そういう問題じゃねえ。……ま、気をつけな。」
ルークは軽く馬の手綱を弾き、一人で城門へ向かっていく。
エリナはその背中を見送りながら、やはり彼の存在は昔から変わらず頼もしいと感じていた。
胸に浮かぶ想いを振り払い、エリナは屋敷ではなく、王城へ向かう道を進んだ。
王城の庭園を歩いていると、馴染みのある声が耳に届いた。
「久しいな。」
振り返ると、そこにはアルベルトが立っていた。深紅のマントを肩にかけ、琥珀色の瞳が静かにこちらを見つめている。漆黒の髪は柔らかく風になびき、かつてよりも少し痩せた印象を受けた。
「……お久しぶりです、アルベルト殿下。」
「エリナ。元気そうで何よりだ。」
その声には感情が見え隠れしていたが、エリナは微笑んで軽く頭を下げるにとどめた。
「直轄領での働き、感謝している。魔物憑きが原因だったとは、驚いたよ。」
「恐れ入ります。……ですが、私ができたことなんてほんの少しです。ルークや村の方々がいてくれたからこそ、無事に解決できました。」
「謙遜しすぎだ。君が治癒して回ったことは知っている。」
「いえ、本当に……。」
言葉を重ねようとしたその時、後ろからふわりと柔らかな香りが漂ってきた。
「アルベルト様、こんなところにいらしたのですね。」
エリナが視線を向けると、そこには新たな婚約者のリリアーナが立っていた。淡い笑みを浮かべながら、アルベルトに親しげに寄り添う。
エリナの胸が、わずかに痛む。
「エリナ様、お噂はかねがね。殿下から色々とお話を伺っています。」
「それは恐れ入ります。」
「本当に素晴らしい方だと……。きっと王太子妃としても、誰より立派に務められていたでしょうね。」
「……いえ。そんなことはありません。」
エリナの声はわずかに震えたが、それを隠すように微笑む。
「アルベルト様、それでは私はこれで。」
静かに会釈をし、踵を返そうとした瞬間、アルベルトがふと声をかけた。
「また、頼むことがあるかもしれない。……その時は、力を貸してくれるか?」
エリナは立ち止まり、背を向けたまま目を伏せた。
「その時は……。」
はっきりした返事をしないまま、エリナはそっと庭園を後にした。
彼女の背を見送りながら、アルベルトはしばらくその場に立ち尽くしていた。




