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新たな婚約者とルークの報告


時は戻って、アルベルト直轄領の奇病が魔物憑きと判明した頃。ルークは魔物憑きの流行を重要事項と判断したエリナの命で、王太子へ報告のため急ぎ王都に戻っていた。


アルベルト王太子の執務室は、相変わらず整然としていた。琥珀色の陽光が窓から差し込み、室内を静かに照らしている。扉の前で控えていたルークは、ノックをしてから荒い呼吸を整えゆっくりと扉を押し開けた。


「ルーク・ファーレン、報告に参りました。」


一歩踏み入れた瞬間、視線が合ったのはアルベルトではなく、彼の傍らに立つ一人の女性だった。


彼女は豪奢なブロンドの髪を緩く結い上げ、柔らかな笑みを浮かべている。瞳は薄いブルーで、透き通るような上品さを感じさせた。シンプルながらも繊細なレースの施されたドレスが、彼女の穏やかな気質を際立たせている。


「ルーク騎士、わざわざご苦労様です。」


丁寧に頭を下げる彼女を見て、ルークは無言で軽く会釈した。


「リリア、今日はこれでいい。ルークと話がある。」


アルベルトが静かに告げると、リリアと呼ばれた女性は「また後ほど」と微笑みながら退出する。その様子をルークはじっと見届けた。


扉が閉まると、ルークはわざと気だるげな声で口を開く。


「随分と、新たな婚約者様に入れ上げていらっしゃるんですね。」


言葉に含んだ皮肉を隠すつもりはなかった。


「……言葉が過ぎるぞ、ルーク。」


アルベルトは低く言いながらも、表情を変えずにルークを見据える。


(相変わらず、エリナ様の前とそれ以外では態度が違いすぎるな。)


ルークは内心で苦笑しつつ、努めて淡々とした声で報告に切り替えた。


「アルベルト直轄領の病についてですが、原因は魔物憑きでした。」


アルベルトの表情が僅かに険しくなる。


「重症者の程度は?」


「報告にくる前に魔物化したものが一名。病を患った村人の7割は、エリナ様の治癒魔法によって快復しています。放っておけばあのまま何人も命を落としていたでしょう。残りの3割については重症化しないよう、エリナ様が魔法で進行を抑えています。」


「……魔物化したものはどうなった?」


「エリナ様の魔法で光となって消えました。それが聖女の魔力による治癒と呼べるのか私にはわかりかねますが。」


アルベルトは机に手を置き、静かに考え込む。


「……エリナは元気か?」


不意にアルベルトが問うた。


ルークはわずかに眉を動かし、口を引き結んだ。


「ええ。彼女は元気です。」


それ以上、余計なことは言わなかった。


退出する際、エリナが無事であればそれでいい――

アルベルトのその言葉が、確かに聞こえた気がしたが、ルークは聞かなかったふりをすることにした。

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