第103話「悪役令嬢ト嵐ノ前ノ静ケサ」
「あの近辺だ、降ろしてくれ。あれがこの地の『影の民』の里のはずだ」
俺様達はしばらく飛んで目的地らしき所に辿り着いた。忍者さん(もう面倒くさいので心の中ではこう呼んでいる)が指し示すのは国境の山脈にも近い山間の山村だった。
「話には聞いていたが、やはりこの辺りはローゼンフェルド公爵領になるなぁ」
「ローゼンフェルド侯爵はこの事をご存知なのだろうか? 彼らとて何らかの生業はしているだろうし、国にとっての害になっていないと良いのですが」
フェルドとマクシミリアンはこの辺りの事情に詳しいようだ。もうそろそろこの二人の事情とか聞いておいた方が良いんだろうか。
『彼らの生業』というのも気になる所だ。
「なぁ、聞いて良いか? 生業って何をしてるんだ?」
「……姫君、先程からこの移動する部屋の中に鳴り響く声は何なのですか?」
俺様の声に思い切り訝しげな顔をされてしまった。かといって運転室の中でデコトライガーの姿で出てもややこしくなるかもなぁ。
「こやつの声はまぁ気にするでない。何をしてるかはウチも気になる、お主達が主を定めていない時は何をしているのじゃ?」
「普通は、諜報や調査、あとは暗殺でしょうね」
忍者さんの言葉にフェルドとマクシミリアンが渋い顔をした。まぁ国の中でそういう集団がいたら良い気がしないわな。
「おいおい……」
「下手をするとローゼンフェルド侯爵の責任が問われますね。というか子供を預けに行くのも本来許可を取るべきなのですが」
「おい、産まれたての子供の命が絡んでるんだぞ。そのローゼンフェルド侯爵ってのがどこにいるかわからんけど、もう何時間も時間が無いんじゃないか?」
俺様はそんな国や人の事情とか知った事では無い。今はリアやレイハが二人してなんとかして動物のミルクを薄めたものを何とかして飲ませようとしているが、これが正しいかどうかもわからない。のんびりしている暇は無いはずなのだ。
「とはいえ、ローゼンフェルド侯爵への根回しだって要るのは本当だぞ、王家……、だって領内では勝手な事できないんだからな」
「前もっての根回しには『影の民』への懐柔工作、または配下に加えてしまう等するしかありませんがねぇ、本来1~2年はかかるでしょうな」
「だから! 俺様がさっき言ったように! そんな悠長な事やってる暇なんて無いだろ!」
【ご案内します。それではその時間を作りましょう】
【……という手順です、いかがでしょうか?】
いかがでしょうか? と【ガイドさん】に言われても俺様達は困るしかなかった。
「あの~【ガイドさん】? もう少し、何とかならない?」
【ご案内します。現状この幼児の生命を維持した上で時間稼ぎするにはこれしか無いと思われます。これならば時間十分にあるので、ゆっくりと赤子の受け入れ工作を行えますが?】
「いや……、リア、どう思う?」
「良いと思う、このままだとこの子死んじゃうかも」
「姫君、その、さすがにこれはどうなのですか? 私が言うのもなんですが、本当に良いのですか?」
「お主が止めるとはよっぽどじゃの。まぁウチもそう思うが……」
正直俺様もみんなもドン引きしている。手段を選ばないにも程があるからだ。
唯一リアだけが賛成している状況ではあるが、託されたリアの意思を優先する事になった。
「えーと、ではお主がするはずだった偽装工作を教えてもらえるか?」
「……こんな偽装は始めてですよ姫君、とりあえずその辺で調達して参ります」
「一応聞く、何をじゃ」
「死体ですが。赤子だけが寝かされていてはどう考えてもおかしいでしょう、赤子を抱えて力尽きたように偽装しますので」
「これ以上ややこしい事を持ち込むでないわ!」
こっちはこっちで物騒な事言ってるなあ、俺様の周囲はこんなのばっかりかよ。
【ご案内します。それでしたら先程のテネブラエ王宮で多数の情報を確保いたしましたので、死体のダミーを作成いたします。数年は形を保てますので問題は少ないかと思われます、あの里は土葬のようですので】
材料は全て揃った、揃ってしまった。本当にやるの……? と皆が顔を見合わせる。忍者の人ですら覆面の下で困惑するのがわかる。
俺様達は気配を殺しながら遠くに見える里へ近づいて行く。一応見つかっても大丈夫なのだが、わざわざ騒ぎを起こす事も無い。
里の入り口には当然見張りのような者がやってくる。しかしその姿は忍者とは違い、どこにでもいる一般人に見えた。見張りというより何気なく立っているようにしか見えない。
「あれは見張りなの?」
忍者さんに問うリアは既にデコトラアーマーを着込んでおり、腕にはデコトラガントレットが装備されている。
「そのようです、身のこなしが我々と同じです。里の中には一般の人々もいるようですが」
俺様達には村の入口に誰か立っているようだけど、忍者さんは里の中まで見えてるらしい。どんな視力してるんだろ。
「まずい、気づかれた」
ええ!? 里に近づいている途中に忍者さんが警告してくれたけど、数百メートルは離れてるぞ!?
とはいえこっちの忍者さんが見えてるわけだしあっちからも見えるのか。
「おいどうするんだよ! せめて村の近くのそれっぽい所とか、せめて夜とか」
「それじゃこの子死んじゃう! 今やるしかなかったの!」
「おい、それを下ろせ、もう時間が無い」
俺様とリアが言い合っている間にレイハはフェルドに指示を出している。
彼が抱えているのはダミーの死体だ、とはいえちゃんと血も流れているし匂いだってする。
【ご案内します。この距離・時間であれば調整が効きます、即座に実行をお願いたします】
フェルドは死体を地面に降ろし、レイハが抱きかかえていた赤子をその胸に抱かせる。
赤子をくるむのは王妃からもらった敷布だった、王妃の名前である『アデライド』の名前が縫われているのでこの子の名前と思ってもらえるはずだ。
「リア、用意できたぞ」
レイハの言葉にリアはデコトラガントレットの拳を構える。さすがのリアも緊張気味だ。
リアは拳にDEをチャージする、その光は結構強いので里の前の人物が明らかに警戒を始めた。
何か指示があったのか里の中から何人も出てきてこちらに向けて走ってきた、かなりのスピードだぞ、このままでは何分もしないうちにこちらに来る。
「【ガイドさん】! 大丈夫か?」
【ご案内します。問題有りません、時間、空間の調整完了、実行して下さい】
「さすがにごめんねぇええええええええええええええええ!」
「まったく! いつもながら! 悪趣味過ぎるぞおいいいいいいいいいいいいいい!!!」
リアが絶叫と共に赤子を巨大な拳で殴り付けた、同時に【ガイドさん】がスキルを発動する。この子の安全の為とはいえ思いっきりぶん殴らないといけないんだから失敗してくれるなよ!
【ご案内します。スキルは正常に発動、対象の赤子を5年先の未来に転送、位置・時間の微調整問題有りません。余剰エネルギーで我々の転移を開始】
成功したようだな、さて、俺様達も行くべき所に向かわないと。
「逃げられてしまうとは、まったくあのデコトラ、どんな機能があるか全く予想が尽きぬな。本当にこの後大丈夫なのか?」
時間は少々遡る、発掘現場でジャバウォック達に逃げられたダルガニア皇帝は、協力者のグランロッシュ大公爵アルフォンゾとその配下らしい古エルフのフレムバインディエンドルクに苦言を呈していた。
「文句を言いたいのはこちらもなのだがな。フレムバインディエンドルク、『スサノオ』まで失ったようだが?」
「いえいえいえ、あれは転移のようですので待っていれば戻ってきますよ。どうやら時間転移と空間転移を使いこなせるようですが『スサノオ』はスキルか魔術の発動の為の触媒に使われたようですな」
フレムバインディエンドルクの語る情報にアルフォンゾはわずかに表情を変える。
「古代デコトラ文明から存在する伝説のデコトラを都合の良い道具扱いか? あいかわらず面白いな」
「おい、話が違うぞ、そのようにのんびりしている余裕があるのか? この後の戦争には『デコトラ』が必要なのだぞ?」
だが皇帝はそれが気に入らないようだった。彼は自分の研究のスポンサーなのでフレムバインディエンドルクがなだめに入る。
「まぁまぁまぁ、心配いりません。先程も言いましたが『スサノオ』は単に時間転移させられただけです。しばらくすれば戻ってきますし、予め準備しておけば現れた『スサノオ』はどうとでもできますよ」
フレムバインディエンドルクはふてぶてしくも皇帝に言い放つと、周囲のデコトラ素材を物色し始めた。彼にとってはこの遺跡は単なる金属のガレキの山ではなく、己の魔法技術の為の触媒の山のようなものだ。
次回、第104話「悪役令嬢ト決戦」
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