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魔剣欲しい人が二種類のマスコットキャラに振り回される話

作者: 岡沢六十四

本作は、同作者の各お話に出てくる以下のキャラクターが登場します。


●エイジ

(出典:『魔剣鍛冶師になりたくて!』)

 主人公。モンスターから世界を守る聖剣の勇者であったが、母体組織の腐敗を見かねて脱退。以後は個人で戦いながら自分の実力を引き出すための究極武器、魔剣を探し求める。


●大地の精霊

(出典:『異世界で土地を買って農場を作ろう』)

 本来は世界の運行を助ける霊的な存在だが神の力で実体化する。小さな女の子の姿で主人公の家を掃除する仕事に就いている。複数いる。好物はバター。労働の対価はバターで支払われ、こっそりチーズにすり替えるとキレる。


●ノッカー

(出典:『解雇された暗黒兵士(30代)のスローなセカンドライフ』)

 亜人種、穴を掘るのが得意で地下に住む。その特性を利用して鉱山に勤め、貴重なミスリルを掘り出す。かつては魔族に酷使されていたが主人公ダリエルに救われて人間族に所属する。種族で行動しているのでたくさんいる。

 エイジは聖剣の覇勇者であった。

 覇勇者は勇者よりも凄い。


 ただ、そうなる前に拒否したので正確には覇勇者ではない。

 現在のところ、世界一強いだけのただの人であった。


 そのエイジがふらふら歩いて……。

 変な集団に遭遇した。


 一人ではない、団体であった。

 しかもよく見ると集団は二つあって、それぞれが睨み合っていた。


「だべええええええ……!?」

「ですうううううう……!?」


 バチバチバチバチバチ……。

 互いに逸らさぬ視線から火花が散っている。


 対決ムードであった。

 実際の殴り合いなどにはなっていないものの、なんかのきっかけさえあればすぐにでも血みどろの抗争が起こりそうな一触即発の感があった。


「おー? やんのかコラだべえええええ……!!」

「はおーは一人でじゅーぶんなのですうううう……!!」


 なんか物騒なことを言っているヤツらをエイジは困惑と共に眺めていた。


 対立しあう方の一方は、なにやらフードを被ったモノノケで、手にツルハシなどを持って武器の代わりにしていた。

 しかし総身が小さいので全体的に可愛い印象であった。


 もう一方はさらに可愛げな印象で、小さな女の子だった。

『小さい』というのは年齢的な話ではなく物体的に小さい。犬程度の大きさしかない。

 それが長い髪をしていて、しかも色が赤だの青だの緑だのとカラフルで目がちかちかしていた。


 結論から言うと双方可愛げな印象の小物たちであった。

 それが正面からガンつけ合っている。


「ここはオラたちのシマだべえええ。断りなく入ってきたら見敵必殺だべえええ!」

「あたしたちは好きなところにいき、好きなことをするのですー!」


 可愛い外見でアウトローな会話をしている。

 何なのか一向にわからぬが、争いが起きるなら止めねばなるまいという謎の使命感を発揮するエイジ。


「あの……、その辺でやめておいてはどうかな?」

「はいだべー!」

「わかったですー!」


 素直。


 益々何なのかわからないエイジ。

 まずは彼らが何者なのか聞いてみた。


 まずはフード被ったモノノケめいている方。


「オラたちはノッカーですだー! 得意は穴掘りですだー!」

「穴掘り?」

「穴を掘ってミスリルをたくさん掘り出しますだー! そしたら皆さん喜びますだー!」

「そうか」


 エイジも鉱山での労働経験があるためノッカーとやらの自己紹介に共感を持つ。

 穴掘りに悪者はいないというのがエイジの信念であった。


 次に女の子の方は……。


「あたしたちは、大地の精霊なのですー!」

「自然のはたらきをつかさどるのですー!」


 と元気いっぱいに答える。

 依然としてよくわからないが、とにかく悪いものではないらしい。


「これはこれは、ご挨拶どうもありがとうですだー」

「こちらこそ、よろしくなのですー」


 名乗り合ったらダチとばかりに互いに礼をし合う小物たち。

 さっきまでのいがみ合いは何だったのか。


 テンションか。


「旦那旦那! お近づきのしるしに差し上げたいものがあるだ!!」

「え? 俺?」


 ノッカーから唐突に言われて困惑のエイジ。

 一体何をくれるというのか。


「オラたちのふんどしを上げますだ!!」

「ケンカ売ってんのかテメエ」


 さすがに温厚なエイジもブチ切れする条件はある。

 この汗と土埃に塗れたふんどしを献上されるなど嫌がらせ以外の何と判断すればいいのか。


「いやいや! これはいいものなのですだ! かつてこれを顔に巻いたお方が獅子奮迅! の働きをしてオラたちを救って下しましただ!」

「ふんどしを! 顔に!?」


 正気かソイツ、とエイジは大いに困惑するのであった。


「その方が仰るに、顔に巻くことで補正効果が入り、かしこさ+100、すばやさ+100、運のよさ+300になるそうですだ!」

「ぜってー嘘だよ!?」


 そんな効果があったら掛け値なしのレアアイテムではないか。

 小人たちの下着がそこまで貴重であってなるものか。


 しかし先方の好意を無下にもできないので、この確実に貰って困るものを受け取るエイジ。

 とりあえず顔に巻くのはよそうと思った。


「それならば!」

「あたしたちだってプレゼントフォーミーですー!!」


 対抗心を燃やす大地の精霊たち。


「あたしたちから何かあげられるものはないですー!?」

「あッ、これがあったですー!」


 大地の精霊たちが取り出す……。

 ……エイジから見て何なのかよくわからないもの。


 クリーム状で食べ物のように見受けられるが……。


「バターですー!」

「バターはとってもうめーのですー!」

「ううんめーですー!!」


 バター。

 何故そんなものが唐突に出てくるのか。


「あたしたちはバターが大好きなのですー!」

「ろーどーの対価をバターでせいきゅーするぐらいなのですー!」


 いや、そこは貨幣で請求しろと言いたくなったエイジだが、価値観は人それぞれなので触れてやらないことにした。

 正確には『面倒ごとに関わりたくない』と言ったところである。


「この、あたしたちにとっておカネそのものと言っていいバターをあげるのですー!」

「血にもひとしいのですー!」

「ゆーじょーのあかしですー!」


 これもエイジにとっては貰って困るものの類であったが、相手の好意がこもっているのを受け取らないわけにはいかない。


「わーい、ありがとう、うれしいなあ……!?」


 と言って贈答品へ手を伸ばそうとしたが……。


「ふぇ……!」


 バターに手が触れようとした瞬間、大地の精霊に変化が。

 両目にじんわり涙を溜めていた。


 彼女らにとってバターは血肉に等しいもの。それをヒトに譲り渡すのはどれほど惜しいことか。


「……受け取れませんッ!!」


 エイジは屈した。

 少女のような精霊が流す涙の前に。


「えッ、でもこれはしんこうのあかしなのですー?」

「お気持ちだけで充分伝わりましたッ! それはキミたちで食べると言い! だってキミたちの大事なものだから!!」


 エイジが言うと大地の精霊たちはキラキラした笑顔を浮かべる。


「わー、やさしいですー!」

「このオジサンやさしーですー!!」


 オジサン呼ばわりされるエイジ。


「よかっただなー!」

「あの旦那さん、ダリエル様みたいに優しいべー!」


 横で見ていたノッカーたちも友に喜びを表する。

 皆の心が一つになりつつあった。無駄に。


「オジサンありがとうですー!」

「あッ、そうだ代わりにこれをさしあげるのですー!」


 そう言って新たに大地の精霊が取り出したのは……。

 一枚の葉っぱだった。


「これ何?」

「せかいじゅのはっぱですー!」

「最近ごしゅじんさまがハマってるのですー!」


 なんでも世界樹の葉は、死人も生き返らせるほどの効き目がある霊薬なのだとか。

『ウソだろ』と思うエイジは、押し売り路上販売に引っかかりにくいタイプであろう。


「のーじょーのメンバーには一人一枚分けてもらったけど……」

「あたしたちは特にいらねーから、あげるですー」

「とくに惜しくねーですー!」


 贈答という行為に意味があるのだろうから、ここは素直に受け取って親交を示す。


 しかしエイジは、ここでハタと気づく。

 こんなにたくさん贈り物をもらえたのに、自分からは何の返礼品もないと。


 世界一の剣技を持ちながら、基本その辺を彷徨い歩く彼は持ち歩くものもないし、蓄えもない。

 あくまで放浪者であって浮浪者ではない。


 そんな彼に、この場で上げられるものなど……。


「何も持ってねえ!!」


 ちくわすら持ってないエイジだった。


「なんてことだ……、こんな小さく可愛い者たちにお小遣いすら上げることができないなんて……!?」


 自分の解消のなさを見せつけられて大ダメージを負うエイジ。

 心が折れてその場に崩れ落ちる。


「元気出すべ旦那……」

「そうですー、懐がさびしー時はだれにだってあるですー」


 小さい者どもに慰められるエイジ。


「そんな時、助け合っての世の中だべよー」

「わたるせけんは、鬼ばかりですー!」


 体は小さいのに、何と心広い者たちだろう。

 エイジは一発で心打たれてしまった。


「そうだ! うたげを開くですー!」

「いいナイスアイデアだべ! 酒を酌み交わせば心は一つになるべー!!」


『えッ? キミらお酒飲めるの!?』と困惑するエイジであるものの、ノッカーと大地の精霊は急ピッチに準備を進め、何やらご馳走を並べていく。


「ごしゅじんさまから貰ったチーズケーキを出すのですー!」

「オラたちはダリエル様の奥さんお手製のミートパイを出すだー!」


 以外にしっかりしたものを出してくるではないか。

 またしても用意できるものがないエイジは焦りだした。


 このまま持て成されるばかりでは沽券にかかわる。


「何か、何かできることはないか……!?」


 そう思い悩み、思い極まったエイジは腰に下げた剣を引き抜く。


「ひいいいッ!? なんだべえええッ!?」


 いきなり抜刀した男に周囲は驚き戸惑うが、それにもかまわずエイジは剣を振り上げ、技の名を叫ぶ。


「ソードスキル『一剣倚天(いっけんいてん)』」


 数多くのソードスキルの中で頂点に立つと言われ、天命を斬り裂くがゆえにいかなる防御回避も不可能とされる不破の剣。


 それを受けて大地の精霊たちが用意したチーズケーキも、ノッカーが用意したミートパイも、綺麗に等分へと切り分けられる。


「うへぇーッ!?」

「やったです! すごいですー!!」


 たった一振りでケーキに幾重もの切り目を入れ、等分で八つ六つにも細断したエイジの腕前に皆感動!


「おめーこんな特技持ってたんですー!? 見直したですー!」

「誰でも一つは特技らしいもの持ってるんだなー!」


 何故か上から目線で褒められるエイジだった。

 とにかく御馳走も揃ったので宴が開かれる。

 こうなれば身分の上下も所属の違いもない、皆友として騒ぎ楽しむ。


「飲めや歌えの大騒ぎだべー!」

「どったんばったんおおさわぎですー!」

「タイやヒラメの舞踊りだべー!」

「ひだりヒラメに、みぎカレイですー!」


 やんやの大騒ぎ。

 それに釣られてエイジも宴に加わるのだった。


「えッ? 待ってお茶とかお酒とかないの? 飲み物なしでこの食べ物を平らげるのはさすがにキツい! キツい……!」


 しかしそれでも飲み物なしでケーキを平らげる荒行を乗り切ったエイジ。

 口の中の唾液が、すべてケーキ生地に吸い取られた。


「いやー、お前いい食いっぷりだったべー!」

「なかなか見どころがあるですー」


 ノッカーや大地の精霊たちに認められ、頑張った甲斐があったかなーと思うエイジだった。


「さて、ではそろそろお暇するべー」

「あたしたちもですー」


 まったく同じタイミングで立ち上がる。


「えッ、皆帰っちゃうの?」


 その行動に虚を突かれたのはまだ座り込んでいるエイジだった。


「仕事があるべよー。ミスリルをたくさん掘り出さないとダリエル様が困るべ」

「あたしたちもごしゅじん様のいえをおそーじするですー!」


 こんな小さく可愛い存在も、果たすべき労働の義務を負っているなんて。

 現在特に職もないエイジは、何か追い詰められた心境になってしまった。


「おッ! 俺だってモンスターを倒し、世の人類種を助ける旅を続けないとなッ! なッ!」


 何故か対抗意識に圧されてしまうエイジだった。


「皆使命があるべなー、ここで出会えたことはオラたちにとって生涯の宝物になるべよー」

「どんなにはなれていても心はつねにひとつですー!」


 三人(三種?)拳を合わせ、友の契りを交わしてのち皆それぞれの世界へ帰還していく。


「……カサレリアだべ!」

「かされりあですー!」

「か、カサレリア?」


 エイジにとってはまったく知らない別れの挨拶に戸惑うも、まったくオウム返しすることによって凌ぎ切る。


 可愛い者たちが去り、一人取り残されたエイジ。

 嵐が通り過ぎていったような気分だった。


 最後にポツリと呟く。


「ウチもマスコットキャラ出すかな?」

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[良い点] 「カサレリア」で大爆笑してその響きで我にかえりました。楽しく読ませて頂きました。 [一言] 各作品の主人公の苦労が伝わってくる贈り物でした。ダリエルさん、覆面にした布の正体に気付いてしまっ…
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