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狂気に笑うもの  作者: 耳の缶詰め
3/7

強者

 人に銃口を向けた時、私が一番最初に見るのは、その人の表情だ。その表情を見れば、その人間がどれほど強いかを判別できるからだ。


 銃口を向けられた時、人は死を恐れる。銃で人が簡単に死ぬのは、ドラマや映画の世界でよく目にしていて、気づいた時には本能にそう刻まれている。その本能を刺激する。つまり、銃口を向けて死を突きつけた時、その人は本来の姿を見せてくれる。いくつもの人間を殺した人間ほど、死というものを目にした人間ほど動揺を見せない。それはその本能に慣れていることであり、すなわち、この世界の強者と言える。

 

 私が死に対する恐怖がないと言えば、それは嘘になる。私にも死を恐れる本能が備わっているからだ。しかし私は、銃口を向けられても一切の動揺を見せない。それは私が強者だからではない。自分の本能を、この世界から切り離しているからだ。


 それがどういうことか。端的に言えば、私はこの世界をゲームだと思っている。例えば今のこの状況。帽子を深くかぶった男が、目の前で私に銃口を向けている。これがゲームの世界であれば、主人公を操作するプレイヤーは、命の危機を感じることはない。たとえここで銃を撃たれてゲームオーバーになっても、前のセーブデータをロードすればまたやり直せるからだ。


 またやり直すことができる。それは、終わらないことを意味する。私はここで死んでも終わらない。そう強く信じている。そう信じ込むことで、私は今まで生きてこられたのだから。


 私は、臆することなく銃口を向けるその男を、平気な顔で眺め続ける。かれこれ十分は続いているこの状況。そのまま引き金を引けば、今の私はどうすることもできない。それなのに、男は帽子で顔を隠したまま、指を動かす気配を見せない。


 過去にこの状況を覆されたことでもあったのだろうか。それとも、何か交渉を持ちかけるつもりか。警戒し続けている理由が見えてこない。仮にこの状況を覆せるとして、私は一体何ができるだろうか。全く見当がつかない。もしも男があらゆる出来事に警戒しているというのなら、間違いなく男は私よりも強者だ。


 そしたら、このデータの私は、諦めるしかないようだ。またロードし直した時には、この男と出会わないように動かなければいけない。どこかで道を変える必要がある。少々面倒だが、その試行錯誤が、ゲームの醍醐味でもあるか。ゲームの思考で恐怖を封じたまま、私は負けが決まった戦闘を終わらせようと歩き出した。


 一歩踏み出したその瞬間、男がビクッと体を震わせたのが目に映った。それは、明らかに動揺から生まれた動き。おかしな話しだ。彼は私よりも強い人間ではなかったのか。そのまま私は歩いていく。近づく私を見ていると、男は一歩後ずさりした。まさかと思い、私は男の顔を覗きこんでみる。そこで私はすべてを理解した。帽子で見えづらかった目は泳いでおり、隠していた頭からは大量に流れる汗。


 どうやら、私が彼を警戒していた時間は無駄だったらしい。私はポケットに手を入れる。残りは三発。そのままゆっくりとハンドガンを取り出してみせると、男は持っていたハンドガンを落とすほど慌てふためき、背中を向けて一目散に逃げようとした。一度死を突きつけた男に、慈悲をかける必要はない。私は引き金を引き、男の真ん中に銃弾を撃ち込んだ。


 男が倒れ、拍子に頭から外れた帽子が傷口の上に降っていく。呆気なく終わる戦闘。私はハンドガンをしまうと、男が落としたハンドガンを拾ってマガジンの中を確認した。そこには案の定、弾は一発も入っていなかった。

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