冬童話2019・2020・2021・2022・2023・2024提出作品
ぬいぐるみのお直しやさん
「あなたのっ心〜♪
ほつれ〜ほつれだよっ。
え〜、心のぬいぐるみのほつれ、直します〜♪」
アコルディオンの音が、ながれています。
「みなさん。こころのぬいぐるみ、ほつれていませんか?
なんと、今なら、一回50ラク、ほつれ、直します〜。」
のんびりした声ですね。
こころのぬいぐるみの、おなおしさんです。
だいたい、このじきになると、とおいとおい国から、来るのです。
「おっと、そこの奥さん、だいぶ傷んでますよ?」
「あら、結構よ、今いそがしいんで!」
スタスタと、おくさんは、さります。
あそこのおうちはふゆじたく。
とてもとても、いそがしそうです。
「おっと、ご主人、ワタがとびでてますよ? お直ししましょう!」
「ふん! いらん世話だ!」
ぷりぷりして、さっていくのは、ちょっとくたびれたおじさん。
なかなか、つぎのおしごと、きまらないみたい。
「おやおや? お嬢ちゃん、どうしたんだい? じっとこちらを見て。」
ずっとみていたの、きづいていたの。
「ふむ? おじょうちゃんのは、すりきれてないね。ちょっとワタがたりてないかな? どうするかい? ワタいれなら、サービスで、ただでやるよ?」
コクリ、とうなずいて、おねがいします。
アコルディオンが、風をふくみました。
「こころ、こころ、こころを縫い包みしたモノよ♪」
すると、
あたしのこころから、
おとうさんからかってもらった、
いちばんだいじな、ウサギのぬいぐるみが出てきて、
それは、ちょっとくたり、としてました。
「どおれ、ワタをふんわりと〜♪」
へんなうた! おなおしやさんが、ぬいぐるみをふくらませます。
すっかり、ふっくらして、あたしのこころに、スッとはいって、きえました。
あららら?
「おじょうちゃん! どうしたんだい?」
ハンカチをかしてもらって、なみだをふきました。
「おとうさん、かえってこなくて……。」
アコルディオンの音がなります。
「くたりくたりとしてたのは〜♪
さびしい こころ ワタがなく〜♪
ふかふか ワタを つめたなら〜♪
ただしい こころ とりもどす〜♪」
かなしみといっしょに、おもいだしました。
さみしさ、さむさと、おなかすいたこと。
おかあさんが、家でまってること。
ごほごほ、おせき、とまったかな。
そのとき、遠くから、おーい、おーいと声がしました。
「おとうさん!」
おかあさんの、やくそう、みつかったんだ!
あたしがおとうさんのところにかけ出すまえに、
くるりとふりかえると、
おなおしやさんは、もういませんでした。
風にのって、アコルディオンの音が、ふんわりと、ワタみたいに、聞こえました。
冬童話2023すべりこみました。
セーフ!