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第101話「悪役令嬢ト別離」

「王妃様を助けに行かないと!」

「待て待て待て待てリア! とりあえず落ち着け! まずどこにいるのかもわからんのじゃぞ!」

「王妃様なら城内で会ったことあるもの、部屋にいるんじゃないの?」

「冷静に考えよ、あんな状態で呑気に王妃の部屋にでもいるはずが無かろう」

リアをなだめるレイハの言う通りだった。まだ本格的に城内に攻め込まれてはいないようだが、近づくと城内のあちこちからも火の手が上がっていたのがわかる。

多くは城外からの火炎瓶のようなものだろうが中には城内で兵士とやりあっているらしき人もいる。

そんな状態で庭園の中にある部屋にいるはずもないだろう。下手をすると人質にされかねない、いやそれどころか怒りに任せていきなり命を取られても仕方なかった。


「とにかくあんな状況の中を無闇に突っ込むでない、デコトラで魔物相手に暴れまわるのとはわけが違うのだぞ?」

「でもここで黙って見てたらそれこそ取り返しがつかなくなるでしょ! 無闇にでも何でも探し回ったほうがまだ可能性がある!」

この意見もまた一理あるのが困った所だ、とはいえ城と一般住民が入り乱れているあの中で見つけるのは相当な困難だろう。

「【ガイドさん】、どうにかならないかな?」

【ご案内します。現状では情報が少なすぎ、確率論でしかお答えできません。

 以前主様がこの城を破壊して回った状態からの予測される修復状況、現在の破壊状況を考慮するとある程度は所在地を絞り込めるかも知れません】

「以前城を破壊した、って。リア、お主何をやらかしたんじゃ……」

「え? じゃばばで城の中を走り回っただけだけど?」

「だけ、って……」

そういえばレイハはリアのこの国での事をあまり知らないのか、あの時はこの国なんて出てやるー! と何も気にせず走り回ったからなぁ。

あれからそう経っていない事を思うと案外住める箇所は少ないのかも知れない。


【ご案内します。現在の状況から考えますと、王城の中心の下層部に何らかの退避箇所が用意されているものと思われます。そこで避難している確率、60%】

【ガイドさん】が確率を計算してくれたけど、残りの40%はあまり聞きたくない状況だなぁ。

「まぁ、城なら普通そういうのは用意されてるな、けど城外への抜け穴とかだってあるぜ?既に逃げた後かも知れない」

「……ううん、王妃様は、きっと自分の部屋にいる」

リアはフェルドの助言受け入れなかった。王妃様なら城を枕に討ち死にタイプって気はたしかにする。

【ご案内します。この国に関しては色々と情報が不足しておりますが、その確率は最も低いかと思われます】

「それでも行く!」

リアはアクセルを踏むと、一旦上空高くまで車体を上昇させ、王妃様の部屋があった建屋の真上に車体を位置づけた。

「かなり高いから今は気づかれぬじゃろうが、ここから降りていったら目立つぞ? 一戦交えるのがやぶさかでないなら良いが」

「……あまり兵士とかの人は傷つけたくないなぁ。王族とか貴族ならどうでも良いけど。」

王族貴族に対するこの辺はリアの私怨も入っちゃってるから仕方ないとして、今騒ぎを起こしたらもっと取り返しがつかなくなる可能性があるな、それこそ人死にがいくら出ても足りなくなるくらい。


しばし考えたリアは、【ガイドさん】に指示を出した。

「【ガイドさん】、デコトラミサイル、できるだけ人のいない所に」

そう言うとリアは庭園に向かって一直線に車体を下降させ始めた。

「危険じゃぞリア!目立つのではないか?」

「だからデコトラミサイルで爆破を起こす!」

はるか下の方で小さな爆発が起こった。なるほどこんな状況ならわざわざ爆発の所に近づこうとする者もいないだろう。俺様達は爆発のあった所に一直線に降りていった。

「とはいえもう少しゆっくりとは降りられんのかー!? もう地面じゃぞ!」

「【ガイドさん】!止めて!」

そう言うや、リアはブレーキを踏むと共にハンドルを思い切り回し、車体を180°回転させてデコトラを天に向けた。

同時にまたアクセルを吹かして逆噴射の要領で一気に減速させた、細かい制御は【ガイドさん】頼みだ。

程なく、俺様達は城の庭園に降り立った。このままでは目立ちすぎるので皆下車してもらい、俺様はリアのネックレスへと姿を変える。ちなみにフォルトゥナは猫の姿だ。

目指す王妃様がいた建屋はすぐ目の前だったが、既にここにも騒乱の爪痕は見える。あちこちの建物に火が放たれ、何人もの人が転がっていた。

それは兵士や一般市民、城の職員、貴族らしい人物と別け隔てなく犠牲者が出ていた。


「もうこんな所にまで、リア、もしかしたらもう」

「いる! 王妃様ならあそこに!」

リアは迷いなく建屋の中に入る、が、そこも既に色々と略奪・破壊の跡が見て取れた。床には女官らしき人が何人も血を流して倒れており、明らかに何らかの襲撃の後だった。

「遅かった、ようじゃな」

「でもでもー、王妃様は? この倒れてる人たちは違うっぽいんですけどー?ヽ(・ω・ ;ヽ)三(ノ ; ・ω・)ノ」


「テネブラエの王妃なら俺も顔は見た事がある、この中にはいないな。服装を変えていてもわかる」

「どこにも、いないようですね。他を探さないと」

フェルドとマクシミリアンも探してはくれていたがあまりここに長居したくないようだった、周辺でもそれなりに人の声がするからな。


「【ガイドさん】、『スキル:存在感知』を使って王妃様を探して」

そうか、その手があった。レベルが上ってしまっているが至近距離なら誰か隠れているかくらいはわかるだろう。

【ご案内します。前方右奥の部屋、おそらくクローゼットルームと思われます。その中に()()の存在を感知いたしました】

それを聞くや、リアは一瞬で駆け出して行った。

飛び込んだ先のクローゼットルームも酷いものだった。高価であったであろうドレスが多数持ち去られた形跡があり衣服が散乱していた。

一見するともう誰もいないように見えるが、その部屋の奥、そこに彼女はいた。

王妃は赤いドレスの胸元に何かを抱えるようにしてうずくまっている。こちらの気配を感じて敵が来たとでも思ったのか身を隠そうと身体を奥へやり身を小さくしていた。


「王妃様!」

「む……、誰かと思えばそなたか。しばらくぶりじゃな」

リアが駆け寄ると安心したのか王妃は安堵の声を漏らした。抱えているのは赤子……? そういえば子供がお腹にいると言ってたっけ。

「お子様、無事に産まれたんですね」

「ああ、半分だけ、な」

「? どういう事ですか?」

「双子だった、片方は死産でな……」

「そんな……」

リアはかける言葉も無かった。片方だけでも産まれて良かったなんて無責任な事は誰も言えなかった。

皆、しばらく無言だったがリアは王妃の手を取った。


「王妃様、逃げましょう。もうこの国は終わりです。貴女とこの子だけでも逃げないと」

「……はは、それはできぬな」

「なぜ!?」

「私は王妃だからだよ、私はこの国で王妃として生きてきた。この身、血肉は全て国民からの搾取でできておる。逃げるわけにはいかんのだ」

「でも王妃様は! だったら私もここに残って戦います!」

「バカな事を言うでない、王族貴族が自国民に剣や槍を向けて良いはずが無かろう?

 だがそなたは違う。そなたはこの国を出て数ヶ月とはいえ自分の力で生きていたのであろう?

 ならばその血肉は全て自分の力で得たものだ、生きねばならぬ」

俺様達は絶句するしかなかった、あまりにも壮絶な王族としての決意と覚悟、この女性を説得するだけの言葉が思いつかなかったのだ。


「それでもこの子の命だけは惜しくてな、無様にもこんな所にこそこそと隠れておった。

 だが、これも何かの巡り合わせかも知れぬ。アウレリア嬢、この子だけでも連れて逃げてくれぬか?

 この子はもうすぐ何もかもを失う。自分の産まれた国も、父親や母親も、同じ時を生きるはずだった妹も、全てをだ」

「だからって、王妃様まで失う事はないでしょう!? 今貴女も逃げなければ本当に全てを失います!」

悲鳴にも似たリアの言葉に、王妃はそっとリアの頭を撫でた。

「そなたは本当にこの国には似つかわしくない優しさを持っておるな、だがもう間に合わぬのだよ、見よ」

王妃の目線の先を見ると血溜まりができていた。薄暗くて気づかなかったが王妃は深い傷を負っていた。ドレスが赤いと思っていたのは彼女の血だった。どう考えても助かる見込みは無かった。


「つっ! 誰か! 誰か治癒魔法使えないの! お願い! 王妃様の傷を治して!」

「無駄じゃ、治癒魔法では傷は治せても失った血は戻らぬ、もう助からぬよ。頼む、この子だけは、もうそなたにしか頼めぬのだ」

「そんな、そんな……」

リアは震える手で赤子を受け取って慣れない手つきで抱きしめた。王妃はリアの胸元に手をやり、そっとその子の頭を撫でた。

「ふふ、つい昨日産まれたばかりで名前も与えてやれなんだ。ろくに乳も与えてやれず、こんな状況では考える所では無かった。だがせめて名前はと言われてもすぐには思いつかぬな、こんな時なのに。ふふ、ならば私の名、アデライドとするか」

「アデライド……」

「気高い姿という程の意味だよ。アデルとでも呼ばれると良いな。この子にはもう何も残されておらぬが、せめて家族や妹の分まで自分の腕一つで強く気高く生きて欲しいものだ。さぁ行け、私は自分の死ぬ所をそなた達に見せたくない」


「行くぞリア!」

「離してレイハ! 王妃様!」

「これが王族というものじゃ! 国を失い命まで奪われた無様な姿を見られたくないという気持ちを察してやれ!」

「でも! でも! こんなのあんまりじゃないの!」

「リア、と呼ばれておるのか。リア、最後に会えたのがそなたで良かった。さらばじゃ」

「王妃様ー!」

リアはレイハに強引に引き離されてその場を立ち去るしかなかった。もうこちらに誰かがやってくる気配がしていたので限界だったのだ。



「行ったか、さて、これも運命の恵みというならば、最後の偽装をせねばな」

一人残された王妃は最後の力を振り絞り、身体をひきずり、半ばはいずるようにして移動した。その先の部屋にあったのは小さな幼児用のベッドだった。

そこに宝物のように寝かされていたのは、死産した妹王女の亡骸だった。埋葬するまでのわずかな間だが、せめてもと手元で安置していたのだ。

王妃は震える手で赤子の亡骸を抱き上げ、胸に抱いてそっと口づけをした。

「すまぬな、そなたの姉の安全の為にそなたの死まで利用する事になるとは。そなたは本当に悲しい存在じゃな、せめて最後は母と共に逝こうぞ」

涙ながらのそれが、王妃の最後の言葉だった。子供が双子で片方が死産だったというのはまだ公にはされていない、自分がここでこの子と共に死ねば、連れて行かれたアデルは無事なはずだ、そう願うしかなかったのだ。



「おやおや、色々探してみれば、まさか自分の部屋のある所とは、逃げなかったとは気高い事で」

しばらくしてそこに現れたのは、元エンシェントエルフで、ダークエルフに身を堕としたフレムバインディエンドルクだった。

「大人たちは魂が腐っていて使い物になりませんが、ふむ、王妃も他国の生まれゆえ役に立ちませんね。

で、この子がテネブラエ最後の王女というわけですか、死産だというのに母親とは健気なものですな。これならば純真無垢な良い魂が得られますね」

フレムバインディエンドルクは既に死亡している王妃の胸から赤子の亡骸を奪い取った。

「我ながら少々趣味が悪いですが、私のホムンクルス研究の為には欠かせない素材なのでね。ん?この王女、魂の形が?まさか双子なのですかね、まぁ良いでしょう、研究すればわかる事です」

やがて彼も姿を消し、後に残されたのは王女の亡骸だけだった。程なくテネブラエ神聖王国は全ての王族を失い、滅亡する事となる。


次回、第102話「悪役令嬢ト逃走」

読んでいただいてありがとうございました。


基本的に月水金 夜の5時~6時頃で更新いたします。

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