リザードマンのカッツ
俺はリザードマンのカッツだ。
リザードマンは蜥蜴の亜人だ。
リザードマンにも複数の種族がいる。俺はフルーツや野菜を好む草食系の種族で、偉い学者さんが言うには草食イグアナが進化したらしい。他に肉食や昆虫食系がいる。どうもリザートマンは見た目から全部肉食と思われがちだが違うのだ。肉や魚も食べられなくはないが、メインにはしない感じだな。
草食、肉食のリザードマンは良いが、昆虫食のやつは大変そうだ。いや食べ物を探すのは割と簡単らしい。空き地でも見つけられるし、この都市から魔の森に続く草原で豊富に見つけられるらしい。ただ、食べるところを見られると騒ぐ人がいるらしいな。「Gはダメだ。すごい騒がれる。脂が乗って美味いのに」とのことだ。
この前な、護衛任務で公爵令嬢を王都まで送り届けて、途中襲ってきた盗賊を撃退したのだがとても感謝されて、食事に招待された。なぜか俺の前には様々な生肉が順番に出てきた。令嬢は「良いなお肉なんです、お口に合うと良いのですが」って少し不安な顔で言っていたから、我慢して食べよ。でも、同じパーティメンバーのエルフに出されてたマンゴーが食べたかったなー。良い感じで熟してうまそうだった。
我慢して肉食べたけど、あれ次の日の排泄物が臭いな。俺たち草食系リザードマンの排泄物は全然臭くないぜ。フローラルの香りがする勢いだ。すまん、フローラルは言いすぎた。
マスター!フルーツ盛り合わせをくれ。ちなみに何の果物があるんだ?バナナ?おーいいな。
酒は飲むが嗜む程度だな。怖いことに世界には蛇や蜥蜴を漬けた酒があるらしく、ドワーフが怖い目で見てくる。このバーでたまに会うドワーフだ。今も3つ隣のカウンター席で見ている。リザードマン酒とか考えているのか?自分を漬けたドワーフ酒でも試せよ!こっち見んな!
蜥蜴なので当然、変温動物だ。気温が低いと動きが鈍くなる。鈍くはなるがまったく動けないわけでは無い。ウシガエルだって氷の張った水中で活動するだろう?あれと一緒だよ。変温動物でも寒さへの強さは様々だ。
ただ冬の朝は全然ダメだな。少し気温が上がって体が温まるまで動けない。あとは雪が降るダンジョン階層があるだろ、あれはダメだ。装備を整えないと動けなくなって眠くなってしまう。多分永眠してしまうのでは無いだろうか。
一応、魔力を流すとポカポカする機能がついた防寒具セットがあるのだ。これを持って挑むことにしている。顔まで覆うのだがリザードマンに会うフェイスマスクが少なくてな、探すのに苦労した。ダンジョンの途中にあると避けて通れないからな。
防寒具で思い出したが、リザードマンはあまり服を着ない。腰巻程度だ。鎧なんかの防具も肌の上に直接着る。人間と違って皮膚が硬いからな、鎧下とか皮膚を守る服が必要ないんだ。
ただなー、服を着ないからデューラップが目立つんだ。デューラップといのは皮膚の弛みのことだな。イグアナなんかの首にもあるだろ。あのたるみだ。蜥蜴としては普通なんだがな、他のパーティメンバーに「首がたるたるー」と言ってからかわれるんだ。種族の特徴をいぢるのはダメだと思う。
ちなみに蜥蜴と同じで脱皮で体が大きくなっていく。うちの種族は体のいろんな場所がバラバラに脱皮していく感じだな。3週間ぐらいは体からポロポロと皮が落ちる。この期間は少し体が痒くてつい掻いてしまう。習性なので許して欲しいが、パーティメンバーのエルフがうるさく文句言う。優雅に生きたいエルフにとって皮を掻くのは優雅じゃなくてダメらしい。知らんがな。
宿の部屋も落ちた皮で汚いな。宿の娘のエイミーちゃんは気にするなと言ってまめに部屋を掃除してくれようとするが、申し訳ないので脱皮期間中は自分で床掃除している。エイミーちゃん良い子だよなー、駄エルフは見習って欲しい。
リザードマンは男性女性がわかりづらいと言われる。種族によっては色が違う場合があるらしいが、うちの場合は尻尾の付け根がちょっとだけ違う。腰巻つけているので見えないし、他の種族には判断つかないだろう。リザードマンが出会うとお互いの性別が一眼でわかるのだがな。ドワーフの性別より簡単だと思うぞ。
女性のリザードマンは、たまに失礼なことを言われるらしい。相手には悪気なく、男性のリザードマンだと思って言ってくるらしい。
当然俺たちは卵生だ。うちの種族は卵の温度を一定に保つために春先に卵を産む。昔は土に埋めて温度を保っていたらしいが、今は布で何重かに包んで暖かい部屋や場所に置いている。
あと夜の営みも少し違う。人間のように激しくはない。あんなに動いて相手の愛情を感じる暇があるのだろうか。静かに相手のことを感じながら体を合わせるのは幸せだぞ。まあ種族が違いすぎるので、爬虫類系の亜人にしか魅力を感じないので問題ない。駄エルフが「私の魅力がわからないの?」と言うことがあるが、真面目に分からん。なんか肌がつるつるして怖いし、頭から背中にとげが無いのがちょっと美しくない。
ちなみに俺には立派なとげを持った彼女がいる。とある島出身でサボテンを主食とするリザードマン種族の子だ。この都市ではサボテン手に入らないから、鉢植えで自分で育てている。サボテンは自分が頑張ったご褒美としてたまにしか食べていなくて、日頃は野菜で我慢しているけど苦味が足りないらしい。爪が立派で美しい子だ、その爪で巨大なサボテンにも登って柔らかい部分を食べていたらしい。今ではその爪でモンスターを切り裂く立派な前衛職だ。
マスター、この店でサボテン料理出せない?無理かー、そうだよなー。持ち込めば料理してくれるのか、彼女に言ってみるよ。
同じリザードマンでも種族の壁がないわけじゃ無いぞ。彼女は脱皮した皮を食べる種族なんだが「あなたの皮を食べたい」と言ってくれた。彼女の種族の愛情表現らしい。俺はそれを聞いてちょっと引いてしまった。その姿を見て彼女が怒ったんだ。仲直りするまでに2週間かかったよ。
それからは、お互いの種族のことを話すようにしている。自分にとっては当たり前だと思うことも話すのが大事だ。お互いのことがよくわかるようになってきたと思うのだが、彼女の次の脱皮では皮を食べてあげないといけないんだろうなー。ちょっときついな。
まぁいろいろあるが、この都市で幸せを掴めそうだ。ただ乗り越えなくちゃいけない苦労が幾つかあるだけだ。がんばるよ。