帝都へ向かう
翌朝カイトとアルは冒険者教会に来ていた。リサとサラと待ち合わせをするからだ。どうやらカイトとアルが先に到着したらしい。
「せっかくBランク冒険者とパーティー組めたんだしパーティー名とか決めたいよな」とアルが言う。
「まだ仮のパーティーだけどな。ただクエストを受けるときや報告するときにパーティー名が必要だったはずだ」とカイトが言う。今日のクエストを受けるときは受付嬢に無理を言ってパーティー名なしで受けて、クエスト中にパーティー名を考えて、報告のときにパーティー名をだそうとカイトは考えた。考えているうちにサラとリサが来たようだ。
「おはよう。待たせちゃったかな」とサラが言う。
「いや、今来たところだ。何の討伐クエストを受けようか」とカイトが言う。
「ゴーレムの討伐なんてどうだ」とアルが言う。ゴーレムはこのパーティーと非常に相性が悪いまず、雷と風の魔法が無力に等しい。サラの槍も貫通特化にしていれば別だが基本相性は悪い。そして、カイトも貫通性能のあるスキルはまだ取得していない。
「ゴーレムは私無理だわ」とリサが帽子を触りながら言う。
「魔法使いですもんね。よく考えたら僕の弓も効かないかも」とアルが言う。
「ケルベロスかサイクロプスかミノタウロスのどれかがいいんじゃないか」とカイトが言う。ケルベロスはダンジョンの番人として有名だ。サイクロプスとミノタウロスもダンジョンにいることが多い。
「じゃ、ダンジョンに行く。でいいんじゃない」とサラが言う。
「分かった。クエストはここで受けていくのか」とカイトが言う
「ここでは受けないわ。ハンブルク帝国都でクエストを受けて、そのまま南下して、ダンジョンに入りましょう」とリサが言う。
「パーティー名も決めていないしな」とサラが言う。なるほど帝都に着くまでにパーティー名を考えればいいのかとカイトは感心した。
「帝都までは3日そこからダンジョンまでどれくらいかかるんだ」とカイトが聞いた。
「1日くらいかな。何回か行ったことあるよ。雷系のスキルが便利だったよ」とサラが答える。サラが何回か行ったことがあるのならトラップの心配はあまりないかとカイトは考えた。
「ダンジョンに行くなら1日待ってくれないか。トラップ対策のスキルを覚えたい」とアルが言った。トラップの心配は少ないがないよりはある方が良いとカイトは考えた。他のメンバーも同じように考えたようだ。
「それでは明日の朝に出発にしましょう。今日は自由行動にしましょう」とサラが言う。賛成したメンバーがそれぞれ別の場所に向かう。
アルは冒険者教会にある図書室に向かった。上位のスキルは国の管理する図書館や神殿にいかないとないがトラップ対策のスキルなら冒険者教会にある図書室で十分だ。習得した後、実践で使えるか検証するためにサリーク出て自分で罠を仕掛けて反応するかを試していた。
カイトはSランク冒険者カエサルに会いに行った。Sランク冒険者にもなると依頼が少なくて暇なのか冒険者教会にいるか自宅にいるかである。今日は前者だったらしく、冒険者教会で合うことができた。
「おはようございます。カエサルさん」と頭を下げながらカイトが挨拶をした。
「堅苦しいのは好きじゃない。いつものままでいいよ。ところで何かようかね」とカエサルが答える。
「先日、私を弟子にとのことでしたが、その話は今でも有効でしょうか」とカイトが聞く。
「もちろんだとも。今からでもかまわないよ」とカエサルが言う。
「これから帝都の南にあるダンジョンに向かうのですが1日で覚えられるスキルはありませんか。それといつか一緒に冒険にでて欲しいのですがお願いできますか」少し無理があるがカイトは言った。
「俺の後継者になるかもしれない人材だ。冒険に一緒にでるのはかまわないよ。それと1日で覚えられるスキルか。何か特徴はないかね」とカエサルが言う。
「双剣でも使える雷系のスキルを覚えたいです」とカイトは言う。雷系はリサと被るが、雷が効果的なダンジョンに行くのだ。覚えておいて損はないだろう。
「ライトニングソードなんてどうだね」とカエサルが言う。上級スキルのひとつだ。双剣を振り下ろしたときに雷が落ちるスキルだ。
「そのスキルでお願いします」とカイトは言い。カエサルと共に冒険者教会を後にした。
サラは今日から冒険だと思っていたので体を動かしたいと思い、クエストを受けることにした。Bランク冒険者が今は一人、それも明日にはパーティーメンバーとダンジョンに向けて出発だ。ケガだけは避けたいと思いCランククエストのオーク討伐を受けることにした。オークの討伐はサリーク付近ではできない。ハンブルク帝国とメイデン国の境界付近まで行かないといけない。サラはため息をつきながら転移用のスクロールを取り出す。転移スクロールは一人用で金貨5枚、複数人用だと金貨50枚だ。つまり目的地に行くのに金貨5枚帰ってくるのに金貨5枚必要だ。オークは1体金貨1枚なので10体倒せばもとはとれるが、オークの群れでも見つけない限り無理である。しかし、体を動かすためだと転移スクロールを使用する。
リサは町を散歩していたリサ達が以前拠点にしていたのはドレスデンの首都ウッチだ。リサ達はドレスデンで冒険者やっていきたかったのが、魔物が多くでるのはメイデン国と面しているケルン、ハンブルク、ルブリンで3国だ。そのためドレスデンを離れることにした。そして、ハンブルク帝国は差別がある国であるが南の国の人には寛容で、街並みもきれいだという理由でハンブルク帝国に拠点を移すことにした。今日はその街並みを見るための散歩だ。昼過ぎぐらいまでリサは散歩をして疲れたため、喫茶店に入って紅茶を飲みながら午後を過ごした。
夜になってカイトはライトニングソードを取得してカエサルと共にサリークに帰ってきた。そしたら、ちょうどアルがトラップ回避スキルを覚えて帰ってきていたところだった。
「お疲れ様アル。スキルの方は無事習得できたようだな」とカイトが言う。
「カイトそれにカエサルさんこんばんは」とアルが答える。
「あら。アルとカイトじゃない。それにそちらはカエサルさんですか」サラが言う。
「初めまして、お嬢さん」とカエサルが挨拶をする。カイトはカエサルといつか冒険するならサラと顔合わせをしといた方がよいと考え一緒に夕食を食べることを提案した。
「みんなで食事いいね。昨日食べた店で合流しましょう」サラが言う。分かったとカイトが言い全員がサリークに入った。
夕食を食べにカイト、アル、カエサルが店に入った今日もほぼ満席状態だ。とりえず5人で座れるテーブルに着く。カエサルが来て店にいる客の視線が集まる。慣れているのかカエサルは席につくと酒を注文した。カイトとアルは未成年のため水を頼んだ。
「今日も相変わらず賑わっているね」とアルが言う。
「昔からずっと賑わっているよ。俺がこの店に来たのは30年も前だ。」とカエサルが言う。カエサルは40くらいのはずだ。10歳でもうこの店に来ていたのかとカイトは驚いた。なぜならこの店はパンとスープだけではなく肉を使った料理、魚を使った料理、鳥を丸ごと調理したものなど贅沢な品が出る分値段が高いからだ。カイトはもう14歳に近いし、アルがいるため何とか店に入れている。少し遅れてリサとサラがやってきた。
「待たせちゃったかな」とリサが言う。待ってないと伝えるとリサもサラもお酒を頼んだ。女性に年齢を聞くのは失礼だと思っていたが二人とも成人しているようだとカイトは思った。
その後料理が届き一人ずつ自己紹介をしていった。昨日カエサル以外は自己紹介していたので簡単な自己紹介で終わった。
「カイトくん。この二人の女性を紹介したということは、この4人と一緒に私が冒険に出るということかね」とカエサルが言う。その通りですとカイトが答える。
「それじゃうちのパーティーと合わせて7人でいくことになるね。うちのパーティーはダガー使いの私と狩人のツバサそして、ヒーラーのフィオナだ」とカエサルが言う。
「二人ともAランク冒険者ですか」とカイトが尋ねる。
「ああ。パーティーを組んで5年くらいかね。まだ二人とも20になったばかりだ。」とカエサルが言う。40歳のカエサルに20歳のパーティーとは親子みたいな感じだなとカイトは思った。そのままカエサルのパーティーの話を聞きながら夕食は終わった。
早朝カイト、アル、リサ、サラはサリークを出発した。ハンブルク帝国の帝都ロスロクまでは馬車で3日だ。金貨50枚で転移できなくもないがあまり大きな出費は避けたい。冒険者は何が起こるか分からないから貯金するのが進められるからだ。だが、ほとんどの冒険者が酒場代や装備代で貯金をなくしてしまう。それもあって交通費くらいは安くしたいのだ。それにパーティーを組んだのはつい最近だ。馬車での3日間は有意義な時間になるだろう。
「カイトとアルって何年くらいの付き合いなの」とサラが聞いてくる。
「あと1ヶ月で14歳なので2年ですね」とカイトが答える。
「2年とは思えないほど信頼し合っているわね」とリサが言う。それに対してカイトがカイルとゲイルと戦った冒険者見習い卒業試験の話やハイデ村にいたときの話をした。カイルとゲイルとの戦闘については奇襲が成功して勝ったことにしておいた。いくらパーティーを組んだからと言って、スキルを奪える能力を持っていることを話すのは危険すぎるからだ。1日目はカイトとアルの話で終わった。
2日目はリサとサラの話になった。
「リサとサラって姉妹なのは分かるけど髪色とか性格全然違うよね」とアルが言う。確かに姉のリサは紫色の背中くらいまで伸ばした髪が特徴的なのに対して、妹のサラは肩にも届かないショートヘアーで髪色も赤色に近いオレンジだ。
「私のこの紫色の髪はお父さん譲りなのよね。でも性格はお母さんに似ているってよく言われていたわ」とリサが言う。
「私はその逆ね。髪色はお母さん似で、性格はお父さんに似ちゃった」とサラが言う。姉妹でもこんなに違うのかとカイトは驚いた。姉妹といえばレンとシズである。レンとシズは性格も明るくて髪色も同じでとても仲の良い姉妹だった。今は村が襲われたこともあってシズはあまり人とは話さなくなったが、レンはどうしているのだろうか。生きていてもきっと辛い思いをしているのだとカイトは考えた。
3日目はパーティー名を決める話をすることにした。
「パーティー名か好きな物とか欲しい物の名前でいいのかな」とアルが話を切り出す。
「好きな物も欲しい物もお金かな」とサラとリサが言う。
「お金ならゴールドとかになるのか。まったくイメージがわかない」とアルが困り果てる。
「花言葉とかはどうだ。二人は好きな花とかある」とカイトが尋ねる。
「私はアジサイが好きね」とリサが言う。
「私はバラが好きね」とサラが言う。
「アジサイの花言葉は移り気や仲良しだったかな。バラは愛情か」とカイトが言うとリサが笑っていた。どうやらサラに愛情という花言葉が合わなかったかららしい。
「花言葉ならアジサイかな」とアルが言う。
「パーティー名アジサイはカッコ悪くないか」とカイトが言う。そうだなと全員が首を縦に振る。
「なら宝石ならどうだ。例えばアンダリュサイトとか良くないか。石言葉は希望や真実を見抜くだ」とアルが言うとカイトもリサもサラも顔を暗くした。アルは自分が失言してしまったことに気づいて慌ててごまかす。
「やっぱりブラッドストーンとかどうだ。石言葉は救済だ」とアルが言うと全員が賛成した。
カイトが真実を見抜くって石言葉を嫌がったのは分かるがリサやサラも嫌がるなんてどうしてだろうとアルは考えていた。
3日目の夕方ようやく帝都についた。一行は冒険者教会に行くか宿屋に行くか悩んだが3日間お風呂に入っていないことから宿屋にいくことに決まった。宿屋では2部屋をツインで泊まることにした。流石にパーティーメンバーと言っても男女は別々の方が良いだろうという全員の判断だ。
「さっそく帝都のお風呂にいきますか」とアルが言い、カイトも一緒に行く。ちょうどリサとサラもお風呂に行くところだったようだ部屋の前で会った。
「風呂から上がったらロビーで少し話をしてから寝ないか」とカイトが言う。分かったと言ってリサ達は女風呂へと入っていった。カイト達も男風呂へと向かった。
「帝都のお風呂ってすごいな50人くらいは入れるぞ」とアルが言う。カイトも帝都のお風呂に入ることがあるとは思っていなかったので驚いた。だが二人は長風呂はせずのぼせないように早めにあがった。
「女性陣はまだ入っているだろうな。情報を集めよう。冒険者教会ほどではないが宿屋でも情報は集められる」とカイトが言った。
「これ見ろよ。トリノ王国で王族が神に反逆した罪で処刑だってよ」とアルが言う
「トリノ王国なんて5000キロ以上も離れている情報はいらないよ」とカイトが言う。
「でも王族の子供は国外逃亡しているんだってさ、もう1年は逃げているらしい」とアルが言う。ちょうどリサとサラが女風呂から出てきた。
「紫色のショートにオレンジ色のロングヘアーの二人が逃げているって」とアルがリサとサラに言う。
「私達と正反対ですね」とリサが言う。私達は明日に向けて寝ますと言って部屋へと向かった。途中でタオルを落としたのをカイトは見たがアルは見ていなかった。
「アルその話題はこれからリサとサラの前では禁止だ」とカイトはアルに警告しておいた。
その後も宿屋で情報を集めていたがダンジョンの情報は見つからなかった。ただメイデン国との戦争が始まるという何の根拠もない記事があっただけだ。
その日の夜カイトとアルはトリノ王国の話をしていた。カイトもアルもリサとサラが逃亡中の王族の子供であることを確信していた。
「貴族って言っていたのは嘘だったんだな。でも王族とは驚いたな」とアルが言う。
「面倒ことに関わらないならこのクエストが終わったらパーティーを解散するのが良いだろうな。」とカイトが言う。
「僕はパーティーを解散なんて嫌だぞ。例えトリノ王国から追われることになっても一緒にいるぞ。たった4日間だったがリサとサラは悪いやつじゃない」とアルが言う。
「ハンブルク帝国とトリノ王国は犯罪者の取引を行っていないし、大丈夫だろう」とカイトが言う。その答えにアルは安心したのか明日の準備を始めた。
翌朝カイト達4人は冒険者教会に来て討伐クエストを受けに来ていた。
「えっとパーティー名はブラッディストーンでよろしいでしょうか」と受付嬢が再確認してくる。
「なんでブラッドストーンじゃだめなんだよ」とアルが言う。そのままだとカッコ悪いというアル以外の3名の意見で変更された。
「これがブラッディストーンの初クエストだ。難易度は低いとは言え確実にこなしていこう」とカイトが言った。