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盲目とジレンマ

作者: 森 go太

 私は盲目の子として、この世に生を受けました。

 光というものを、一度も見たことが無いのです。どこまでも暗い闇の中、その分発達した聴覚で拾う音だけを頼りに、私は7年間生きてきました。

 10歳になった頃、両親は、私を普通の小学校に入れました。統合教育というもので、ハンディのある私にコンプレックスを持たせないようにと、普通の子達に混じって生活させる事を選択したのです。


 普通。


 当初、視力の無い私にとって普通というものは少なからず恐ろしいものでした。

 これまでは盲学校で同じ境遇の子たちの中にいたこともあって、最初は普通の子たちからの視線を気にして、鬱々とした感情を抱くこともありました。

 しかし私の経験した限りでは、社会は思ったよりも優しいものでした。


 「アカネちゃん、歩くペース速くない?」

 「遠慮しないで言ってね」


 私のいた小学校の子たちは、みんな私のことを気にかけてくれる、優しい子ばかりでした。特に私が仲良しだったのが、小山内順子ちゃんという子で、はきはきとしていて誰にでも優しい、クラスの中心的存在でした。順子ちゃんと私は家がたまたま近くで、そんな子が私のことを気にかけてくれたことが、私が学校に馴染めた最も大きな要因だったと思います。

 みんなと仲良くなれた。それはとても素晴らしいことには間違いありません。実際両親にその話をすると、両親は泣いてくれました。


 しかし。

 そうやって良い人たちに出会うたびに、私はどうしても思ってしまうのです。


 この人たちの表情を見てみたい。


 それは私にとって、叶わぬ夢でした。


 両親は以前まで色んなお医者さんのところに私を連れて行って、視力を少しでも取り戻せる方法が無いから、探してくれていました。


 しかしどれだけ腕利きのお医者さんにかかっても、私の視力が良くなることは遂にありませんでした。


 12歳の春、私は小学校を卒業しました。


 「あたし、アカネちゃんと出会えて良かったよ」

 卒業式の後、順子ちゃんは震える声でそう言って私を抱きしめてくれました。私は卒業後、隣県の中学校に通うため、引越しするのでした。

 クラスのあちこちからも、啜り泣くような音が聞こえていました。みんな私のために、涙を流してくれているのだと思います。

 しかし私は「思う」ことしかできないのです。

 聞こえてくる音から、こういう状況なのだろう、と推測はできます。しかし目が見えない私にとって、それはあくまで「推測」にしか過ぎず、100%確信を持ってこうなのだ、と断定することは絶対にできないのです。


 だから私は、涙を流すことができませんでした。

 99%の確定要素があっても、1%の不確定要素があるだけで、私の感動は阻害されてしまうのでした。


 周りに恵まれていたこともあって、視力が無いことが原因で過度に思い詰めたことは一度もありません。


 しかしそういう時だけ、周りと同じ感動を共有できないのが、少し胸が痛むのでした。


 卒業式を終えて家に帰り、星野源の曲を聴いていました。


 音の中で、君を探してる。

 霧の中で、朽ち果てても彷徨う。

 闇の中で、君を愛してる。

 刻む、一拍の永遠を。


 『Pop Virus』のその歌詞が、とても印象に残ります。


 闇の中で、君を愛してる。


 私もそう思えたら、とつくづく思うのでした。

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