老星落つ 〜託された未来〜
「お祖父さま!」
「父上!」
「…そう騒ぐな」
安東家忠は自分の屋敷で横になっていた
重朝に診てもらったが病気ではなく老衰だという
つい半年前まで槍を振るって騎馬突撃をかましていた老人とは思えなかった
「もう少し見たかったな…」
若い夫婦の姿を思い浮かべる
「若殿は冷静でいようと努めていらっしゃる。しかし、根はとても情の厚いお方。いざという時はお止めせよ。あのお方は何より家臣のことを大事に思っておる。その優しい若殿を支えるのだ」
「かしこまりました。それ以上お話になるのはお身体に障ります」
「姫君は大殿譲りの武辺を備えておる。少々頑固なところも含めて今は若殿が手綱を握っておるが…大殿が亡くなったとき注意せよ。よく支えるのだ」
「わかりました。わかりましたからどうか安s「家臣たちはよくまとまっている。しかし、若殿たちの前ではきっちりしておるがちと個性的すぎる。惟信殿は少々豪快過ぎる。彼の案は少し冷静になって聞け。増時殿は戦もできるが内務に輝くお人だ。数を重視しすぎないようたまに進言してやれ。」
「わかりましたから父上、お休みください」
「鎮幸殿は強い。まさに武辺者。よく手ほどきしてもらえ。連貞殿は将棋が上手いぞ。ただし決して二人きりになるなよ。男色が好きすぎる。鎮久殿はほとんど話さぬが、ぜひたくさん話しかけるのじゃ。あのお方は実は話をするのがとても好きなのだ。恥ずかしがり屋ではじめはなかなか話してもらえないだろうがな」
家忠は新たに入った武将たちの性格まで挙げていく
彼は絵を描くのがうまい、彼は口は悪いが根はいいやつだ、彼は大食らいだ。
一通り言い終わった後
その目は優しい目だった
「もう少し見ていきたかった。若殿はきっと我々に見たことのない世界を見せてくれるだろう。それを見たかった」
「お祖父さま…」
「父上…」
「よいか?よく支えよ。私の遺言はそれだけじゃ」
周りにいた一門は暗い顔を見せる
家忠はそんな周りにいる家族の中で唯一笑いかけてくる者を見つけた
妻だ
そばに寄ってきて手を握る
「見れるところまで見て追いかけます。あなた様が見れなかった世界を…天界からではなく地上から見た記憶を自慢するために」
「ありがとう」
長く寄り添ってきた彼ら夫婦はこの別れを一時的なものだと確信していた
「それから伝えておきますね。あなた様は最後に戦いの場をくれ、何度も見舞いに来てくださった若殿と姫君にとても感謝していたと」
「ああよろしく頼んだ」
その一言のあと彼は目を閉じた
安東家忠
道雪に武勇絶倫の将と賞賛された猛将は史実よりも2年近く長く生き死んだ
それは決して猛将だったことなどわからない程安らかな最後だった
彼の妻は少しの間顔を伏せるとすぐに立ち上がった
「籠を用意してください。若殿と姫君の元へ参ります」
彼女は約束したのだ
夫が地上で見れなかった世界のことを
夫が天界から見ているだろう世界のことを
次会うときにたくさん自慢する
だから自分が死んで夫の元へ行くまで決して歩みを止めないと
それはまさに猛将の妻だった




