冒険者登録
酒場でバカ騒ぎをした翌日、二人は昼まで爆睡してしまった。カイトは起きると同室のアルを起こした。
「もうお昼じゃないか。何で起こしてくれなかったんだ」とアルが言う。
それに対してカイトは俺も今起きたところだと返す。
「今日の予定だが、昼まで寝てしまったし冒険者登録だけ済ませよう」とカイトが言う。
それに賛成したアルが身支度を始まる。カイトも身支度を終えて二人で宿屋を後にした。
冒険者教会につくと昨日の酒場ほどではないが周りから視線が集まった。アルが委縮しているところに一人の男が近づいて来た。30歳くらいの体つきのよい男はカイトとアルを見てからカイトに話しかけた。
「お前がゲイルを倒した双剣使いか。俺の名はカエサルSランク冒険者だ」
カエサルはサリークで唯一のSランク冒険者だ。そしてハンブルク帝国、もしかしたらそれ以上、世界屈指のダガー使いだ。よこで慌てているアルを無視してカイトは話を続ける。
「こんにちは。カエサルさんのことは耳にしています。ゲイルを倒したのは私ですが、何か御用ですか」とカイトが丁寧に対応する。
「特に用は無いのだが、顔合わせをこの機会にでもしておかないと機会を失いそうでな。私の後継者を探している。どうだかね、私の弟子にならないかね」
カイトにとってとても嬉しい提案だった。しかし、今は冒険者として様々な土地に行き経験を積みたいと考えていた。
「とても嬉しい話ですが、私はまだ冒険者になったばかりです。冒険者の仕事ができるようになってからでは駄目でしょうか。それと相棒のアルを置いて修業するのは気が引けます」とカイトは本音を言った。それを聞いてアルがほっとしていた。
「その通りだな。冒険者としての仕事を優先して構わない。それと相棒アルくんの件だが職業は何にする予定だね」とカエサルが言う。
「狩人になる予定です」噛みそうになりながらアルが答える。
「狩人かうちのパーティーにも狩人がいる。私がカイトくんを見ている間はうちのパーティーメンバーにアルくんの修業をつけてもらおう」とカエサルが言う
「わかりました。その方向でよろしくお願いします」カイト言いアルも横で頷いていた。
冒険者登録に来て想定外のことがあったが二人は冒険者登録を済ませることにした。二人は受付嬢のところに向かう。朝なら混んでいただろうがもう昼である。待つことはなく受付嬢に話をすることができた。
「昨日冒険者見習い試験を合格したカイトとアルです。冒険者登録がしたい」とカイトが言った。
「カイトとアル様ですね。かしこまりました。別室に案内するので付いてきてください」と受付嬢に言われ二人は付いていく。
部屋の前まで来ると受付嬢が話す。
「この先は一人でお願いします。部屋の真ん中に魔法の水晶があるのでそこの手を当ててください。手を当ててもらえば鑑定が行われ冒険者カードが出現します」と受付嬢が言った。
「俺が先に入ろう」とカイトが言う。アルは順番をあまり気にしていないのか分かったと答えた。
部屋の中に入ると魔法の水晶があるだけで他には何もなかった。警備など必要ないのだろうか。やろうと思えば冒険者教会は木造なので外から攻撃して壁を壊し水晶を奪っていけそうなものだ。水晶にはそれなりの価値があるはずだが、と思いながらカイトは右手を水晶にかざす。すると部屋中に光が満ちカイトを中心に球体になっていく。そして光が水晶の中に戻っていく。そして冒険者カードが水晶の上の空中に浮かび上がる。その冒険者カードを取ると光は水晶の中に消えていった。すぐに部屋からでるか悩んだが先に冒険者カードの内容を見ることにした。冒険者カードの文字は光っておりスキルの欄に触れると所持しているスキルが浮かび上がった。スキル欄にはゲイルとの戦いで使った。ツイン・シャドウとツイン・バインドがあったその他にも冒険者見習いのときに習得した。閃光の双剣やグラビティバインドなどのスキルもあった。しかし、一番重要なスキルがそこにはあった。ユニークスキルテイカーおそらくこれが謎の声の主から貰った神をも殺す力だろう。その証拠にメテオ・ストライクがあった。それに対してゲイルの使っていたダガーのスキルがなかった。おそらく汎用のスキルだったからだろう。ユニークスキルテイカーの発動条件は名前の通りユニークスキルしか奪うことしかできない。さらに、ただ近くにいるだけではスキルを奪うことはできないということだ。なぜなら冒険者見習い卒業試験で神をも殺す力を手に入れてからカイルと一緒にいたがカイルはアルに対してメテオ・ストライクを使用している。他に発動条件があるとしたら相手がスキルを発動した瞬間、そして相手のスキルを右手で消した瞬間である可能性が高いと判断した。とりあえずこのスキルを知られるのは危険だと判断し他の人間に知られないようにすることにした。
カイトが部屋から出るとアルが不安そうに待っていた。どうやら時間をかけ過ぎたらしい。
「カイト遅かったじゃないか」とアルが言った。
「悪い。新しいスキルを手に入れていたからな。確認していた」とカイトは言った。続けて「次はアルの番だ。行ってこい」とアルを後押しした。
行ってくると言ってアルは部屋の中に入っていった。
水晶に手をかざしてからカードが出るまでは1分もかからない。だがアルが部屋を出てきたのは5分ほど経ってからだった。
アルにもスキルで何か不自然なことがあったのだろうと考えたカイトはとりあえず冒険者登録を済ませようと言って水晶のある部屋を後にした。
冒険者教会の受付まで戻ってくると受付嬢が「冒険者カードを提示してください」と言う。
焦ったカイトだったが受付嬢がそれを察したのか「スキルなどの確認はしません。確認するには本人が触らないと表示されませんから」と言った。
それに安心したカイトは冒険者カードを提示する。アルもカイトと同様焦りを見せていたが受付嬢の話を聞いてカードを提示した。
「カイト様とアル様で間違いないですね」と改めて受付嬢が聞いてきたのでそうです。と答える。
「本来冒険者登録をした方は最初Dランクからのスタートなのですがお二人のステータスと難しい薬草採取そして、カイルとゲイルの二名の犯罪者の確保をされたのでCランクからのスタートとさせて頂きます」
「やったー、Cランクからのスタートだぞ。カイト」とアルが冒険者教会全体に聞こえるような大声で叫んだ。
そうだなとカイトが周りの視線を感じながら恥ずかしそうに答える。
「以上で冒険者登録は終わりです。クエストは掲示板に貼られるの、クエストの依頼書を受付まで持ってきていただければクエストを受けることができます。クエストにはDからSまでのクエストが張り出されます。パーティーメンバーの一番ランクの高い人のランクまでクエストを受けることができます」受付嬢が丁寧に説明する。
「Cランクの俺たちがSランク冒険者と組んでSランクのクエストも受けることができるのか。」カイトが興味半分で聞いてみる。
「受けることは可能ですが、推奨はしません。クエストに失敗した場合は自己責任になり、明らかに過失があった場合は冒険者ランクの降格になります」と受付嬢が警告する。
「分かった。ありがとう」とカイトは言ってクエストの掲示板には目もくれず冒険者教会を後にした。慌ててついてくるアルがカイトに話しかける。
「クエストの掲示板は見なくていいのか」とアルが言う。
「アル、冒険者登録のときの水晶に手を当てた時何かあっただろう。それについて話そう」とカイトが言うとアルがそうだったとカイトに同意した。
二人は宿屋に着くなりすぐ自分達が泊っている部屋に入った。カイトが気配察知スキルを発動する。どうやら宿屋の主人以外は誰もいないようだ。一応音の遮断スキルも発動してアルに話しかける。
「他の人間に聞かれる心配はない。言える範囲であったことを言ってくれ」
するとアルが話し出す。どうやらカイルの使ったメテオ・ストライクがスキル欄にあったようだ。このとき、カイトが警戒したのは自分と同じようにアルにも謎の声の主がスキルを与えており、カイト同じようにカイルのスキルを奪った可能性があるからだ。だとしたら謎の声の主は誰にでも神をも殺す力である。ユニークスキルテイカーを渡していることになる。だとしたらこの世界の支配構造は崩れてしまう。そもそもユニークスキルテイカーで神を殺すことは本当にできるのか確かに神の使うスキルは全てユニークスキルだろう。しかし、神には膨大な魔力と生命力がある。それを削り切るのは容易ではない。それにユニークスキルテイカーの発動条件として接近もしくは触れることが必要の場合、遠距離戦になった場合確実に勝てない。思考しているとアルが話しかけてきた。
「どうしたカイト。カイトにも同じスキルがあったのか」アルが聞いてくる。
このときカイトは、本当のことを話すか悩んだ。まず、謎の声の主の話をするかである。この話をすると間違いなく神をも殺す力について話さなくてはいけなくなる。そうなった場合アルでも役人に密告してカイトは捕まる可能性がでてくる。しかし、アルにもユニークスキルテイカーがある場合、その情報は確実に知っておきたい。そう考えたカイトは謎の声の主の話はしないで自分にユニークスキルテイカーがあることだけ話すことにした。
「俺にも同じメテオ・ストライクがあった。それとユニークスキルテイカーというスキルもだ」とカイトは謎の声の主の話以外は本当のことを話す。
「俺にはユニークスキルテイカーってスキルはなかったよ。メテオ・ストライクと弓のスキルがいくつかあっただけだ」とアルが言う。
ここでカイトは少し安堵した。二人もユニークスキルテイカーを持っていたらスキルの取り合いになって殺し合いになる可能性だってあっただろう。ただ今の状況だとカイトが一方的にアルのスキルを奪えることになってしまう。アルもそのことに気づいたのか話し出す。
「俺はカイトを信じている。それに今、俺の持っているユニークスキルはメテオ・ストライクだけだからな。問題はないぜ」とアルが言う。
アルのこの様子を見るとカイトの持っているユニークスキルテイカーについて誰かに報告はしなさそうだ。一応念を押しとくためにカイトはアルに言う。
「今日ここで話したことは秘密だ。メテオ・ストライクについては使うのも禁止だ。俺たちがカイルを倒してすぐにメテオ・ストライクを使っていたら俺たちがスキルを奪ったことがばれてしまう。特に俺のユニークスキルテイカーについては秘密で頼む」とカイトが言う。
「わかった。必ず約束は守る。ユニークスキルテイカーについては俺でも秘密にしないとダメだってわかる」とアルが言う。
最後にアルのスキルについて考察することにした。カイトの場合はユニークスキルテイカーが発動してカイルのメテオ・ストライクを奪ったのは確定だが、アルはそんなスキルは持っていない。もしかしたら、一度使ったら消えるスキルなのかもしれない。殺されかけたときに発動する特殊スキル。死にかけで覚醒するとはまるで物語の勇者のようなスキルだ。それに対してカイトは悪役で最後の魔王と言ったところかとカイトは考えた。
「とりあえず冒険者登録はできた。明日からの予定だが俺は一度ハイデ村に帰ろうと思う。シズとツカサに冒険者になったことを報告したいからな」とカイトが言う。それに賛成したようにアルが話す。
「俺も父さんに報告しにいかないとな」とアルが言う。
二人は明日からの予定が決まると宿屋を後にする準備をした。すぐにでも宿屋を出られるように準備をした二人は町に買い物にでることにした。お互いに冒険者見習い卒業試験突破を記念にプレゼントを買うことにした。最初は一人一人別れて買うことも考えていたが、お互いにプレゼントを買うのは苦手だったので二人で町を散策しながらプレゼントを買うことした。
「男二人でお互いのプレゼントを買うなんて恥ずかしいな」とアルが言う。
「だったら村のシズとツカサへのプレゼントも買っておくか」とカイトが言う。それに賛成したのかアルも父親へのプレゼントを買うことにした。
まずは、カイトのプレゼントを買うことにした。二人は悩んでいたがアルがやはりカイトには双剣が似合うと言って武器屋に行くことにした。
「確か今使っている双剣は確か父親の形見だったか。アダマンタイトで作られているからよほどのことがない限り壊れないよな」とアルが悩みながら言う。
「スキルのことを考えるとこれからは魔法も交えた戦闘も視野に入れたいな」とカイトが呟く。それを聞いて店主がでてくる。
「そこの坊主、立派な双剣を持っているが魔法を使うならミスリルの剣がいいぜ。魔力の通りがアダマンタイトよりいいぜ。固有スキル持ちのオリハルコンの剣もいいがここには置いてない」と店主が言う。
店主に言われてミスリル剣を見ると、見栄えが良い剣が多かった。しかし、値段を見るととてもじゃないが冒険者になったばかりに買えるものではなかった。しかし、その下に置かれているミスリルのダガーは買えそうな値段だった。それに気づいたアルがミスリルのダガーを買おうと言った。そのダガーは金貨50枚だった。
「とても嬉しい提案だがそれなりの値段だぞ」とカイトは言った。
大丈夫だ。父さんからの仕送りもある。アルは村長の息子でその村長は商人として成功しているから金銭には余裕があるのだろう。
「試験でカイトにはお世話になったからな。それと命の恩人だからな」とアルが言う。
確かに試験中カイルとゲイルを倒したのはカイトだ。それだけを考えるとアルはカイトに大きな借りがある。しかし、それはカイトも同じだと思った。試験内容の薬草採取を成功していたアルがいたから試験に合格できたのだ。少し悩んだカイトだったが考えても仕方ないとアルにミスリルのダガーをお願いする。
次は、アルのプレゼントを買うことにした二人はそのまま武器屋を見て回った。カイトはアルが狩人になる予定だから弓が良いと判断していくつかの弓を見ていた。だが良い弓は金貨10枚とカイトの全財産と同じ値段がした。流石にここで全財産を使うのは厳しいと判断したカイトは弓の矢をプレゼントすることにした。選んだのはミスリルの矢で金貨1枚だ。カイトは自分が金貨50枚のプレゼントを貰っておいて金貨1枚のプレゼントしか用意できないのが情けなかったが、今はこの矢で我慢してもらい冒険者として成功したらもっといいものをプレゼントしようと決めた。
最後にシズ、ツカサ、アルの父親へのプレゼントである。シズは12歳、ツカサは10歳である。まだ女性へのプレゼントのアクセサリーなんかよりお人形とかの方が喜ぶだろうと考えた二人は武器屋を出て、町の子供用品店に向かった。正直アルもカイトも小さな女の子が喜ぶ物が分からなかったため店員に頼んでいくつか動物の人形を持ってきてもらった。犬、猫、虎、像、キリン、ウサギなど様々な人形があったがウサギだけ2匹セットで売られていた。店員に理由を聞いてみたが特に理由はないらしい。
「シズとツカサちゃんにはこのウサギがいいんじゃないかな。お揃いの方がきっと喜ぶよ」とアルが言う。
「そうだな」とカイトは答える。シズは姉のレンをなくしてから話す人が極端に減り、ツカサだけが友達だった。そのことからシズはカイトやツカサにとって家族のようなものだ。カイトは冒険者になった報告と一緒にシズ、ツカサ、ヨハンにレンが生きていることメイデン国にいることを伝えるつもりだった。だが謎の声の主の話をそのまま信じて話していいか不安になってきていた。神をも殺す力は本当だったがレンについてはまだ情報が少なすぎることから安易に話すのはやめておくことにした。カイトが考えている間にアルが購入を終えラッピングしているところだった。
「すまないアル。あとで代金の半分は払う」とカイトが言った。
問題ないとアルは答え最後にアルの父親へのプレゼントを選びに子供用品店を出た。アルの父親はお金持ちで欲しいものは自分の財力で買ってしまうだろう。町を歩きながら二人は考えたが結局答えはでなかった。結局アルの父親へのプレゼントはまた今度の機会にすることにし、宿屋に戻ることにした。
宿屋に戻った二人はさっそく夕食にすることにした。食事はパンとスープといういつものメニューだ。だが冒険者登録と村にいる家族にプレゼントを用意できたのだ。いつものメニューでもおいしく感じる。
「今日は冒険者登録もプレゼントも買えて大満足だ」とアルが言う。
「一度村に戻るとはいえ、明日から俺たちはCランク冒険者だ。油断していると足元をすくわれるぞ」とカイトは忠告した。まだアルは冒険者見習い卒業試験の合格に酔っているのだろう。
「確かにそうだけど、クエストをこなして冒険者のランクを上げるだけだろう」とアルが呑気に答える。
「クエストを受ける前に俺たちはパーティーメンバーを募集するぞ。前衛が俺、後衛がアルでパーティー構成に問題はないが、できればもう一人前衛が欲しい」とカイトが言う。
それはどうしてだとアルが聞いてくる。
「前衛二人での交代しながら攻撃する手段が対人戦闘でも魔物との戦闘でも有効だからだ。相手は見慣れてきたときに攻撃してくる相手が変わったら奇襲を受けたときと同じ対応をしなければならなくなる。これだけでも大きいが前衛は消耗が激しい二人いると長期戦でも有効だ」とカイトが説明する。
「分かったけど、当てはあるのか」アルが当然の質問をしてくる。
「冒険者教会にパーティーメンバー募集の掲示板があった。そこにかけるしかないだろう」
カイトにして行き当たりばったりだった。冒険者見習いのときからパーティーメンバーになりそうな人物を探していたがついに冒険者になっても見つからなかった。後衛の候補としてはキール村出身でハイデ村では狩人をしているヨハンが最有力候補だった。だがキール村が襲われてからハイデ村の人やキール村出身のカイトやシズ、ツカサとも距離を置くようになり勧誘できる空気ではなかった。
「一応ハイデ村に戻ったらヨハンに声をかけてみるよ。後衛も二人欲しいしな」とカイトが言う。
ちょうどご飯を食べ終わったアルが了解と少し大きな声で返事をする。そしてカイトも食事を終えて二人は寝て明日に備えることにした。