序――戦記執筆に当たって
以前どこかで本作を見たことがある方がいるかもしれませんが、某個人サイトにて紹介されていたものを大幅改稿して移行しました。(原著は削除)
地球と宇宙コロニーというのは、必ず戦争になるのだろうか。技術が成熟して、宇宙に移住できるようになってから三十年が経ち、宇宙の人口が十億人を超えた頃、地球対宇宙コロニーの間で戦争が始まった。いろんな小説や漫画でそういう設定は見かけたが、現実にそんなことが起こるとはまるで思っていなかった。
こういう戦争は、だいたいが旧体制の地球が宇宙を下に見て圧政を敷こうとし、新世界である宇宙コロニーが圧政に反発して独立と自身の優越を主張して、その均衡が崩壊して起こる。ニュアンスとしては宇宙コロニーの「脱地球支配、(すでに独立はしているが)独立的立場の確認と保証」という主張をめぐる攻防である。
戦争はもう五年続いている。地球の人口は四十億、コロニーの人口は十億、この圧倒的な差から、地球連合国側は宇宙連合国を甘く見ていた。案の定、人口も少なく物資開発に偏りがある宇宙連合は地球側に押されていった。戦争の終結は時間の問題――と思われたそのとき、地球最大の財閥が宇宙連合の側につき、事態は泥沼化した。急速に力を回復した宇宙側は、以降、この財閥の名を冠して「テキガワ連邦」と名乗ることとなる。
人類生存のためにはこれ以上地球を汚染・破壊させるわけにはいかない。地球側は、「ラスト2イヤー計画」として、物量で宇宙側を圧倒し、とにかく2年以内に停戦へと持ち込むことを計画した。僕はその義勇兵に応募した。
二週間の合宿による試験と訓練と適性検査を経て、僕は「にわか軍人」になった。
最終訓練を兼ねた「仮配置」(配属ではない)の行き先は、宇宙戦艦。戦艦規模等級では最大級の、「基地」を意味する「ベース」に分類される巨大航行船だ。僕は喜んだ……が、一抹の不安が残った。配置先の戦艦が「白鶏」という名で、見た目がまるで戦艦らしくない白いニワトリを模した宇宙戦艦であるからだ。こんなふざけた姿の、しかも戦場で異常に目立つ白い戦艦を作ろうと思った軍もどうかと思うし、白鶏の指揮官のリクエストでこうなったという噂も僕の不安を増強させた。
戦艦は「白鶏」が正式呼称だが、「しらとりベース」などと呼ばれたりもする。これは僕だけかもしれないが、つい、鶏ガラベースの出汁をとったラーメンを想起してしまう。まあそれはいいとして、戦場でひときわ目立つ白いニワトリに乗って戦いたい軍人はあまりいないものだろう。僕は自分に何かあった時のために、戦闘の記録をこうしてノートに書き残すことにした。