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狂気に笑うもの  作者: 耳の缶詰め
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娯楽

 人が生きるためには、食べるものがなければいけない。それは本来、お金を使って手に入れるものだったはずだが、変わり果てた世界では、その常識は通用しない。自然界で、肉食獣が草食獣を狩るのと同じように、外に残っている食料を探し求めては、時に人を殺して奪うしかないのだ。

 

 都市部から離れた静かな住宅街。そこでさきほどの男から奪った缶詰を見てみる。店で見られるハム肉の缶詰。火を使って焼けたら、さぞおいしいものになっただろう。だが、この世界で欲張ることは、死の危険性を高めることになる。ここは我慢するほかない。昨日に比べたら豪華な夕食だと、自分に言い聞かせて我慢する。


 ふと、背後から気配を感じた。私は手に持った缶詰をポケットにしまうと、そのままの態勢で歩き出した。


 ハンドガンの弾は残り六発。ポケットの中でハンドガンに手をかけながら、目だけを動かして辺りを見回す。二階建ての木造建築。玄関への道を遮るその塀なら使えそうか。なるべくその家まで距離を縮めるように歩き続けると、なおも背後からは、途中で身を隠しているつもりなのか、不自然に消えたりする足音が聞こえていた。


 警戒しながらしばらく歩き続け、目的の家の前で足を止める。それと同時に足音が不自然に止まろうとすると、私はすかさずポケットに握っていたハンドガンを取り出して振り向いた。そこに見えたのは、電柱の裏から出てこようとする、中学生くらいの男の子だった。私が向けた銃口に驚いたのか、一瞬だけ彼の動きが固まる。それでもすぐに顔つきを変えると、男は右手に持っていたハンドガンを構えようとした。それが見えた瞬間、私は容赦なく引き金を引いた。


 彼が反応したころには、銃弾は胸のど真ん中を貫いていた。小さな悲鳴を上げ、その場で血を流しながら倒れる男。あっけない終わりだ。私はハンドガンをしまうと、いつものように死体の体を調べ、彼の持っているものを見つけると、それを持ってその場を離れていった。


 この世界に娯楽は存在しない。小説は火元になるし、携帯電話だって充電に限りがある。仮に娯楽があるとするなら、それは頭の中で妄想に浸るくらいだろう。私は空になったハム肉の缶詰を床に置くと、座りながら今日殺した人間の顔を思い浮かべた。


 今日殺したのは二人。一人は朝出会った金髪の男。その男からはハム肉の缶詰と、使われてないハンドガン一丁を頂戴した。そしてもう一人は、数時間前に殺した中学生くらいの男。その男からも、確かハンドガンを頂戴したはずだ。曖昧な記憶を確認しようと手持ちを見てみる。すると、奪った二丁のハンドガンの中から、一枚の写真が出てきた。


 そうだった。あの男からはこれも頂いたんだった。それは、中学生くらいの男から出てきたもので、この写真だけ綺麗に残っていたのを不思議に思い、なんとなく一緒に持ってきたものだった。その写真を今一度見てみる。そこに映っているのは、殺した男と同い年くらいの女が、二人仲良く笑い合ってる姿だった。


 仲睦まじそうな関係。それ以上に、平和だったあの頃。


 私はその写真をポケットにしまうと、その男から奪ったハンドガンを手に取り、弾が込められているマガジンを抜き取る。その中に残っていた弾の数は、たった一発だけだった。


 驚きのあまり手を止めてしまう。彼はこの一発だけで、私を殺そうとしたのか。なんとも無謀な。この一発を外していたら、どうするつもりだったのか。いや、それほどまでに追い詰められていた状況だったのか。そんな状況でも、残り一発の銃弾にすべてをかけ、私に近づいたのかもしれない。だが、彼は結局私に勝てなかった。それがこの世界のすべてだ。


 私は弾を抜き取り、自分の使っているハンドガンに込めていく。そんな時、ある思考が脳裏をよぎった。


 もしも、彼が私に勝てていたのなら、その後、彼は一体どうしただろうか?


 私はさっきしまった写真をもう一度取り出した。もしかしたら彼は、この女の子を探していたのかもしれない。狂い果てたこの世界に、電話などの連絡手段は存在しない。電波なんてものは消えてしまったからだ。だから彼は歩き回って探していたのだろう。私と同じように、誰かを殺していきながら。あの時気配を完璧に消せていれば、彼は私の不意をついて、殺せていたかもしれない。そして、私からハンドガンとハム肉の缶詰を奪って、また女の子を探し続けただろう。


 これは都合のいい妄想だろうか。いや、きっと彼は彼女を探していたに違いない。そう思ってしまうのはきっと、彼の最後にあげた悲鳴が、誰かを呼んでるように聞こえたからかもしれない。


 ――バカげた妄想だ。


 私は写真をしまい、ハンドガンの弾を入れ直した。

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