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聖女の帰還


王都の石畳を踏みしめるたび、エリナの胸は少しずつ重くなっていった。懐かしい街並みが広がるが、どこか遠く感じるのは気のせいではないだろう。


「ただいま。」


誰に言うでもなく呟くと、目の前で立ち止まった果物売りの女性がこちらを見て目を見開いた。


「えっ……聖女様!?聖女様ですよね!」


「えっ?」


思わず戸惑うエリナだったが、次々と人々が足を止め、彼女を見つめ始める。


「本当だ……!聖女様が王都に戻られた!」

「直轄領の病を治したと聞きましたわ!」

「迷える霊も成仏させたらしいぞ」

「聖女様!ありがとうございます!」


感謝の声が次々と上がり、人々が彼女を囲むように集まりだした。小さな子どもがエリナの前に駆け寄り、花を差し出す。


「ありがとう、聖女様。お父さんの病気がよくなったってお手紙が届いたの。」


エリナは驚きつつも、その花を両手で受け取った。


「そう……よかったわね。」


「聖女様、どうか今後も我々をお守りください!」


人々は深々と頭を下げ、次々と感謝を述べる。


エリナは困惑しつつも微笑むことしかできなかった。


「私は聖女なんかじゃ……」


そう言いかけて、言葉を飲み込む。


この人たちにとって、私は希望の象徴なのね。


どんなに自分が否定しても、それが彼らの心を支えるのなら――それでいいのかもしれない。


「ええ、これからも皆さんが無事でいられるように祈っています。」


曖昧に微笑むエリナの表情は柔らかく、それを見た人々の歓声が一層大きくなった。


「聖女様、万歳!」


祝福の声が響き渡る中、エリナはそっと足を進めた。


「……やれやれ。」


少し離れた場所でルークが腕を組みながら苦笑しているのが目に入る。


「よかったじゃねえか。王都でもすっかり有名人だ。」


「もう、からかわないで。」


エリナは溜息をつきながらも、どこかくすぐったい気持ちになりながら王城へと向かった。


彼女は知らなかった――その姿を、遠くから一人の人物が静かに見つめていたことを。


琥珀色の瞳を細め、静かに佇むアルベルト王太子の存在に気づくのは、もう少し先のことだった。

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