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ACT.5 ウスイザッコ、大破!

 最近、あまり戦闘もなくのどかな日々が続いている。あまりにヒマなので、ついにメインブリッジにテレビサイズのモニターとゲーム機が持ち込まれた。クルーが交替交替で使ったりもするが、もっぱら使うのは例の六人組だった。僕は彼らを観察している方がおもしろかったので、本を読みながらときどき彼らを見ては忍び笑いをしていた。

 キアト中佐についてはあまり新しい発見はなかった。自己主張も激しいしおしゃべりだし、今までに得たイメージどおりの人物だった。一つ意外だったのは、彼女が大勢でやるゲーム(人生ゲームなど)をやたら敬遠することだった。真っ先にやりたがり、一人で必要以上に盛り上がり、さんざん騒いだあげく負ける……というのが僕の抱いていたイメージだったのだが。わかりやすく、そして強烈な人物だ。パワーがある。

 ウスイ大佐は一見キアト中佐に頭が上がらないように見えるが、実は一番中佐の操縦法をわきまえているようだった。中佐はいつも高飛車にわあわあ言っているが、大佐のしれっと放った一言にグウの音も出なくなることがよくあった。残念ながら大佐には統率力や指導力といったものはあまりないようだった。それも案外中佐が大佐を牛耳っているためそう見えてしまうだけなのかもしれない。クールで飄々としたところがあり、会話の端々から頭のいい人物であることがうかがわれた。

 リオリ中尉は普段そんなに目立った行動をしないのでわかりにくいが、実はこの6人の中で一番常識をわきまえ、一番気を遣い、そして一番我慢している人のようだった。中佐も中尉にはかなりの比重を置いていて、彼女が言うことにはあまり異を唱えなかった。意見が割れたときも、あの中佐が中尉には比較的簡単に折れた。6人の押さえ役であり、バランサーでもあった。ただ、やはり不毛なものを開発するのが好きで、そういう意味では間違いなく変わった人だった。先日肩もみマッサージ機を色っぽい声でしゃべるように改造したのも中尉である。以来、気味が悪いので誰も使わなくなってしまった。常識をわかっているということと、常識を実践するということは別なのだ。

 丑五郎侍少尉はたしかに大ボケな人だった。自分で注文した白玉ぜんざいが運ばれてきたら「あっ、白玉じゃん」と驚いていた。6人で取り分けて食べていたサラダが残り少なくなり、「オレ食べていいっスかね」と許可を取ったまでは普通だったのだが、そこからはなぜか取り分け用のトングで口に運び始めた。猛烈に食べにくそうだった。とにかく、彼は我々と同じ地面(とは言ってもここは宇宙戦艦の中だが)に足をつけて生きているとは思えない不可解な挙動が多かった。彼は絵もうまいらしく、食堂の新メニューのポスターなども書いていた。だが、八宝菜定食の告知ポスターには黒地に赤い斑点があるトカゲと服を着た二足歩行のどぎつい紫色の犬が書かれ、犬は「ワンダホー」と言っていた。なんとなく八宝菜定食を食べる気がそがれ、今だに手を出せずにいる。

 タモト軍曹は、キアト中佐を末っ子にしたような人だった。中佐はあれでも上に立つという自覚と責任感があり、人柄はどうあれ頼りにはなった。だが軍曹は、比較的階級も下で経験も浅い。自分のペースで行動し、自覚のないままにいろんなことをしでかす。時々驚くほどとんちのきいた言語センスを見せるが、本人は変だと思っていないらしい。元気の良さは中佐に勝るとも劣らない。もちろん野球好きは相当のものらしく、彼女のカレンダーは野球シーズンと、彼女の時計はナイターとリンクしていた。

 スズミー少尉は、はじめに操縦技術の高さに、次に男性だと早合点して……と驚かされ通しだったが、観察していてその実体にも驚かされた。僕はそれまで彼女のことをすばらしい軍人だと思っていた。天性の戦闘センスと操縦技術に恵まれ、だが決して天狗になることなく、理想のパイロットだと思っていた。しかし、彼女の正体は単なるゲームオタクだった。ブリッジにゲームが持ち込まれてから、彼女のゲームの腕をつぶさに見る機会が何度もあった。鮮やかだった。彫像動力機の操縦など、ゲームの腕に比べれば実力の半分程度でしかないと思った。さらに僕が驚いたのは、彼女の父親も弟もこういうレベルに達しているということだった。彼女は父親の手作りの攻略マップを見てタイムトライアルをしたり、父親のプレイを録画した攻略VTRを公開したりしていた。攻略マップやVTRの出来も、そういう環境も、彼女自身の腕もすごかった。「テクモンの悪夢」というニックネームの由来である「テクモンの鍵」の腕も見た。あれは、悪夢だった。

 あの6人中、中佐と軍曹はにぎやかな人であり、あとの4人はどちらかというと静かな人に属するだろう。そして、彼らの中で一番まともなのはウスイ大佐らしい、そう僕は思った。


 その日、白鶏は敵の勢力圏を航行していた。事前に丑五郎侍少尉からかなり危険な空域であるという報告が入っていた。白鶏は臨戦態勢をとり、とりつくような形でGMDMJP02とザッコが併走していた。

 前方に大きな暗礁空域が見えてきた。この辺にはコロニーも敵基地も何もないはずなのに大きな人工物が浮遊している。イヤな感じだった。

「JP02、暗礁空域の偵察に出ましょうか」

 スズミー少尉が通信してきた。中佐は、

「うーん、一応前方の暗礁空域以外は超見通しがいいんだよね。電磁煙幕も検出されてないし。敵が来るとしたらあのゴミためだけかしら」

 としばらく考え込んでいた。すると丑五郎侍少尉が横から言った。

「オレが脱走して敵に救助してもらいましょうか。それで居場所が分かるかも」

「アンタねえ、まるで姿を現してない敵に向かって捕虜が帰っていったら変でしょう。超不自然だとは思わないの? 捕虜が我々に敵の位置を教えてくれるようなモンだわ」

 中佐があきれて言った。中尉もうなずいた。

「丑五郎侍くん、誤認したとか言い訳して撃たれるよ、しまいにゃ」

 そりゃそうだ。隠れてるときに「おーい、そこにいるんだろー?」などと言いながら近づいてくる奴がいたら迷惑この上ない。

「丑五郎侍くんは、情報だけ教えてくれればいいの。なにか行動するとロクなことないんだから」

 中佐にたしなめられて、少尉は、

「超つめてー」

 と言い返していた。

 キアト中佐はリオリ中尉に意見を求めた。中尉の見解はこうだった。

「このまま本隊でつっこむのは、やっぱり危険でしょう。GMDMJP02とザッコを偵察に出しましょう。危険になったらすぐに戻るように言って出すことにして、他の数機をベースの護衛に張り付かせれば……」

 と答えた。中佐はマイクに向き直り、艦の外を行く2機に指示を出した。

「聞いてのとおり。行ってください。ただし敵機を撃墜する必要はなし。敵機の出現と同時に後退してください。地形的にベースが不利だ。こっちは暗礁空域を迂回するコースをとるよ。注意して。君らが暗礁空域で交戦中に別動隊がこっちに来たらアウトだ。絶対に暗礁空域での戦闘はしないこと。じゃあ、よろしく」

 いつもの中佐なら「撃墜しなくていいからさあ、ちょっと行ってきてよ」とでも言っただろうが、いつになくシリアスである。今回はそれだけ危険な空域なんだろう。

 パイロットが何人もスタンバイに出ていき、僕ら新米とリオリ中尉、タモト軍曹が残った。タモト軍曹は機動力のある遠距離射撃機に弱い。技術というより力押しでねじ伏せるタイプだから、敵戦力が不明な時点では絶対に出撃しない。戦艦、重量級の相手となれば軍曹の出番である。

 やがてベースの援護に15機あまりが隊列を組み、それを合図にGMDMJP02とザッコが出ていった。

 それから3分もたった頃だろうか、通信用緊急警報が大きな音で危機を告げた。これはベースが危機に陥ったときのアラートとは違い、出撃した味方機などから入る警報である。

「緊急事態、ウスイザッコ、集中攻撃を受けて大破しました! かろうじてしのぎましたが、マークが厳しく暗礁空域からの脱出ができません! 私も戻れません、今ここを離脱したらウスイザッコが沈みます! 現在ウスイザッコの援護で手一杯です! 残弾が尽きたら終わりです、援護をお願いします!」

 スズミー少尉からの声が響きわたった。映像まで送っている余裕がないのだろう、音声のみの通信だった。

「やっぱ、ザッコを狙うよね、敵としては」

 困った顔で中佐が言った。

「まあ、やむを得ないですね。機体が機体ですから」

 中尉も言った。

「じゃあ、私出ますよ」

 タモト軍曹が立ち上がった。だが手負いのザッコに無差別攻撃でとどめを刺すのはこの人かもしれないと思い、ぞっとした。

「ちょっと待って」

 中佐が軍曹を引き止めた。

「リオリさん、あれを試しましょうよ。ウスイくんの最終兵器」

「え、あれですか。イヤですけど、しょうがないですね」

「ちょうどタモトも残ってるし」

 大佐の最終兵器? あのザッコが何か変形でもするのだろうか? いや、「タモトも残ってるし」とはどういうことだ?

 混乱する僕など眼中にない彼女らはなにやら作業を始めた。

「カタパルトで射出角度の調整をしましょう。微妙な方角のコントロールはタモトにやらせればいいから。ザッコの座標は割り出せるかしら」

「あっ、いました。このポイントだと、……待ってください、今出します」

 中尉はなにやら計算をして、タモト軍曹に指示を出した。

「タモト、ノーブルGMDM格納モードスタンバイ。左のカタパルトで出撃、ターボはこっちでセットするからそっちは通常で。あと、サブ推進システムにこの数値を入力して」

「オッケーっす。これ、座標ですか?」

「そう。その地点で時速150キロに減速、離脱して。あとは最低限の応戦のみ、攻撃は禁止。すぐベースにとって返して、あとはベースの防御ラインに参加して」

 軍曹が駆け出していくと、リオリ少尉が操舵係をどかせ、何か数字を入力した。

 ぐらっ、という軽い揺れとともに、ベースの角度が変化した。彼女たちがいったい何をしようとしているのか、僕には見当もつかなかった。

「ウスイくんと連絡は取れるかな」

「やってみます」

 だが、回線が破損しているらしく、大佐のザッコと連絡はつかなかった。

「スズミー、ウスイザッコは通信不能だ、これからアーマーを射出するから、そっちでなんとかしてくれ!」

 中佐がスズミー少尉に連絡を入れ、その時左カタパルトにノーブルGMDM格納モードが出現した。

「出すよ! 10秒後ね、モニターにカウント出しとくから!」

 そしてノーブルGMDMの甲冑が銀玉鉄砲のように発射されていった。

「またなんか作ったんスか?」

 飄々とした風情で丑五郎侍少尉が言った。

「いや、今回は発明じゃないよ」

 中尉が答えた。

「ふーん。でもウスイも、ザッコじゃなきゃダメなんスかねえ……」

 丑五郎侍少尉がひとりごちたので、僕は勇気を出して声をかけた。

「恐れながら、大佐になぜもっといい機体を使っていただかないのですか? あのザッコは、すべてにおいて我が隊のどの機体よりも劣っていると思われますが」

 それを聞きつけて、中佐と中尉がこちらを見た。さしでがましいことはわかっているが、大佐にもっといい機体をあてがっていればこんな危機には陥らなかったはずだと思った。

「……まあ、常識的にはそう思うわね。ははは」

 キアト中佐が笑った。

「シンジンくん、あのねえ、奴はアレじゃないと、ダメなんだワ」

 中佐がそこまで言ったとき、通信が入った。スズミー少尉だった。

「映像を転送します!」

 見るとすごい勢いでノーブルGMDMが飛び込んできた。それをJP02とおぼしき腕(JP02自身からの映像であるため、腕しか見えない)がキャッチしてコロニーの残骸の中に投げ込んだ。それを合図にひどく傷ついた大佐のザッコが残骸から顔を出した。まるで着替えでもするように、ザッコはノーブルGMDMの甲冑を着込んでいる。あれ?と思った。ノーブルGMDMの中身は?

 そしてすぐに合点がいった。「離脱」というのは、例の甲冑からノーブルGMDM本体が離脱することだ。そして胸に「乙女」の文字が入った甲冑だけが大佐のもとに届いた。ノーブルGMDMとザッコの身長はほぼ同じ、そして甲冑は異様にずんぐりむっくりだ。ザッコでも装着可能だろう。

「乙女アーマーの装着完了!」

 大佐の声が響いた。

「あれ? 通信が復活したのでしょうか?」

 僕は訊いた。

「いや、あれは、周波数いくつだかの、無差別放送用マイク」

「ああ、終戦を伝えたり、宣戦布告したりする時に使う、敵味方関係なく入る放送ですか」

「そ」

「あ、でも、ザッコの通信機能は……」

「うーんと、基本的に、通常の通信機材と別の装置を使ってるんだよね。これは敵味方問わず、国際協定で決まってるの。あの甲冑に装置が仕込んであって、そこから……」

 中尉が答え終わらないうちに、また通信……いや、放送が入った。

「これより、乙女ちっくモード入ります!」

(乙女ちっくモード?)

 間違いなく大佐の声だった。映像の中で「乙女」の文字の甲冑を着たザッコがむっくりと姿を現した。JP02は周囲の敵を一掃するべく戦闘態勢に入ったのだろう、ザッコを視界から外した。

 それから信じられないことが起こった。

 宇宙空間に流れる大音量。何かの歌のイントロのようだ。そして男性の声が歌いだした。

「ドキドキ♪ ときめき♪ カレのハァトをつかみたぁい♪ おとめの気持ちぃ、今、とどけたぁ~い☆☆☆」

「た、大佐!?」

 僕は頓狂な声をあげてしまった。中佐と中尉はイヤな顔をしてうなずいた。

「この曲知ってる?シンジンくん」

 僕は首を横に振った。

「我々が高校の頃に流行ったボーカロイド系のアニメソングだから、知らないよねえ。私がカラオケで歌おうとすると、ウスイくんがゼッタイにもう一つのマイク持って一緒に歌っちゃうんだよね~。サイテー」

 いや、説明はわかったが、僕には状況が飲み込めない。だが、JP02から送られてきている戦闘空域の映像では、敵機に明らかな動揺がうかがえた。

「おとめのまごころ受け止めてほしい~♪ ちいさな胸がふるえるのぉ☆(男声)」

 そりゃあ動揺するだろう。さらに、間奏の間に、語りまで入ってしまった。

「はァい! 今、戦場に来ていまーす! 敵に囲まれて、ちょっとやばいカンジぃ!

 でも助かりたいので、心を込めて歌いまあす!(男声)」

 そして歌は二番に入った。歌声にかく乱されている敵を、JP02のビームブレードが切っていく。ノーブルGMDMの姿も遠くに見える。甲冑は脱ぎ捨てたが狂戦士モードには入っていないらしく、追っ手を破壊しながら確実に後退していた。時々被弾していたが、危険空域は脱したようだ。

 そこでサビが繰り返され、歌は終わった。レーダーを見ていたクルーが、

「GMDMJP02、乙女ザッコ、暗礁空域から間もなく離脱できそうです!」

 と叫んだ。

「みんなすごおい! 私もなんか、撃ってみよっかナ? えいっ。これかナ?(男声)」

 世にも異様な甲冑ザッコがビーム銃を発射した。2機の敵機が確実に撃破され、ああ、あれは確かに大佐なんだ……と思って愕然とした。

「やったあ、2機も沈めちゃいましたあ! じゃあこれで帰りまあす(男声)」

 呆然とする(という風に、僕には見えた)敵機を尻目に、大佐のザッコが暗礁空域を離脱した。何機かがあわてて後を追おうとしたが、JP02にあっけなく斬られた。JP02はさっきからずっと飛び道具を使っていない。残弾はとっくに切れているのだろう。ザッコの背中を見送って、JP02も離脱した。

「もうちょっと敵の数が多かったらやばかったね。あれでザッコを叩いてスズミーを押さえて、そのスキに白鶏をやるつもりだったんでしょ」

「おそらくそうでしょう。ザッコにとどめを刺さなかったのも時間稼ぎじゃないんですかね。撃沈されてたら、さすがにスズミーもベースに戻ったでしょうから」

「手負いのザッコおいて逃げられるほど、奴は軍人じゃないからね。感心、感心。しかし、我が隊の主力は、こうして見ると層が薄いねえ」

「そうですねえ、タモトは遠距離戦では使えないし……。しかも主力の一機はザッコですからねえ」

 そんな中佐と中尉の会話を聞いていて、僕は彼女たちとの話が途中だったのを思い出した。もはやだいぶ時間がたってしまったが。

「そ、そういえば中佐殿! 自分は質問の途中でありました! よろしいでしょうか!」

 僕は彼女らに声をかけた。

「キミさあ、その軍人系しゃべり方、疲れない?」

 中佐が失笑しながら言ったが、僕はいかににわかとはいえ、訓練を受けた軍人である。

「は、上官に対する礼儀を失してはいけないと……」

「我々、超失しまくりじゃん」

 中佐が言うと、中尉が苦笑した。

「いや、我々が失しているのはウスイくんに対してだけですよ。私、キアト中佐にはちゃんと丁寧語だし。タモトは全員に丁寧語使ってるし」

「あっ、そーかー。私もウスイくん以外に上官いないしねー」

 また話が脱線していく気配だったので、僕はもう一度、

「それで、質問ですが……」

 と切り出さなくてはならなかった。

「あ、そうそう、なんだっけ」

「なぜ、大佐にもっといい機体を差し上げないのかということをお聞きしました!」

「あー、そーか、リオリさん、説明してやって。私だと『なんか、その方が強いしー』で説明が終わっちゃうわー」

「いや、要約するとそういうことなんですけどね……。シンジンくん、キミも実地訓練とか、一応受けてきてるよね。その中で機体適正テストっていうのがあったでしょ」

「は、あの、戦闘機タイプ、彫像動力機モビール・スーツ2機種、特殊戦闘マシン、精神感応の能力測定ですか?」

「そう、それそれ。彫像動力機は2機種自由選択だったでしょ。キミは何を選んだの?」

「自分は、ブラスターSTスタンダードと、量産型GMDMを……」

「ふーん、地味なの選んだね。その時、ウスイくんは選択肢にないポンコツ旧型機の『ザッコ』を希望して物議を醸したんだけど、上級の機体を希望したならともかく、最下級の機体だからなんとか許可が下りて、ザッコとGMDM実用2号機で能力測定を受けたんだよね。とにかくそれでウスイくんの成績、戦闘機と実用2号機、特殊機、みんなAクラス。あ、ちなみに精神感応は適正低かったんだけどね」

「はあ、さすがに大佐にまでなる方は、違いますね」

「シンジンくんは?」

「はあ、恥ずかしながら、戦闘機がBで、あとはCです」

「でもそれは私も精神感応と大型彫像駆動機でB、あとはCだから。Dで普通くらいでしょ。ふつうだよ」

 そこに中佐がチャチャを入れた。

「スズミーはねー、戦闘機と彫像動力機以外、全部Aだよ。ちなみにそのAじゃない2つは、超A級ってことでAAっていうのが新規に作られたのー」

 自分のことでもないのに自慢げな中佐の態度がおかしくなって、僕はまたいたずらっ気をおこした。

「それはすごいですね、ちなみに中佐殿は」

 と訊いてみた。僕は本来上官に軽口をきくタイプではないのだが、中佐はなんとなく人にナメられるスキのようなものがある。まあ、これも戦略なのかもしれないが。

 案の定、中佐は途端にふてくされて後退し、ソファに座ってしまった。

「キアト先輩はね、戦闘機、彫像動力機がE」

「リオリさん、部下に上官の悪評を吹き込むのは、問題行動ですよ」

「悪評じゃありません、事実です」

 僕は笑いそうになる自分を必死でこらえた。だが、中佐まで上がる人が、E! 結構驚くべき成績だ。Fになるとパイロット不適、Gになると入隊不可だ。

「でもねえ、あとがねえ……」

 中尉は言った。あと? これ以上低いってことはあるまいから、まさか他がA、それともまさかまさかのAA……

「センパイの特殊機の選択は最大の彫像駆動機ビッグ・サムだったんだけど、反応、操縦、理解度はほとんどダメなのに、ダミーエネミーをすごい勢いで掃討したんだよね……撃破数No.1。これがどうにもわからないということで、成績は未知数のオーがついてる。センパイが何をどうやってその撃破数を出したか、わかんないんだよね」

「私も知らない。テキトーやったら、なんか出た」

 ソファから中佐が言った。リオリ中尉はさらに続けた。

「それから……精神感応がねえ、これもオーなんだよね。精神感応制がOって人は結構いるからいいんだけどね」

 精神感応は、Eの人が突然覚醒した例なんかが結構あるという話だ。意外ではない。

「ただ、センパイの場合始め全然ダメで、見学中の上官たちが成績表見て『この子、軍人向いてないんじゃない』かなんか言ったんだよね。そしたら、全部の飛翔型精神感応砲台一斉発射して、その連中をぴたっと狙ったんだ。でも、誤作動のアラートが鳴ってたから、何が起こったかわからなくて中止になったの」

「だって悪口聞こえたんだもん。むかつくじゃん」

「試験中のマシンに見学用のブリッジの音声は届きません。通信入れてたならともかく」

 中尉にたしなめられて、中佐は「ちえー」という顔をした。

 中佐をからかうとリアクションが大げさで楽しい。また僕は、軽口をきいた。

「それで、その、こう言ってはなんですが、よく最前線に配属されましたね」

「よけいなおせわー」

 中佐はソファからずるずるずり落ちながらますますふてくされていた。

「シンジンくん、キアト先輩、戦略・戦術の筆記が満点なんだよ」

「ええっ!」

 びっくりした。なるほど向き不向きがあるらしい。

「でも、それがまたいわくつきで、問題文の日本語のミスとか、問題文中の条件が出揃ってないからこれらの数値を提示しろとか、この条件の下では敵艦隊は自滅するはずだとか、作問にツッコミまくってとった点なの。しまいにゃ自分の艦隊が何を搭載していた場合……っていう場合分けを事細かに書いて、敵陣にこういうスパイを送っていたらこう、敵の大将がこういう性格だったらこう、っていうのを大量に書いて、最後に一言、『臨機応変』って書いて出したんだって」

「だって、地図にこういう空域で敵艦何隻に敵機が何機、こっちは何機、配置がどうとかって、戦局をそんなモンで判断してたら死んじゃうよ。この前の隊長機の特攻だって、戦力と数と配置から言ったらゼッタイあり得ない状況だもん。意外なことが起きたので死にました、なんてわけにいくか」

 中佐はふてくされながら言っていた。ははあ、なるほど、たしかに筆記試験でマニュアルどおりの得点を重ねる人物が実地でどれだけ動けるかは疑問だ。その時のありとあらゆる物事を総合して判断するのでなければ、机上のテスト問題なぞ無意味だということか。

 感心していたら、中尉が呆れた顔で首を振った。

「センパイ、ハッタリはやめましょうよ。数値の計算とか全然わかんないから、ごまかしたんじゃないですか」

「おだまり。結果的に採点する人は私の戦略にはまったのよ。テスト問題の掌の上でちまちま戦略を立てて得点するより、採点者を言い負かす現実的作戦を立てた私の方が他の凡人より優秀よ」

 中佐が言い返した。なにやら釈然としないものを感じながら、しかし実は中佐の言うことは正しいのでは……という気がした。凡人はテストの中でしか作戦を立てられない。中佐はテストを超えて軍全体に作戦を仕掛けた。そして実際にこの艦をしっかり導いている。

「あっ! そ、それで、大佐はなぜザッコに乗ってらっしゃるのでしょうか!」

 僕は叫んでいた。またもやすっかり質問を忘れていた。中佐と中尉はあっけにとられ、中尉がまた話し始めた。普段それほどしゃべる印象はないのだが、決してしゃべらない人ではないらしい。

「ザッコがあのテストに使う機体の選択肢から外されてるのは、反応、速度、その他どれをとっても一般の彫像動力機以下で、A級の人が乗ってもB、最悪Cくらいの成績しかとれないからだよ。正確な能力が測定できないの。で、ウスイくんはね、その機体でAAを出したのよ」

「……え」

「ピンとこないかな。ザッコの限界を超えた成績を出したのよ」

「……ザッコの機体が限界以上の力を出すほどうまく扱ったということですか?」

「いや、そうじゃなくて。ザッコは所詮ザッコだったんだけどね、そして機体の能力も事実低かったんだけど、動きの悪いザッコをとんでもなくうまくさばいて、信じられない撃墜数を出したんだ。各種能力が総じてA級のウスイくんがね、ザッコだとAAまでいっちゃうんだ。それで、ウスイくんに関しては上の命令でいろいろ機体を変えてテストをやったんだけど、AAを出すのはザッコだけ。何度やってみてもザッコに搭乗すると必ずAA。Aクラスなら敵にも結構いると思うけど、AAはなかなかね」

「なんの話です?」

 突然後ろから男性の声がして、僕は驚いて振り返った。ウスイ大佐が帰艦していた。

「やあ、ウスイくん、おかえりい」

 中佐がソファから立ち上がった。僕はあわてて向き直って大佐に敬礼した。

「俺の話、してませんでした?」

 大佐はいつもの大佐だった。僕の頭の中にあの歌声が蘇ってきた。自然と眉間にしわがよった。そっと目をそらすと、中佐と中尉も同じように眉間にしわが寄っていた。

「あ、なんかイヤな顔。やんなっちゃうわ☆」

 そう言い残して、大佐は去っていった。

「……た、たいさ……」

 僕の中で大佐のイメージががらがらと崩れ落ちた。

 つまりはこの6人の中に、まともな人間など一人もいないのだ……

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