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第15話 本当にやりたいこと

 扉を開けた瞬間、ベッドの上に巫女さんがいた。

 

 え……なにこのおっぱいすっご。

 

 俺は衝撃のあまり、他に気にすべき事を全て忘れて呆然としてしまった。

 

 巫女服がはち切れそうな程に押し上げられ、きっちりしまっているはずの襟元からも谷間が覗いている。

 見た目も黒髪ロングの美人さんなのだが、もはやおっぱいが本体にしか見えない。


「……?」


 巫女さんにキョトンとした顔で見つめられ、慌てて冷静さを取り戻す。


「あ、あんたは一体……ていうかどっから入った⁉」

「初めまして、古瀬伴治様。わたくし、樋代栞奈ひのしろ かんなと申します。本日はこのような形でのお目通りとなってしまい申し訳ありません。どうかご容赦ください」


 真っ白なベッドの上で、巫女さんは三つ指をついて頭を伏せる。

 まるで結婚初夜みたいで色々と気恥ずかしい。


「建物への侵入など、我々の力を持ってすれば造作もないことでございます。……それに、わたくしはただの顔繋ぎでございますゆえ」

「繋ぎ? 一体何言って──」


 聞き返した俺の言葉に返事はなく。

 代わりに巫女さんは目を瞑って両手を組み――不意にガクッと意識を失いその場に崩れた。


「ちょ、おい!」


 俺が慌てて駆け寄ると、


「ふむ、お主が〈神滅スキル〉を御した者か。……なんじゃ、あんまりいけめんじゃないのぅ」


 そこに巫女さんの姿はなかった。

 代わりに、まるでダメ親父のような姿勢で横向きに寝そべっていたのは、豪華な着物を着崩したどう見ても小学校高学年くらいのロリっ子。

 1本1本に水流が流れているかのような不思議な光沢の水色の髪をバサッとかき上げ、俺を見つめてくる。


「——っ、何を」

 

 瞬間、俺の警戒度が一気に跳ね上がった。 


「そう警戒するでない。別に言いふらしたりはせんよ」

「どうして信じられると?」


 場合によっては目の前の相手を消す事も考えながら、俺は鋭く尋ねる。


「ふむまずは自己紹介をしようかの……妾は、いわゆる神様じゃ」


 ロリっ子は毅然とした顔で、とんでもないことを言い放った。


「は……? 神って、海を割るといかいうあの……?」

「それはモーセじゃからちょっと違うが……まあいめーじ的には同じじゃな」


 半信半疑といった感じで俺は警戒を続ける。


 だが確かに、目の前の存在には妙な威圧感を覚えるが……とはいえ馬鹿正直に信じるはずもない。


「神であるという証明は?」

「今はあの娘に憑依してるだけじゃから、権能は使えんが……そうじゃの。妾は、全てを知っておるよ? お主がダンジョンの底で何度も死にかけ、それでも尚足掻き、黒き風の力を手にしてあの牡鹿を打ち破ったことを」

「——っ」


 今の世の中、ちょっとやそっと不思議なことが起きてもスキルのせいで片付いてしまう。

 黒風の事も、最悪鑑定持ちなら知られる可能性もある。

 けれど、ダンジョンの底、俺以外の人類が足を踏み入れたことのないあの世界のことを、俺の過ごした地獄の全てを知っていると、そういうのなら――


「……分かった。ひとまず話を聞こう」


 神だと完全に信じたわけではないが、何かしら特別な存在だというのは認めざるを得ないだろう。


「とはいえ、その神様が俺に一体何の用なんだ?」

「なに、ちとお頼みがあっての」

 

 神様は姿勢を正して、俺の目を真っすぐに見て、


「そう大したことではない。——お主に、ダンジョンを攻略して欲しいのじゃ」


 淡々とした口調でそう告げた。


「いや待て。それって犯罪だろ。国内のダンジョンは全部、国によって管理されてるわけだし」


 だが、俺はそれに異を唱える。


 全てのダンジョンは国によって管理され、クリアし、崩壊させることは重罪に値すると法律で決められている。

 もはやダンジョンは国にとってなくてはならない収入源だ。

 それこそ小国ともなれば、良いドロップのあるダンジョンが一つ生まれるだけで国力の均衡が崩れかねない程に。


「勘違いされておるが、ダンジョンというのは人類にとってあまりいいものではない。今はいいが、このまま増え続けて管理しきれなくなれば、やがて地上にモンスターが溢れることになるじゃろう」


 ダンジョン終末論、というやつか。

 噂には聞いたことがある。

 ダンジョンとはこの世界を滅ぼす為に生まれた悪いもので、それをクリアせずに管理するなど自滅行為だ、と。

 

「クリアしても、お主の仕業とはバレんようにこちらで手配する。迷惑はかけん」


 と、言われてもなぁ。


「別に俺善人じゃないし。ぶっちゃけ人類を救うとか割とどうでもいいし……」


 出会う人間は大体がいじめに加担するか、見て見ぬふりをする奴ばかりだったし。 

 中学の頃はよく人類滅びろ! と願っていたくらいだ。


 というか、そうじゃなくても犯罪を勧めてくるのは怪しい。

 本当にこいつに加担していいものか判断がつかない。


「無論、報酬は出そう。そうじゃの……この娘とかはどうじゃ?」

「……は?」


 ロリ婆神がパチッと指を鳴らした、次の瞬間。

 俺の目の前には再び巨乳の巫女さんが現れた。


「今この身体の主導権は妾にあるのでな。ほれほれ、どうじゃこの乳。先ほど食い入るように見ていたじゃろう。なんならこの場で筆おろしをしてやろうか?」

 

 ロリ婆神(巫女さんの姿)は唐突に巫女服の前をはだけ、その豊か過ぎるおっぱいを完全に露出させてゆさゆさと揺さぶる。

 この世の全てがどうでもよくなるような魔力に、俺の身体もおっぱいに合わせて揺れ始める。

 まさか、着物の下に下着をつけないっていうのが都市伝説じゃなかったとは……


「や、止めろって。本人の同意なしでそういうのは流石にダメだろ……」


 俺は首がねじ切れそうな程強くそっぽを向きながら、必死に欲望に抗う。

 

「妾が命じればこやつは逆らわんと思うが。女が要らんのなら他のものでもよいぞ?  妾は神、それなりの影響力は持っておるでな。何か願いはないのか? 金か? 地位か? 名誉か? も、もしや妾の身体が欲しいのか……?」

「要らん!」


 ロリは嫌いじゃないが、初体験が神様とか色々怖すぎる。


 だが、願いと言われ一つ心当たりが浮かんだ。


「……例えばだが、その願いというのは人を殺して欲しい、とかでもいいのか?」


 有原たちを殺したい。

 今の俺にとって、叶えたい願いはそれだけだった。

 だが、こうも監視下に置かれていては一体いつ動き出せるのかも分からない。

 手を下すのは自分でやりたいが、協力者が得られるというならありがたい話ではあった。


「なんじゃぁ? そんな事、別に妾に願うまでもないじゃろうて。ちょっと夜まで待って、後はそこの窓からビューンと飛んで行ってそのスキルで消せばいいだけではないか。よしんば誰かにバレたとて、今の日本にお主を裁ける法などない。文字通り、一切の証拠が残らんのじゃからな」


 ロリ婆神は元の姿に戻ると、退屈そうにベッドに寝そべり、


「——ま、それはお主がただ殺すだけで満足するのなら、の話じゃがな」


 まるで悪魔のような悪い笑みを浮かべて、全てを見透かす力強い瞳で俺を見た。


「それは……」


 ダンジョンの底にいた時は、あいつらを殺したい。出来るだけ苦しめて殺してやりたい。

 ただそればかりを考えていた。


 けれど、俺は本当にそれだけで満足なのか?

 ——いいや、違うはずだ。

 だって、それこそ奈落に落ちる前から俺はずっと、心の底ではあいつらをぶっ殺してやりたいと思っていたのだから。


「そうだな……ただ殺すだけじゃ、俺の恨みは晴らせない。どうせなら、じわじわと苦しめて、俺が受けた何倍もの痛みを味わわせて、それで――」


 俺は自分の顔に暗い笑みが張り付いているのを自覚しながら、言葉を続けた。


「あいつの欲しい物も大事なものも、何もかも全部奪ってから、絶望の中でモンスターの餌にでもしてやろう」


 ようやく、自分が本当にやりたかった事がはっきりした気がした。

 力を得て、強くなって、ようやく地上に戻って来て。

 後は有原たちを殺してやるだけだと思っていたが……それだけでは、どこか腑に落ちなさを感じていた。

 

 だが今、その正体にはっきりと気が付いた。


 どうせなら、あいつらの全てを奪ってやりたい。

 地位も金も、人気も、好きな女も、友人も。

 あいつらが俺を踏みにじる事で得て来たそれら全てを奪い、完全な絶望を与えたその時こそきっと――真の意味で復讐が叶ったと、そう言えると思うから。


「——ふっ、いい顔じゃの。頼みに応じてくれるのであれば、妾もお主の望む復讐に全力で協力すると約束しようぞ」


 そう言って、神はクツクツと腹の底から笑いを漏らす。


「言葉を違えるなよ。……そうなれば、この力はあんたらに向くことになる。俺はこの復讐が万全の形で叶うののなら、神だろうが冥王だろうが協力者はどっちでもいいんだ」


 この際、こいつの怪しさは脇に置いておこう。

 人類の行く末がどうなろうが、この復讐が叶うなら知った事か。

 何かの為に自分を犠牲にするなんて精神は、奈落の底で死にかけた時に捨て去っている。


「ま、そうならないようにせいぜい手厚いさぽーとを心掛けるとするかの」


 ――こうして、本当の意味で俺の復讐が始まったのだった。




「では、詳細は近いうちに連絡させる。それじゃあの」


 神は俺の協力を取り付けると、存外とあっさりと巫女さんに身体を返し去って行った。


 後には俺と、服の乱れた巫女さんだけが残される。


「終わったようですね…………~~っ!?」


 ぼんやりと目覚めた巫女さんは、自分の服装に気付き慌てて胸を抱く。


「♡全く、あのお方は……」


 何やら一瞬不穏に頬を紅潮させ、巫女さんはため息を吐いた。

 

「あ、あの、因みに神様が出てきてる時の記憶とかは……」


 恐る恐る俺が尋ねると、


「残念ながらありません」

「そ、そうですか……」


 その言葉に、俺はほっと胸を撫でおろす。

 だが、


「なので、いつもスマホで録音するようにしております」


 赤いマイクマークの映ったスマホを掲げて俺に見せてくる。


「あ、現代っ子ぉ……」


 その後、件の筆おろし発言を聞いた巫女さんと修羅場になりかけたのは言うまでもない。

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