第102話「悪役令嬢ト逃走」
「リア、泣くのは良いがその子を離すでないぞ」
「うん……」
俺様達はテネブラエ城から脱出し、とにかく離れている所だ。飛び続けるほどの余裕も無いので途中からは荒野を走っている。
リアの胸には王妃様から預かったまだ赤子の王女がいる。とはいえリアも子供を抱いた事など全く無く抱き方もあやし方も拙いものだった。まぁこの場にいる全員がそんな経験は無いんだが。
「どうする?せっかく預かったわけだけど俺様達ではどうしようもないぞ」
「というか、そろそろミルクとか要るんじゃないか?おしめだって要るだろうしすぐにでもなんとかしないと死ぬぞ」
俺様は車内の皆に誰言うともなく聞いてみたが、意外にも答えたのはフェルドだった。しかも中身は現実的でわりと差し迫った事だ。
【ご案内します。その年令の乳幼児であれば、数時間世話をしないだけで命の危機に晒されます。早急に母乳の摂取や安全な所への避難が要求されます】
子供って預かるだけじゃ済まないんだよな……、ましてこんな赤子だと。仕方ないので俺様は現状確認の為にもフェルドと話をする事にした。
「なぁフェルド、この子はどこかに預かってもらうしか無いか?心当たり無いかな?」
「俺の家って手もあるんだが……、その子の身元が問題すぎる。その子はテネブラエ王族の生き残りな上に、見た目が特徴的過ぎるんだよ」
リアの腕の中の子はやや浅黒い肌に翡翠のような碧色の目、子どもの頃から整った顔立ちと、大きくなったら美人になるんだろうなという、この辺りでは珍しいものだった。
リアだって元はテネブラエの貴族なのに見た目は白い肌に金髪と全然違うからな。
「南方の生まれとごまかすにしても、この翡翠のような目というのが厄介なんですよね。どう見てもテネブラエ王家の特徴を受け継いでるようにしか見えない。フェルド、貴方の家とさっき言いましたが、あなたの家こそ一番厄介なんですよ」
マクシミリアンがため息交じりで口を挟んだ。話聞いてるとこの2人ってグランロッシュ国の関係者っぽいんだよな。
「やっぱ駄目か?これからテネブラエとその周辺は大混乱になるだろうからな。
おそらく多数の難民が周辺各国に散らばるだろうが、その中に王族の生き残りがいないかと残党狩りが始まる」
「私もそう思います。正直言ってこの子にとって安全な所なんてそう無いですよ?
これから侵攻してくるダルガニアは論外として、西側の隣国グランロッシュも政治的緊張に晒されます。
おそらくグランロッシュには多数の貴族が亡命してくるでしょうが、彼らにこの子の存在が見つかるのも好ましくないですね。どう考えても政治的に利用されます」
うん、詰んでるなこの子。まず生まれたての子供の子育てというのがデコトラで旅をしている俺様達と相性が悪すぎる。
子守りの為にリアのメイドのケイトさんを乗せる為に戻るのもどうなんだろう?
「リア、ケイトさんって子守りとかできたっけ?」
「……わかんない」
うん、戻る為に時間を浪費した挙げ句「子守りなんてできるわけないじゃないですか」とか言われたら何のために戻ったかわからなくなるな。
「あまり何でもかんでもケイトに頼るのもどうかと思うんじゃが」
レイハの言う事ももっともではあるんだが、メイドさんってわりと何でもできるイメージあるんだが……。
【ご案内します。メイドというのは職業婦人の総称のようなものです。それぞれの仕事は細分化されておりますので、子守りの技能をお持ちの可能性は50%です】
【ガイドさん】を持ってしても確率は半々か、ますますこの場で何とかしないといけないか。
「ふむ……、ウチに心当たりが一つ無くも無いが……、うーむ」
「何か問題でもあるの?」
「レイハ、こう言っては何だけどこの子の命が助かるなら多少の事は目をつぶるべきじゃないか?」
レイハが何やら考え込んでいるが、リアが言うように何か問題あるとしても今は一刻も早くこの子の里親でも何でも見つけないと命に関わる。正直あまり時間は無い。
「仕方ないのぅ、おい、『影』」
「お呼びですか?子守りは我々の任務外としか言いようがありませんが」
レイハが声をかけると、背後からにじみ出るように黒装束の人物が現れた。あ、さっきの忍者だ。
というか今ってこのデコトラ走ってるんだけど?どうやって乗り込んできたんだろう。
【ご案内します。個人単位の転移魔法を感知いたしました】
忍者が突然姿消すあれって転移魔法だったんだ。
「別にこの子を世話しろとは言うておらん。この子、お主らの里に預けられんか?」
「お言葉ですが何も変わっておらぬではありませんか。私の転移術では日之元国までは遠すぎて戻れませぬ。
道中子守りをしながらというのが任務外だと言っているのです」
「まぁそうじゃろうなぁ。じゃがお主ら、国の朝廷が2つに別れた時、お主らも二派に分裂した事があったじゃろ、
その一派がこの辺り流れ着いたという報告を受けた事があるぞ?遠すぎるので放置しておったが」
「まさかそこに私が手渡しに行けと?隠れ里に近づいただけで抹殺されますよ」
「じゃからそこは上手いことやってくれんか?里の近くで引き取られるように工作してくれれば良い」
ちょっと待て、レイハってもしかしてこの子を忍者の里みたいな所に引き取らせようっての?
「おいレイハ、お前その子を忍者にでもする気なのか?」
「だから何じゃそのニンジャというのは、影の民はあちこちから子供や孤児を引き取ってきて育てておる。
こやつはその生まれゆえ今後様々な危険に晒されるのじゃろ?ならば自分の身は自分で守れるよう育つのが良かろう」
それって人生ハードモードにならんかなぁ、王女として生まれたのに忍者として育てられるようなもんだぞ。
「おいジャバウォック、この者はもう王族でも貴族でも何でも無いのじゃぞ。表立って誰かの庇護の元で優雅に暮らすというのも難しかろう、ならばこの者自身に生きる術を身につけてもらわねばならん」
「ねぇレイハ、でもそれってこの子にとって幸せなのかな?」
「リア……、貴族の生活をあっさり捨てたお主が言うか。幸せなぞ個人それぞれで違う、まず生きておらねば何にもならんぞ」
リアはレイハの言う事に納得できなくとも、今のところそれくらいしか道が無い事は理解したようで、渋々頷いた。
「よし、こちらの意見はまとまった、すまぬが頼まれてくれぬか?」
「まったく勝手な事を言う、近くまで連れて行くだけだぞ。あと引き取られる為の工作もこちらに任せてもらう、これを北に向かわせてくれ」
忍者の人も一応は協力してくれるらしい、余程不本意なのか口調がちょっと雑になってるな、それでも協力してくれるのは自分の境遇と重ねてしまったのかも知れない。
俺様達は飛行に移り、北西を目指した。目指すのはグランロッシュの西北の辺りらしい。近づいてみると国境の山脈が連なる辺りらしい。
次回、第103話「悪役令嬢ト嵐ノ前ノ静ケサ」
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