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ACT.3 敵の大艦隊を討て!

 そういえば僕は、この艦のエースであるスズミーさん(階級は知らない)を知らないな、と思った。先日敵襲があったときも、どこかからGMDMJP02で出撃し、着艦してもブリッジには来なかった。この艦の主要人物は、実質的な司令官のキアト中佐、階級では一番上のウスイ大佐、技術者のリオリ中尉しか見たことがない。

 航行中の白鶏はたいへんのどかで、もはや既成事実として存在を認められたリオリ中尉の犬(そういえばこの名前も知らない)が中尉にじゃれつき、大佐が歴史小説を読み、横で中佐が髪を振り乱して扇子を振り回すなどして(何かのモノマネらしい)大佐の邪魔をしていた。ほかのクルーも携帯ゲーム機やトランプをしている。

 僕も資料室からなにか本を持ってこようかと思ったその矢先、アラートががんがん鳴り響いた。レーダー係のクルーが振り返り、

「前方に敵艦隊! 3分後に交戦空域に入ります!」

 と叫んだ。

「あら、大きいの?」

 キアト中佐がのんびりと言った。

「主力艦と思われる大きな反応が二つ。敵機とおぼしき小さな反応は、30あまりもあります!」

「ふーん。リオリさん、どうしよっか」

「この空域で今ハチ合わせるとしたら……ウスイ、スズミー、あと使えどころを10機。戦艦にはタモトをぶつけましょう。やばい艦じゃないと思いますから」

 リオリ中尉の声が終わらないうちに、二人のクルーが立ち上がった。

「じゃあ、ちょっと行ってきますね」

 一人は淡々とそう言って出ていった。少し背が低めの少年風だった。彼が「テクモンの悪夢」? ちょっとイメージに合わなかったので、もう一人立ち上がった方を見た。すると、そちらは女性だった。身長はやや小柄な155センチくらい、やや童顔で髪はセミロング、ちょっとキアト中佐と雰囲気が似ていた。

 その彼女はしばらく時計を見て、

「じゃあ、20分以内に片づけて戻ってきますね」

 と言い残して出ていった。

「へえ、すごい自信ですね。彼女は……?」

 近くにいた先輩クルーに僕は訊いた。

「タモト軍曹ね。あの人、別に自信があって20分って言ってるわけじゃないよ。あと20分と少しで、地球の日本時間で夜の7時なんだよ」

「……は?」

「その時間から、プロ野球中継の生配信が始まるから。好きなチームの試合見に帰ってくるつもりなんだよ」

 どいつもこいつも……。では、やはりさっきの小柄な少年がスズミーさん、「テクモンの悪夢」だろう。身長は165センチくらいだろうか。年はいくつなんだろう。

「タモトが出るから、カタパルト、ターボにしてやって」

 中佐が指示を出す。それを見て、大佐が、

「じゃあ、俺も行ってきますね」

 と言って出ていった。

 前方のモニターにカタパルトの映像が出た。それを見てまた僕はあ然とした。西洋の甲冑風のずんぐりむっくりしたロボットがスタンバイしている。動きにくそうな分厚い装甲、胸には「乙女」の文字。

「な、なんですかあれは?」

 僕はまたとなりの先輩に訊いた。

「キミは今度、ウチの格納庫に行って、主力メカをひととおり見てくるといいよ。あれは、タモト軍曹の専用機で、ノーブルGMDM格納モード。モデルは、……キミにはわからないかな、古代の漫画からヒントを得たそうなんだけど……」

「漫画?」

「……この艦の上の人たちは、基本的に古代オタクだから……」

 いろいろと追求しては先輩がかわいそうだと思い、僕は続く言葉を飲み込んだ。

 ものすごい爆音が轟いて「ノーブルGMDM格納モード」は発射されていった。続いてもう一つのカタパルトからJP02が射出された。二機はすぐに見えなくなった。そのあとも続々と発進が続き、最後に大佐のザッコが出た。いかにもザコといった風情だったが、これも戦略なのだろう。

 モニターにはGMDMJP02からとおぼしき映像が映し出された。ノーブルGMDMの背中が映っている。かなりのスピードだ。あっという間に敵の中につっこんだ。その無鉄砲ぶりに敵は一瞬ひるんだようだった。いや、ひるんだ様子を見せる前にJP02の射撃とビームブレードの餌食となり、沈んだ。JP02は進路に近い敵だけを的確に狙い、遠い敵には見向きもしない。それ以上に何にも見向きせず、前方をノーブルGMDMが突き進んでいく。そして、ついに敵の母艦をカメラがとらえた。

「緊急通信!」

 通信係が振り返り、通信用モニターにタモト軍曹の顔が大写しになった。そう、僕はこういう情景にあこがれていたのだ。

「そろそろ、狂戦士モード、入れていいっすかー」

 軍曹が言うと、中佐が答えた。

「オッケー。スズミーは近くにいるの?」

「ええ、すぐ後ろにつけてますよ」

「まあ、スズミーならアンタに撃ち落とされるなんてことはないからいいや。じゃ、戦艦は任せたよ」

「わっかりましたあ」

 そして中佐は通信係のところに行き、マイクを持って言った。

「全機、前方注意! タモトの暴走モード発動、後退!」

(きょうせんし……暴走と言ったから、「きょう」は「狂」か。狂戦士、つまりバーサーカーだ)

 僕がそんなことを考えていると、目の前に真っ赤な光が広がった。この艦が直撃を受けたのかと思ったが、それは目の前のGMDMJP02からの映像の光だった。

 ノーブルGMDMの甲冑の隙間から真っ赤な光が漏れている。それはすぐに画面を覆い尽くし、光の中からセーラー服の少女のようなフォルムの機体が姿を現した。

「……これは……?」

 僕がつぶやくと、先輩が答えてくれた。

「あれが甲冑の中身だよ。『格納モード』と言ってあったろう? あの甲冑の中に、こういう彫像動力機が格納されているのさ。あの甲冑、動きは悪いが、特攻するときのいいシールドになるんだ。そしてターゲット付近で装甲を脱ぎ捨てて、本体がお目見えする。セーラー服を着た少女の彫像を模しているのは、古代日本における究極の聖女の神聖さ高貴さを表現していて、それでノーブルGMDMという名称だ」

 なるほど、甲冑タイプの装甲か。いちいち驚かされるが、実は白鶏の戦闘センスはなかなか優れているのかもしれない。

 そしてモニターの中で、少女の姿をした機体のツインテールが分離してメデューサの蛇のように不気味に立ち上がり(モード変更で排気量が上がるので、排気パイプを広げるらしい)、恐ろしい威圧感をかもし出した。真っ赤な光の中で髪を逆立てたモビール・スーツは、まさに狂戦士といった風情だった。

 突如、ノーブルGMDMの背中から無数のミサイルが無差別に射出された。目標も何もなく、すべてを破壊するかのような無茶な爆撃だった。そのうちの3つほどが画面に向かってきた。スズミー少尉のJP02を撃ったのである。ミサイルには索敵機能がついているらしく、この映像を送ってきている機体を大まかに狙っている動きを見せた。

 僕は息をのんだ。同士討ち? 狂戦士モードは、その名のとおり味方も容赦しないのか。その瞬間カメラが後退し、たて続けにミサイルが切り払われた。

「やあ、スズミーじゃなきゃ、沈んでたねえ……」

 キアト中佐はご満悦のようだった。

 30機あまりもいた敵はJP02の露払いで10機ほど沈み、ノーブルGMDMの無差別攻撃で5機ほどが沈み、15機あまりになっていた。ノーブルGMDMは戦艦に飛びつき、暴虐の限りをつくしているようだ。5秒に1回くらい、敵艦から新しい煙が上がっていた。そしてその周りをすごい速さでJP02が飛び回り、敵艦の砲台を的確に壊していた。

 突如、残った敵機のうちの5機が母艦の援護をやめ、白鶏に向かってきた。だが、こちらには大佐のザッコと10機の彫像動力機がゾーンを形成している。飛んで火にいる夏の虫だ。

「やばい、抜かれる」

 レーダーを見ていたリオリ中尉がつぶやいた。

「え? こっちは11機ですよ?」

 レーダー係が中尉に言うと、中尉は、

「隊長機が来るよ。あの5機の後ろから。ここ、電磁煙幕だ」

 とレーダーの一カ所を指さした。

「キアト先輩、一機、自身に電磁煙幕発生装置を搭載した奴がいます。たぶん隊長機です。特殊機に乗っている以上、相当の相手でしょう。どうします?」

 リオリ中尉の言ったとおり、恐ろしい速さで敵機が近づいている。レーダーにはうつっていない。味方機から転送されている映像を恐ろしい速さで横切っていくのでその存在がわかるだけだ。

「白鶏からSOSを出させてタモトとスズミーを母艦から引き離そうっていうわけね。あまいあまい」

 中佐の言葉と裏腹に、隊長機は白鶏の防衛ゾーンを振り切り、追撃してくる大佐のザッコを仲間に押さえさせて単身こちらに飛び込んでくる。

「私が出ましょうか」

 リオリ中尉が言った。だが中佐はきっぱりと言った。

「無理だね。リオリさんの腕じゃ勝てない。ウスイくんでもどうかな」

「でも、迎え撃つには誰かが出撃するしかないですよ。大型戦艦の砲撃で反撃したって当たるはずないじゃないですか。全砲台で一斉射撃でもできるなら多少確率は上がりますが……」

 リオリ中尉は眉根を寄せた。砲台は前方、側面、後方分散していて数も多くはない。全砲台で一機の彫像動力機を狙うなんてことは無理だ。

 その時大佐から通信が入った。

「ウスイザッコ、包囲網突破しました! そちらに向かった一機を追います!」

 だが特殊仕様の隊長機とザッコではあらゆる点において比べものにならない。数分で敵機はこの戦艦白鶏にたどり着き、攻撃をかけてくるだろう。

「全砲台で、狙い撃ちをしよう」

 不敵な声に振り返ると、キアト中佐が嬉しそうに笑っていた。

「全砲台? 前方のですか? 前方に一斉に撃てるのは、超巨大ビーム砲も使って、大型ビーム、ミサイルに機銃、せいぜい12砲門ってとこですよ。宇宙空間で12本の砲撃なんて、スカスカじゃないですか」

 リオリ中尉が言った。

 中尉の言っている「超巨大ビーム砲」とはこの艦の最大の兵器であり、相当のエネルギーを消費する。正面に向かって直径100メートルに及ぶ太いビームの帯を発射するもので、そのライン上にある物体はたいがい吹っ飛んでしまう超巨大兵器だ。

 中佐は不適な笑いを浮かべながた。

「うん、たぶん奴は正面から来るね。メインコントロールルームは正面からしか狙えないからね。たしか、おクラ入りしてる精神感応制御GMDMがあったよね」

 精神感応制御GMDMとは、精神感応を利用したシステムを搭載した彫像動力機である。中尉が答える。

「ええ、あれは廃人が出るから、使ってないですね」

 そう、精神感応を利用したシステムは、まだ安全性が確立していないのだ。

「何機あんの?」

「二機です」

「たしかあれ、一人メインパイロットが乗る以外に、精神感応兵器操作用の一人が乗れるよね」

 精神感応兵器とは、何種類かあるが、基本的には自力飛行が可能な小型のビーム砲台のようなものである。昔の日本の軍事ヒーローロボットアニメの武器を参考に開発されたという。実は、現代の戦争に使用されている多くのものが、はるか昔に古代日本で人気があったアニメをもとに作られているらしい。

「ああ、私が改造して、メインパイロットが二つ、サブパイロットが二つ、合計四つの感応砲台を使えるようにしてありますけど」

「3分間で、廃人になる確率は?」

「集中力が高まりきらない状況では、まずそこまでの精神崩壊はないと思いますが」

 中佐はソファからすっくと立ち上がり、きっぱりした声で指令を出した。

「鏡面反射型感応飛翔砲台を8機射出して飛ばす。2機の精神感応制御GMDMに4名の精神感応適性者を乗せて艦内から遠隔操作。白鶏の側面砲台の射撃を前方に反射させること。

 リオリさん、鏡面飛翔砲台は何パーセントの出力までなら本艦の大型ビーム砲に耐えられるか計算して。可能なら、時間差で数台のビーム砲の連続照射を拾って正面に返す。鏡面飛翔砲台は最終的には壊れてよし、なるべく反射回数を多くできるように。それも計算して」

 すぐに担当者が3名端末に向かい、そこに中尉が指示を出す。ブリッジを出て行く数名は遠隔操作を担当する人だろうか。そのあとリオリ中尉が出ていった。現場指揮だろうか。

 その手際の良さにもびっくりしたが、何よりびっくりしたのはキアト中佐の指示だった。反射型感応砲台は、ビーム砲が対象を捉えそこなった際に敵機周辺で反射させて命中させる補助武器だ。大型彫像動力機に搭載されることの多いサブ装備で、もちろん戦艦のビーム砲を反射する兵器ではない。だが、大型GMDMに合わせた仕様となっているため、砲台じたいが相当大きい。無茶な話ではなさそうだ。

「……でも、間に合わないね。もてばいいけど」

 中佐はモニターを見て言った。まだ敵の姿は見えない。しかしモニターが敵をとらえた瞬間から、戦艦白鶏は敵の射程圏に入るということだ。

「作戦開始まで、弾幕はりますか?」

 クルーの一人がきいた。

「無駄だね。それじゃ作戦が実行できない。エネルギーと弾薬も消費しちゃうし。ただやりあって勝てる相手じゃないよ」

 そう答え、中佐はひよこソファに腰を下ろした。そして途端に立ち上がった。

「そういえば、ウスイザッコは?」

「まっすぐこちらに向かっていますが」

 中佐はレーダーに向かって歩いていった。

「うーん、ザッコのスピードなら、一斉照射作戦までにはこの近辺たどり着けないと思うんだけど、私計算苦手だからなあ。来ちゃうと敵もろともそらのもくずだね。通信開いて」

 通信係がチャンネルを開き、中佐がマイクに乗り出す。

「あー、ウスイくん? キミ、いいから来ないで。来たら撃墜されるよ。こっちはこっちで何とかなるからさあ、来ないでくれるう?」

 ひどい言いぐさである。

「ですが、敵、あと1分くらいでそっちとらえちゃいますよ」

「うーん、何発かは撃たれるかな。しょうがないね」

「それじゃまずいんですよ、そっちに行った隊長機、『掃討巨砲銃』持ってます。『破壊神の砲撃』って異名がついてるものすごいやつ。最大出力で正面撃たれたら、メインコントロールルームとブリッジ、全部消し飛びます」

「ええー。まいったねえ。正面だけは弾幕はるか……出力がでかい銃なら、要はウェイティングさせなきゃいいわけだから。今からJP02呼び戻しても間に合わないし」

 そこで中佐はブリッジに向き直り、我々に言った。

「端末の3名以外、総員待避。最悪の場合、脱出する!」

 実感はないが、この指示は絶体絶命のピンチだ。僕は先輩に肩を押され、ブリッジを出た。最後にちらりと振り返ると、中佐はモニターにうつった大佐に向かって、

「私が出よっか?」

 と言い、

「センパイ、操縦下手じゃん」

 とにべもなく言われていた。


 それから1分後、白鶏にものすごい衝撃が走った。我々は脱出に備えて格納庫で待機していたのだが、まさに白鶏の中心を引き裂くような轟音だった。クルーの顔色が一瞬変わったが、黙々と脱出用ランチのスタンバイを続けた。

 格納庫の奥でも淡々とリオリ中尉の指示の下で精神感応制御GMDMがスタンバイしていた。もし艦がもはや沈黙していたとしたら作戦は遂行不可能だ。

 もう一度大音響が轟いた。それは我々のすぐ後ろで起こった。振り返ると、戦艦と交戦中だったはずのノーブルGMDMが帰艦していた。

「おつかれさまッス」

 タモト軍曹がノーブルGMDMから飛び降り、ダッシュで走っていった。我々がぽかんとしていると、艦内放送が轟いた。

「危機は回避した。作戦を遂行する。見物したい者は、ブリッジに来るといいよ」

 それでメインブリッジが無事なことがわかった。作戦を見物したいのではなく、どうやって危機を回避したかを知りたくて皆我先にとブリッジに戻った。

「やあ、超ツイてたね。運も実力のうちだね」

 そこにはいつものキアト中佐が笑っていた。だが、さっきの轟音は?

 その時、秒読みが始まった。正面モニターにはザッコと交戦中の敵隊長機らしきものがうつっている。

「10、9、8、7、6、5」

 5、をカウントしたとき、大佐のザッコが急旋回し、モニターの圏外に逃れた。

「4、3、2」

 ビーム銃の弾道だけがモニターの中に戻ってきた。敵機は確実にそれをよけた。

「1」

 だがよけた方向は、我々がまさに砲撃しようとする弾道の正面だった。

 その刹那、僕はすばらしい光景を見た。大きな光の帯が宇宙をまっすぐに走り、そのまわりを無数の……とはいえ、実際には2、30本だろうが……光の帯が取り囲んで走っていった。敵機は超大型ビーム砲をよけるのが精一杯で、無数の光に飲み込まれて消えていった。

「作戦完了。JP02は?」

「間もなく帰艦しますよ」

 僕たちは今見た光景の美しさにぼうっとしていた。言葉もなく立ちつくしていると、まずリオリ中尉が4人の精神感応適性者とともに戻り、それから少ししてスズミー少年が帰ってきた。

「テクモンの悪夢というニックネームにしては、小柄できゃしゃな人ですね」

 僕はそばにいた一人に小声で声をかけた。

「そうか? 女性にしちゃまあまあ高い方だと思うが」

「ええっ!」

 僕は「テクモンの悪夢」スズミー少尉(階級は、あとで知った)を食い入るように見つめた。しかし、確かに女性と言われれば女性である。中性的な顔立ち、女性にしてはやや高く、男性にしてはやや低めの身長。だがキアト中佐やタモト軍曹が着用しているスカートの軍服ではなく、男性用のズボンの軍服を着ている。それで勝手に男性だと判断していたのだが、よく考えるとリオリ中尉もスカートではない。

「新入り、スズミー少尉を男だと思ってたんだろ」

「は、……はあ、失礼ながら、実は……」

「まあ、男顔負けの腕だからな。彼女自身も意識してボーイッシュにしてるらしいし。以前、ここの上の人たち、大佐、中佐、中尉、それから少尉、タモト軍曹と、……あとひとり……で、飲みに行ったらしいんだが、……」

 この先輩はなぜか「あとひとり」を言いよどんだ。少し気になったが、話の腰を折るのは良くないと思い、黙って聞いていた。

「その時にレディースサービスと言って、帰り際に女性だけに焼き芋をくれたらしいんだ」

「はあ、焼き芋……」

「少尉は案の定もらえなくて、わざわざ『このひと、女性です』と言いに戻ったらしいよ。ははは」

 僕らがそんな私語をしていると、大佐が帰艦してブリッジに戻ってきた。

「タモトさんの破壊した戦艦も見てきました。宇宙のもくず、ってカンジですげえイヤでした」

「やあ、おかえりい」

 これで全員が揃った。

「えー、じゃ、今回のすばらしい作戦の、反省会をしましょう」

 中佐が得意そうに言った。

「でも反省点は一つだけです。タモトの奴が着艦時に収容ハッチを破損しました。まあ、そのおかげで助かったようなモンだから、今回は少しだけ大目に見ましょう」

 そういえば、タモト軍曹はブリッジにいなかった。中佐は続けた。

「退避してた人々は、緊急事態からなぜこのベースが助かったかわからなくて超訊きたいだろうと思うので、発表します。えー、緊急事態で退避命令を出したのが、地球の日本時間でちょうど夜の7時でした」

 そこでクルーの何名かは呆れたような顔をして「ああ……」と合点がいったような顔をした。

「うちの狂戦士、タモト軍曹の趣味は知ってますね。プロ野球中継です。で、奴は20分で戦艦を片づけて戻って来るつもりが、ちょっと時間がおしてしまったんです。そして奴はダッシュで戻ってきた。ノーブルGMDMの限界速度を超えるスピードを出しました。気合いのなせる技だと思います。で、……」

 中佐の顔が笑いをこらえてゆるんだ。

「敵隊長機は、そのタモト機を見て、ベースを守るために当艦のメカが戻ってきたと判断しました。当然だと思います。で、白鶏に向けていた掃討巨砲銃を下げ、応戦態勢をとりました。しかしタモトはその横を猛スピードで素通りし、着艦しました。そのときハッチを破損しました。プロ野球中継を見るために設備を破損するなんて言語道断です。奴にはあとで個人的にきつく言っておくことにします」

 なるほど、あのときの轟音はノーブルGMDMの着艦か。そして収容ハッチから格納庫に戻り(ここで二度目の大音響)、あっけにとられる我々に挨拶をして自室に戻り、現在もプロ野球中継を観戦中ということか。

「敵はおいそれと掃討巨砲銃を構えられなくなりました。知ってのとおり、あのビーム砲は出力が大きいため、しばらくのウェイティングが必要になります。見た目上は、タモト機がいつどこから襲いかかってくるかわかりません。実際はそんなことはないんですがね、着艦しちゃいましたから。――で、状況を把握しようとしている敵機に、ウスイくんのザッコがついに追いつきました。敵も相当の腕でしたが、破壊するのは難しくても時間を稼ぐのは簡単です。ウスイくんには、カウントが始まったらすぐ退避するように言ったんですが、彼はそれ以上にすごい活躍をしてくれました! 彼が誘導してくれなかったら、あの速い敵メカをホントにしとめられたかわかりません! ほめてつかわす! そして陣頭指揮をとってくれたリオリさん、計算係の3人、廃人になる危険をかえりみず精神感応機に乗り込んでくれたプチエスパー(精神感応適性者のことを言いたいらしい)4人、そしてすばらしい作戦をたてた私に盛大な拍手を!」

 大きな拍手が起こり、その日の任務はそれで終了になった。


 中佐は自分の作戦をほめていたが、敵の作戦も見事だった。ベースが危機に陥った以上、失敗は失敗だ。「反省点はハッチの破壊だけ」? とんでもない。事実防衛ゾーンは破られたし、ジャストのタイミングで戻ってきたタモト軍曹に敵機との交戦命令を出していない。「野球なんかいいから敵機と交戦せよ」と指示すれば……いや、そうしたら軍曹はきっと艦の全体砲撃に巻き込まれていたか……。

 僕の脳裏には、宇宙空間をきらきらとのびていく光の帯が焼きついていた。敵戦艦とその護衛をたった2機で沈めたこと。ベースの防御はザッコとほか10機でちゃんと引いてあったこと。それを抜いて来るほどの腕を持った隊長機を戦艦の砲撃ごときで沈めたこと。見事だった。これがこの艦、「白鶏」の戦い方ということだ。

 リオリ中尉とキアト中佐の会話が印象的だった。

「さすが先輩ですね。お蔵入りメカを使った、見事な作戦でした」

「でも、結局今回も元ネタはリオリさんだったけどね。私は新しい発想ができないから」

「私は放言するだけですから」

 ふたりはそこで、にやりと笑った。

 なるほど、中尉がゼロから1を生み、中佐が1を広げていくってわけだ。

 僕はこの艦の強さというものが少しわかったような気がした。

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