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最終話「エピローグ」

20年後―――。


レイハはグランロッシュ王国南部の大森林、『神王の森』の最奥にある(エンシェント)エルフ達の隠れ里で神王樹を見上げていた。

あれから20年、リアと離れ離れになった後、流れ流れて最終的にここに安住していた。

途中でグランロッシュ王家が真っ二つに割れるお家騒動に巻き込まれたりしたが、それも今は思い出の一つでしかない。

結婚し、子供も2人生まれ、長女の方はあの頃のリアと同い年くらいにまで成長していた。だが、まだリアとは再会できないままだった。

思えば、心を通わせあったような気がしていたルクレツィア、そしてリア達。自分は置いて行かれて取り残されてばかりだな、そんな思いだった。

リアの側にはデコトラのジャバウォックも共にいるだろうから、今もどこかを走ってはいるだろうが、生憎とそういう噂は聞いた事も無かった。

彼女らが走っているのは過去か未来か、それとも全く違う何処かか……。


自分の感傷を他所に神王樹は今日も高く大きくそびえ立ち、初春の今は枝に多くの花を付けている。

その花はレイハの故郷の桜にも似ており、今日は花見が催される予定だ。



「おおー、これだけ大きいと花見もアガりそうねー」

「前世の桜に似てるっスねー、お姉様。」

「お二方、はしたないですよ、あとクレア様、そういう事は小声で」

かしましくも賑やかにやって来たのは、魔法学園でニ年生となった娘の級友達だ。神王樹は桜の花のように満開になり、毎年宴が開かれると話したら、祭り好きの娘達が押し掛けてきたのだ。


大樹の前の広場に敷物を敷き、傘を立てて宴の準備が始まっている。その中には甲斐甲斐しく働くお仕着せ服の少女たちもいた。

「ドロレス、こちらはもうこれで良いわ、馬車から料理を持ってきて」

「はーい」

面差しのよく似た2人は姉妹だろうか、片方は侯爵令嬢ロザリアの侍女というのは知っているが、もう片方は見覚えが無い。

”アデル”の姿を見たレイハは、これがあの時の赤子かと感慨深く思いながら声をかける。

彼女は影の里でたくましく育ち、今はロザリアの護衛兼侍女として仕えているというのを聞き、本来であれば王女として育ったはずだが、それもまた一つの生き方だと思ったものだ。

「やぁ、アデル、だったかな?久しぶりだね」

「お久しぶりですレイハ様。本日はお招きいただき有難うございました、ほら、ドロレス、貴女も挨拶なさい」

「あ、こんちは」

「もう少し丁寧に、まったく貴女は」

アデルに頭を叩くフリをして窘められた少女は、頭を押さえて逃げた後、じゃれるようにアデルに抱きついていた。

その様子は仲の良い姉妹のようだったが、ドロレスと呼ばれた少女の方は初対面のはずだ。

「仲が良いのだな、親戚の子か何かかな? 私は始めて見るが」

「双子の妹です。色々あってこの間、再会できました」

それを聞き、アデルは双子で生まれたが、片方は死産だったはずなのを思い出したが、二人の面差しはどう見ても姉妹だった。

娘からも『この間の騒動』でロザリアが神界とやらで色々あったと聞いていたから、そんな事もあるのだろうなとも納得した。

「ああすまない、仕事の邪魔して悪かったね」

そう声をかけると、二人はぺこりと頭を下げてまた宴の準備に戻っていく、ああ、できればあの王妃に、あの子達の母親に、できればこの光景を見せたかった。


ロザリア達の他にも続々と客はやって来ていた、今日は賑やかになりそうだ、その中には自分の娘のサクヤもいる。

「まったく、毎年毎年こんな花を拝んで何が楽しいのかしら。私は見飽きてますわぁ」

「サクヤさん、貴女も一応、東の国の皇族に連なる身分とは聞きましたわ、もう少し情緒というか風情というものをお感じになっては?」

「何をおぬかしになられてますの。貴女こそ、この花を見て、これを見世物にしたら儲かるのでは?とか思ったでしょうに」

「なっ!? 私はそんな事思ってませんわよ!? まぁ、ある程度の身分の人に限定して公開したらいけそう、とは思いましたけど!」

サクヤも友人が増えたものだ、少々変わった子だとは我が子ながら思っていたが心配は無さそうだ。

今話しているのはどこかの貴族令嬢っぽいが、魔法学園の制服を着ていないので、学園外で知り合ったようではある。


「あ、サクヤ様のお母様ですわね。本日はお招きいただき有難うございます。ルクレツィア・フルーヴブランシェと申します」

礼儀正しく頭を下げる少女にもレイハには見覚えがあった。まさか、とは思ったが確信があった、彼女だ。ああ、還ってきていたんだんだね、ルクレツィア。

聞けば貴族令嬢でありながら、斬新な発想で様々な商売をしているとか、反面魔力は全く持っていないとも。自分の娘と仲良しているのも、元々相性がよかったのだろうな。

運命も、生命も、全ては廻っていく。そしていつか交差する事もあるのだ。置いて行かれたとばかり思っていたのは思い違いだった、自分は見届ける者だったかもしれない。


「ああ、今日はようこそ、私の娘と仲良くしてもらっているようで嬉しい、変わった子だとは思うけどよろしく頼むよ」

「ちょっと母上、私のどこが変わっていますの!」

「いえ十分変わってますわよ……」

娘をなだめながらレイハは宴の席へと向かう。向かう先には夫や息子の姿もある、ああ、全員ではないが、また皆と同じ時を生きられる。


「リア、今は何をしているんだ?どこを走っている?あんまり遅いと私はおばあちゃんになってしまうぞ?『またいつか会える』と自分で言ったのだろう?」

レイハは空を見上げ、誰に言うともなく呟く。

ふと、その空を何かが横切る。鳥等の見間違いというには少々大きい。あれは、あの四角い何かは、あの独特の音は―――。


ああ、声をかけてやらないとな、『おかえり』と。


ー完ー

お読みいただきありがとうございました。

あとがきもできたらお読み下さい。

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