冒険者見習い卒業試験後編
朝になりカイトは起きる。いつもカイトより遅く起きてくるアルがすでに起きていた。今日は朝食をアルとカイトが作る番だ。朝食を作りながらカイトはアルに話かける。
「おはようアル。昨日は眠れなかったのか」
「ああ、緊張して眠れなかった。カイトはよく眠れたか」
謎の声の主とのやりとりのことを話そうと思ったカイトだったが試験で緊張しているアルにさらに負担を強いるのは良くないと考えたため話さなかった。
「俺も試験で緊張していて眠れなかった」と答えた。
「カイトでも緊張することがあるんだな」とアルは笑っていた。
「俺を何だと思っているんだ」とカイトが答える。
料理ができたあたりで貴族達が起きてきた。料理といってもパンとスープである。貴族と最初試験を受けることになったとき料理はどうするのか考えていたが、この貴族は固いパンでも平気で食べる。こういうところを見るとこの貴族も真面目に冒険者になりたいのだなと分かる。
朝食を食べ終わると試験場への移動を開始した。流石に貴族も緊張しているのか何も話さなかった。そして目的地に着くとすぐに試験官が試験開始の合図をだした。
カイトとアルは予定通り二人で北西を目指した。貴族たちは反対側の北東へと向かった。カイトはアルに目的の薬草を探しながら歩いてもらい自分は周囲に魔物がいないか警戒しながら進むことにした。アルは頼りないとこはあるが真面目なため薬草を間違えたり見逃したりはしないこととカイトは気配察知のスキルを持っているための役割分担だ。
カイトとアルが歩き始めて1時間たった時、気配察知に反応があった。カイトがアルに手で信号を送り待機するように伝える。反応のあった場所を見るとゴブリンが3匹いた。アルの実践にはちょうど良いと考えたカイトはゴブリンを狩ることにした。アルのいるところに戻りアルには弓での遠距離攻撃をしてもらい、自分は加速スキルを使い接近し双剣での戦闘をすることにした。戦闘開始はアルの弓での一撃からだ。アルの打った矢は見事にゴブリンの頭に命中し一体が無力化される。そこにカイトの奇襲により残りの2匹のゴブリンはなすすべなく3体とも倒された。魔物との初戦闘を終えたアルにカイトが話しかける。
「見事な一撃だったな。あの精度なら冒険者としてやっていけるだろう。」
褒められてうれしかったのか強張っていたアルの表情が明るくなった。
「このままスピードならあと2時間くらいだ。戦闘があったとしても夜までには拠点が作れるな。」カイトは戦闘が起こらないことを祈りながら言う。
初戦をうまく勝利したアルとカイトはさらに北西を続けた。その後も二人は周囲を警戒して進んだが戦闘はなく無事に目的地に到着した。そして、二人は拠点の設営を終えた。
夜になって二人は明日に備えて早めに寝ることにした。初戦闘で興奮したのかアルはなかなか寝付けなかったのかカイトに話しかけた。
「やっぱりカイトの気配察知スキルは便利だね。僕も気配察知スキルを取得しようかな。」
カイトは同意するように答えた
「アルは弓の精度もいい狩人に向いているかもしれないな」カイトにそう言われたアルは調子に乗って狩人になると息巻いた。
それからカイトとアルは将来について語りあった。カイトは謎の声の主の件があったため将来について改めて考えた。メイデン国への復讐を考えていたがメイデン国にレンがいるならレンの救出が最優先になる。謎の声の主の言葉を信じるならそのための力をカイトはもう手に入っていることになる。後は冒険者としてメイデン国にいけるかどうかである。メイデン国は12神が支配する地域とは国交を断絶しているため冒険者として入るなら密入国になってしまう。しかし、今のカイトに他の手段は考えられないため今は冒険者として力を付けてレンを救い出すことしかできないと判断した。カイトが黙っているとアルが自分の目標を話し出した。
「俺はカイトと冒険者として成功してサリークで一番の冒険者になる。そして行く行くはハンブルク帝国で一番の狩人になってみせる」
アルの話にカイトは合わせて頑張ろうなと答えた。
お互いに将来について考え終わったところで二人は眠りについた。
朝になって薬草採取が始まった。カイトとアルは拠点を中心に薬草採取をすることにした。しかし、昼になっても薬草は見つからなかった。カイトは長丁場になると判断し、アルに拠点に戻ることを提案した。試験中の食料は自己調達が基本だ。最低限の食料は持ってきているが3日間歩き回るのを考えるとできるだけ栄養は取っておくべきだ。そう考えた二人は川で魚を捕まえることにした。アルは気配遮断スキルを使いながら釣りをすることにした。それに対してカイトは加速スキルを使って魚を手づかみで捕まえていた。昼食は魚の塩焼きを食べた。食べ終わった後に薬草採取に戻るか考えたが2日目や3日目のことを考えると食料をもう少し集めておきたいと二人は考え山菜集めを開始した。こちらは薬草採取と違ってうまくいきすぎるぐらいに取れた。途中で鹿も見つけたため食料として狩りをした。
夜になってカイトとアルは昼に狩った鹿を調理して食べることにした。昼に取った山菜もあって豪華な夕食となった。夕食が豪華で喜んでいるアルに対して、カイトは真剣な顔つきだった午前中だけとは言え必死に探して薬草は見つからなかったのだ。さらに、残り二日の内山側に薬草採取に向かうなら明日には出発しなければならないからだ。アルにそのことを相談するとアルらしくはないが即決で山側に行くことを提案した。カイトもそのつもりだったので説得する手間が省けた。二人は山側に行くことを決め、今日集めた食料をアイテムボックスに入れ眠ることにした。
早朝日が昇る前にカイトは起きた。アルはまだ寝ているが今日移動するルートを決めるためだ。アルに相談するにしても自分の考えをまとめときたかったからだ。北西してきた道を戻り一度試験開始会場あたりまで引き返してから山側に行くか、現在地から東に向かい山側に直接向かうかのどちらを選ぶかをカイトは考えていた。試験開始会場に戻り山側を目指した場合今日の夜あたりに山側に着くことになり、薬草採取は最終日だけになる。それに対して直接山側行った場合、昼には目的地に着くため午後を薬草採取に使うことができる。ただ、直接行く場合魔物との戦闘が起こる可能性がある。1回の戦闘なら大丈夫だが複数回、もしくはゴブリンより強力なオーガやオークまたは上位種のゴブリンキングとの戦闘になった場合、着くのが最終日になる可能性がでてくる。以上のことを考えると一度試験開始会場に戻るのが良さそうだとカイトは考えた。考えがまとまったあたりでアルが起きてきた。さっそくアルに今日の進行ルートについて相談した。
「薬草採取は最終日だけになるが安定して試験に挑むなら一度試験開始会場に戻ってから山側に行くのがいいと思う」
カイトの意見にアルも賛成して二人は一度試験開始会場に戻ることにした。試験開始会場に戻ると試験官が暇そうにしていた。二人が戻ってくるのを見て話しかけてきた。
「薬草採取は成功したのか。それとも棄権かな」
試験管に対してカイトが薬草採取は成功してないことと山側に行くことを伝えてすぐにその場を離れた。遠回りして安定ルートを選択したのだからできるだけ時間の無駄は省きたい。カイトとアルは試験開始会場を後にして山側へ歩いていった。途中魔物との戦闘も警戒していたが気配察知にも何も反応はなかった。貴族たちが1日前とは言え一度通ったルートだ。この辺りを縄張りにしていた魔物達は狩られたのかもしれない。そのこともあってか予定より早く、日が沈む前に目的地に着いた。はやく着いたが薬草採取はせずに野宿の準備をすることにした。野宿をする場所を探していると目新しい野宿した跡があった。どうやら1日目に貴族達が野宿した跡だろう。カイト達もここで野宿することにした。アイテムボックスから昨日狩った鹿の肉と山菜を取り出して調理して食べることにした。
カイトは夕食を食べながら明日の予定をアルと相談する。
「貴族達が試験開始会場にいなかったことから貴族達もまだ薬草採取には成功してないのだろう。同じところを探しても見つかる可能性は低い。明日はここから北東にさらに移動して山の反対側まで行ってから薬草採取をはじめよう」
アルがカイトの意見に賛成して明日の予定が決まった。
その夜、カイトは試験内容に今更だが不信感を抱いていた。なぜなら冒険者見習い卒業試験という比較的簡単な試験なのに要求されたのはこの春の試験には少ない夏に見つかる薬草だからだ。おそらく理由があって試験の難易度を上げたのだろう。理由があるとしたらカイト自身やアルではなく貴族側に問題があったのだろう。もしかしたら傭兵を雇って試験に参加していることに対しての対応か。だとするとカイト達にとっては大きな迷惑だ。しかし、それ以外の理由が見つからなかった。冒険者見習い卒業試験は半年に一回ある今回無理だったら半年後受けるしかないとカイトは考えながら眠りについた。
3日目の試験最終日の朝がやってきた。3日目の最終日だということもあるのかアルもいつもより早く起きていた。カイトもアルも朝食を早々と食べ薬草採取の目的地で山の裏側に出発した。山の裏側についたカイトは気温的に山の標高の低い日当たりのよい場所に薬草があるとアルに伝えた。その後、最終日であることを踏まえてアルとは別行動をとり夕方に野宿をした場所に集合することにした。
「必ず薬草を取って集合しよう」とアルに言ってからカイトは加速スキルを使って日当たりのよい場所に向かって走り出した。
カイトが加速スキルで日当たりのよい場所を4か所ほど見て1時間くらいたったときだった。山の反対側にいても聞こえそうな爆発音が近くでした後、爆風がカイトを襲った。最初は山の噴火かとも考えたが爆風の方向的に山の噴火ではないと判断した。試験中だったが試験より、アルに何かあったかと考えたため加速スキル使い爆発があった方へ急いで走り出した。
爆発地点にたどり着くとカイルとゲイルそしてアルその横に貴族の死体があった。状況が把握できないがどうやら最悪の状況に出会ってしまったようだ。カイトが到着したことにカイルとゲイルは嬉しかったのか笑いながら話しだした。
「ちょうどいいところに来たな。探す手間が省けた」とカイルが言った。それに合わせるようにゲイルが話す。
「こいつら死地に飛び込んでくるなんて運がないな」と言った。
「どういうことだ」とカイトが尋ねた。
「俺たちの真の依頼はそこの貴族様の抹殺でね。本当は魔物にやられたことにして殺す予定だったのだが貴族様のアイテムで魔物が寄ってこなくなっていてな。そこで俺たちが直接手を下したってわけだ」とカイルが言う。
「その犯人役に選ばれたのが俺たちってことか」とカイトが言う。
「その通りだ」とゲイルが言う。
「カイトの居場所を教えろって命令してきたんだ。それを拒否したらメテオを打ってきやがった」とアルが怯えながら言う。
そのメテオの影響か少し離れた地面が半径100メートルほどえぐられていた。
「二人揃ったところだし、仕事を終わらせるか」とカイル言い手をあげてメテオ打つ体制に入り手を下した。すると空高くから燃えた隕石が落ちてきた。今回のメテオは明らかに殺しに来ているのか地面に落ちれば半径1キロは吹き飛ぶだろう。
カイトの加速スキルでも逃げることは不可能だろう。しかし、カイトはここで死ぬわけにはいかないとレンを救い出さなければならないと強く思う。その時、思い出したのが神をも殺す力である。カイトは右腕に力を入れてメテオに向かって振り上げる。その瞬間メテオが消えた。
「何をしやがった」とカイルが叫ぶ。
これが神をも殺す力の能力なのかとカイトは驚いていた。だがもう一度カイルがメテオを打つ体制に入り「メテオ・ストライク」と叫ぶ。だが空には何も出現しなかった。
カイルはカイトがスキル無効系のスキルを発動していると考えゲイルに支持を出す。
「カイトって野郎が俺のスキル無効にしている。ゲイルお前の体術でそいつを殺せ」
ゲイルが了解したと言い全速力で近づいてくる。カイトはもう一度右手を出したが何も起こらなかった。神をも殺す力には条件があると瞬時に判断したカイトは双剣を取り出しゲイルとの近接戦を開始する。そしてアルに支持を出す。
「アル今すぐ試験官のところに行って事態を報告してくれ」
その指示を聞いたアルは全速力で走り出した。試験官を呼んだのは事件の後処理に必要だからである。カイトにとって今の状況は既に打開している。無力化したカイルと明らかにカイトより動きが遅いゲイル30秒もあれば二人ともやれる。しかし、ここで二人を殺してしまえば貴族達と薬草の取り合いになってカイトとアルが貴族達を殺したことになってしまう可能性があるからだ。それだけは避けたいと考えたため試験官を呼びに行かせたのだ。ただアルの足だと試験開始会場までは6時間もかかる。試験官と合流した後は試験官の持っているスクロールでここまで転移してこれるだろうが6時間もゲイルと斬り合いをするのは辛いなとカイトが考えていた時だった。
「試験官を連れてきたぞ カイト」と言うアルの声が聞こえた。
カイトは試験官が来たことを確認するとゲイルを無力化する。
「ツイン・シャドウ」カイトがスキル発動すると双剣の先が伸び影のような斬撃が飛びゲイルの両腕を切断した。
「ツイン・バインド」続けてカイトがスキルを発動する。また双剣の先が伸び鎖のように変化しカイルとゲイルが束縛される。
「爆発がしたと思って転移してきたがどういうことだ」試験官が問いただす。
どうやら爆発音を聞いて近くまでスクロールで転移してきていたようだ。
カイトは傭兵達が貴族を殺したことその罪をカイトとアルに被せようとしていたことを話した。
「事実確認は後で行う。とりあえず試験は中止だ」と試験官が言う。
「それは困る。薬草はちゃんと採取したぞ」とアルが言う。
どうやらアルが目的の薬草を確保していたようだ。それなら試験が中止になって半年後に再試験になるくらいなら、今試験官を納得させて試験を合格させた方が良いとカイトは判断した。
「確か試験のルールでは誰かが脱落しても試験結果には影響しないはずだったはずだが」とカイトが言う。
「確かにその通りだ。試験は合格だ」試験官が困りながらも言う。
本来はサリークに戻るのも馬車で行う予定だったがゲイルの腕の状態を見て試験官がもう一度転移のスクロール使いサリークに転移することにした。
サリークに帰ってきて冒険者教会や警備所に連れていかれたが、カイルとガイル
が捕まっていたこと試験官がうまく話を付けてくれ夜には解放され。
「アルのお陰で試験に合格できた。今日は酒場でうまいものでも食べよう」とカイトが言った。
普段ならまだ成人してない二人が酒場にいってもお酒は飲めないので屋台で安いおかずを買いパンと一緒に食べるのが、今日は特別だ。二人は酒場の方に向かって歩き出した。
二人が酒場に着くと酒を持っている男たちに囲まれた。少しの沈黙の後、酒を持っている男たちが一斉に叫びだした。
「お前たちかカイルとゲイルをやったのは、よくあいつらを倒したな。あいつら冒険者登録はしてなかったがカイルはAランク相当の手練れだぞ」
その男の隣の男も話し出す。
「すっきりしたぜ。ゲイルとか言う男もだが、力を全く見せない癖態度だけでかかったカイルを倒してくれてありがとう」
酒場で何かしらの反応があるとは思っていたがここまでとは思わなかった。
「今日は俺のおごりだ。二人ともたっぷり食ってくれ」と最初に話した男が言う。
カイトとアルはこの10日間の疲れも忘れ飲み食いをして夜を過ごした。