「月が綺麗だよ」と言われても、夜空に浮かんでいるのは消えかけの三日月なのですが?
ここは、国の王城にある煌びやかな舞踏会会場、の外にあるバルコニー。
しかも夜に開かれているからか、バルコニーのある外は少し風があって肌寒く、空は晴れているけれど、星と月がまばらにあるだけです。
「…リニア様。バルコニーに私を連れてきて、どうしたのですか?」
ふとここで、バルコニーに連れてきた婚約者・リニア様に、私は率直な疑問をぶつけました。
すると、リニア様は甘くて優しい笑顔を私に向けながら、空に浮かんでいる月を指差しました。
「メラニー、実はこの月を君に見せたくてね。ほら、月が綺麗だよ」
そう言って幸せそうに笑うリニア様が、カッコよくて眩しくて、つい「はい」と言いそうになりましたが…。
ん?これって、三日月ですよね?しかも消えかけてますし、綺麗とは…言えませんよね?
「あの…リニア様?あれって、三日月ですよね?しかも消えかけの…」
「えっ!?えっええっ!?ま、待ってくれっ!あ、あれっ!?うっそー!?」
あ。いきなり口を尖らせてあからさまに落ち込んでいて、いつものリニア様に戻りましたね。
さっき「月が綺麗だよ」って言っていた凛々しいリニア様は、外面の、つまり次期伯爵家当主の顔だったのですが、今の彼は言葉も顔も崩れて子供のようです。
むしろ、私は外面のリニア様より、今の方が好きなんですが…。
まぁ、とりあえず彼はカッコつけたかっただけのようですし、「月が綺麗だよ」に対する返事も分かっていますので、伝えておきましょう。
「ふふっ。リニア様、貴方と見るからこそ、この消えかけの月でさえも綺麗なのですよ?」
「ふぇ!?メ、メラニー…!」
「けれど、私は満月の方がもっと綺麗で、好きなのです。なので、次の満月の夜になったら、私の実家である子爵家の庭で、また同じ言葉をかけて下さいませんか?」
「メラニー…。うん、うんっ!もちろん言うよ!大好きだ、メラニー!!」
「きゃっ!…っととと」
…ふぅ。急にリニア様からギュッと抱きしめられて、思わず体勢を崩しかけましたが、すんでのところで踏ん張ることが出来ました。
全く、本当にこの姿のリニア様は、後先考えずに突っ走るんですから。…まぁ、そう言うところも可愛くて好きなんですけどね。
私は軽くため息をついてから、リニア様を抱きしめ返し、彼の耳元でこう囁きました。
「私も大好きですよ、リニア様。だから、また私にロマンティックな愛の告白を、よろしくお願いしますね」
ここまでお読み頂きありがとうございます!
よろしければ、感想や「☆☆☆☆☆」の評価、いいね等お待ちしております!(^^)