第87話「悪役令嬢ト侵入者」
俺様達はとある貴族のタウンハウスでの仮面舞踏会に出席していた。
しかし全員仮面を付けているというのは名前の通りではあるんだが、音楽といい雰囲気といいどうも怪しげなんだよな。
舞踏会というだけあってホールで歌を踊っているのだがその様子も互いに身体を絡ませる寸前であったり、思わせぶりに見つめ合ったり。
それが終わると二人してどこかへ姿を消したりするのだ。
なんだなぁ、リアやレイハって未成年も良いところの年齢なんだよな、あまりこういう所にいて欲しく無いんだが……。
【ご案内します。ぶっちゃけると仮面舞踏会はジャバウォック様の前世でいう、陽キャのクラブでの乱痴気騒ぎです。皆この場に一時の出会いを求めて訪れておりますので、教育に悪いのは当然です】
本当かよ、なんか、かなり【ガイドさん】の個人的な偏見が入ってない……? ニュアンスは一発で通じたけどさ。
リアは目立つわけにはいかないので隅の方で壁の華を決め込んでいるが、
レイハは積極的に自分を売り込んでは男をあしらったりしている。見かけ通りの年齢ではないのだが、それはなかなかに様になっていた。
また一人、いかにも遊んでそうな貴族男性がレイハに話しかけて行っているところだ、もう何人目になるやら。
あ、でもまたさらりとあしらわれてるぞ……、あの子本当に何者なんだろう。
いい加減声をかけられるのもうんざりきたのか、リアの所に戻ってきたな。
「レイハお疲れ様~」
「ふぅ、あいつらまったく、ウチの本当の年齢知ったらどんな顔をするのやら。いや……かえって興奮する危ないのもおるかものぅ」
「しかしレイハはずいぶん男のあしらいが上手いな、どこでそんな事覚えたの?おじさん許しませんよ!」
「お主はお主で何を言うとるのじゃ……」
だってレイハってリアより年下のはずなんだよなぁ。故郷ではいったい何をやっていたのやら。
そういえば俺様達はレイハの事をよく知らない、一応冒険者って事で礼儀として過去の事を詮索しないでここまで来ちゃったのよね。
「どんな感じだった?」
「うむ、反応のある貴族が何人もおったぞ、後で子爵に確認せねばな。だがちょっと困った事があっての」
「困った事?」
「うむ、闇の魔力の反応が出るのは良いのじゃが、それが本人なのか”成りすまし”なのか区別が付かんのよなぁ。
2人共捕まえれば判るかも知れぬが、困ったものじゃ」
どっちかは本物だもんなぁ、両方捕まえて経過観察すればわかるかも知れないけど、現状治す?方法がわからないので難しいか。
「まぁ何にしてもそれは全員捕まえればどうにかなる、問題は騒ぎにならない程度に……というくらいじゃな。
あまり派手にやると相手も警戒してこういう場に出てこなくなるじゃろうし」
それは確かに。俺様達の目的はとりあず”成りすまし”の把握だもんな。この後どうするかはまだ決めていいないわけだし。
「ほぅ?お前、”奴ら”を見分けられるのか?」
声をかけられた方を振り向くとそこには妙に威圧感のある男がいた。
仮面を付けているのはともかく、服装は軍服のような仕立てで肩幅も広く身長も180以上はありそうだ。
年齢や顔はよくわからないが黄金の目はこちらを射すくめるかのように睨み、漆黒の髪は波打ち腰まである。
だがそれよりも目を引いたのがその雰囲気だった、まるで歴戦の猛者のような……いや、これは……。
そう、この威圧感はまるで王のような。
「誰?」
「なんじゃ、お主は」
「そんな事はどうでも良い、お前、”奴ら”を見分けられるのか」
その王男はこちらの声なんて無視して自分の聞きたい事だけを聞いてくる。人に命令し慣れているかのようだ。
「どうなのだ、見分けられるのか。”成りすまし”を」
「うむ、見分けられる。関係者かどうかだけじゃがな」
レイハは相手に気圧されたままではいかんと思ったのか、一歩も退かずに男に対峙する。
「ほぅ、いい目だな、度胸も良い。お前ちょうど良い、俺の為に力を使え」
「はぁ?」
「えー」
その男は、「力を貸してくれ」だのお願いはしてこなかった。いきなり命令形というか自分の為に力を尽くすのが当然といわんばかりの態度だった。
おまけにその雰囲気があまりにも自然だったので傲慢とか不遜とかそういうものを感じるどころではなかった。
「いや俺も”あれ”には困っていてな、せめてこの仮面舞踏会で怪しい奴に目星をつけようとおもっていたのだがな、お前のような者がいるのは丁度良かった」
「丁度良いも何も、勝手に決めるでないわ、そもそもお主は何者じゃ」
「そーだそーだ、名を名乗れー」
リアさん……、完全にレイハの子分みたいになっちゃってますが?
「おいおい、ここは仮面舞踏会だぞ?名前や相手を詮索するのはマナー違反だ」
白々しくもぬけぬけとそいつは言い放つ。こいつとは話が通じなさそうだな、かと言って逆らうのは難しいという面倒くさい雰囲気を纏ってやがる。何者なんだこいつ。
「もう一度言うぞ、俺の為に力を尽くせ」
「ぐっ……」
「ぐぬぬぬぬぬぬぬ」
男の覇気とでもいうものにレイハもリアもなかなか抗いがたいらしく、にらみ合いになる。
しかし舞踏会の片隅でこんな事やっていて良いんだろうかと思ったが、元々ホール内が暗めなので目立ってはいなかった。
それでも揉めているようだというのはわかったようで、そこに声をかけて来た者達がいた。
「おいおい、ここで女に声をかけて断られたんなら引き下がれよ。それがマナーってもんだろ」
その声の主は……、おい仮面着けてるけどフェルドじゃねーか。後ろにいるのはどう見てもマクシミリアンだし。何しに来てるんだこいつらも。
「麗しい乙女に声をかけて断られても食い下がりたくなる気持ちはわかるがな「何をしとるんじゃ?フェルド」
「は?」
「なんじゃ、ウチがわからんか、ウチじゃよ」
「そ、その話し方に黒髪、お前!」「相手の名前を出すのはいくら知り合いでもマナー違反ですよ!」
フェルドの言葉をマクシミリアンが遮る。しかしどんどん状況がややこしくなってくるな。
「おい、さっさと俺の為にだな」
「お前何してるんだよマジで」
「だからあなたも無粋な事してますからね」
「ぐむぅ、面倒くさい奴らばかりじゃの、どうしてくれよう」
「むー、よし決めた」
レイハが男どもの扱いに困っていると、リアさんがまた何か余計な事を即決しちゃったよ。
「……で、何故私のタウンハウスに連れ帰ってくるのだ」
「いやぁ、あそこにいたままだと面倒っぽいし、ここしか思いつかなくて」
リアさんは男どもをフィッシャー子爵のタウンハウスに連れ帰ってきた。子爵は当然物凄く物凄く嫌そうな顔をしてるな。当然だが。
俺様だってここに戻る馬車の中の空気は最悪だったぜ。ドヤ顔で座る名前も知らない男、フェルドやマクシミリアン、なんでこいつらまで来るんだと見るレイハとリア。俺様は無心で馬車を進めたんだよ?
「こやつは命令するばかりで名乗らんのじゃ、あのままで揉め続けても今後の為にならんからの……」
さすがにレイハも子爵に対してバツが悪いのか口籠もっている。俺様どっちの気持ちもわかるんだよなー。
「だいたいこやつ等は何者なんだ。いくら何でも身元不明の者を私の館に招くほど私の心は広くないぞ」
「あー、そっちの2人はウチらの冒険者仲間なのだがな、そっちの奴は……誰なんじゃろうな」
フェルドとマクシミリアンはもう仮面を外してるんだけど、名前不明の男だけは今も仮面を着けたままだった。
そいつは応接間の一番良い椅子に迷いなく座り、足を組んでドヤ顔でふんぞり返っている。
異様に似合っている上に物凄く自然なので誰もそれに文句を付けられなかった。
だからこそ子爵も俺様達の方に文句を言っているんだろう。
「おいエルンスト・フィッシャー、子爵だったか? 俺の、いや余の顔を見忘れたか?」
それまでふんぞり返っていた男が子爵に声をかけながら仮面を外した。それを見た反応は真っ二つだった。
まず俺様達3人は無反応だったのだが、フェルドと子爵の反応が凄かった。
「あ、あなた様は!」
「こ、いや、あー、誰だっけなー」
「フェルド、知らなかったとはいえ、また仮面を着けても遅いと思いますよ」
仮面を外した男の顔は傲岸不遜を絵に書いたような、整った顔の20代後半の美丈夫だった。
なんだか仮面外しても雰囲気がまったく変わっとらんなぁ。
「えーと、誰? レイハ知ってる?」
「いやウチは東方人じゃし、有名人といえど知っておるわけなかろう」
女子ってこういう時クールだねー。イケメン相手だろうがリアは恋愛感情薄そうだし、レイハは好みに合わないようだ。
「ふっ、さすがに世を知らないのは少々困ったものだ。まぁ名乗っておこう、余がこの国の皇帝、リヒャルト・ヴィエ・ヴァイスハイトである」
「えーと、ヴィエってたしか皇帝しか名乗れないんだよね?」
「うむ、余は皇帝である。故に皇帝である」
「2回言うたぞこやつ、どんだけ皇帝推しじゃ」
「お、おおおおおお前ら!このお方に対してなんと不敬な!控えよ!控えんか!」
「はっはっは、よいではないかよいではないか」
子爵の大慌てからすると、どうやらこの男は、本当にこの国の皇帝だったらしい。
皇帝を皇帝とも思わぬ女子2人の反応に子爵が俺様達を叱りつけるが皇帝はどこ吹く風だ。
人には偉そうにするが、自分に対しては少々失礼な事をされてもあんまり気にしてないらしい。
つまり他人の言動をかなり軽く見ているという事ではあるんだろうが、心が狭いよりはよほどマシ、な気がする。
「まぁ聞けエルンスト・フィッシャー子爵、余も少々困っておってな、皇帝宮に侵入した”成りすまし”にこの国を乗っ取られてしまったのだ、早急に解決せよ」
はい?
次回第88話、「悪役令嬢ト皇帝」
読んでいただいてありがとうございました。
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