7話 『昼前の仕事』
散らかるおもちゃを見渡して大和は小さく息をこぼした
汚れたウサギのぬいぐるみ、ヨレヨレになったプラスチックの剣、無雑作に置かれたおままごとセット
「またあいつらか……」
いつもの3人組の仕業には違いなかった。ニーナにシンにメルクに、あの3人はいつも一緒にいる
できればメルクだけは性格が性格だけにもう少ししっかりしていて欲しいけど、シンとニーナは元気すぎてもう諦めた
いや、手に負えないと言ったほうが正しいだろうか。
散らかるおもちゃを拾いつつ大和は愚痴をこぼした
「他にも自分たちと同じ年代の子がいるってことを忘れないで欲しいなぁ。もう年的には小学生一年生だというのに」
小学生一年生だと微妙な路線な気はするけど、元気にいていい年頃なんだろう。
でも片付けぐらいは大和が一年生の時でも……
昔の自分を考えると言葉をなくしてしまった。はっきし言ってとても恥ずかしいものだった
「ま、まぁ、まだ6歳だし今回は大目にみることにしよう。うん、そうすることにしよう…」
苦笑いをしながら大和は拾ったおもちゃを片付けるのだった
そんな姿をしていたからか、大和にか細い声が聞こえた。小さくて聞き取りにくい声、でも可愛らしい声
「ヤマト…手伝おうか…?」
声のする方へと振り返るとやっぱりこの子がいた。薄紫色の髪、おとなしそうな顔つき、雰囲気から滲み出てる彼女の人間性、真っ先に名前が浮かんだ
「あ、レーン…。大丈夫だよこれくらい」
大和は若干強がりにそういった。単純に男として女の子の手を借りるというのがなんとなくカッコ悪いものだと思っているからだ
現にそれは本当のことだと認識している
だって自分が女の子側だったら守ってくれる男の方がカッコよく見えるだろうし
「ごめん…またあの三人が片付けしないで遊びに行っちゃって…いつも私が見てるのに」
レーンが申し訳なさそうにそう言う
彼女はいつも、とは言わないけど子供たちのことをちゃんと見てくれている。
一様この家の最年長なわけだしそれなりの自覚はあるんだろう。
レーンは面倒見がいいから子供たちをよく見てくれてるし、頼りにもなるから仕事が多い時はとても助かっているのだ
まぁ、大抵は書庫にこもって本読んでるんだけど
「いいよいいよ、もう少しで昼ごはんだし。その時に俺から言っとくからさ」
「でも、そしたらまたヤマトの仕事増やしちゃうし……」
大和は軽く押し切って
「いいっていいって。俺は君たちに毎日とても助けられてるんだから、レーンも自分がしたいこととかあるだろうし」
「もちろん、さっき届いたばかりの本があるから、読むつもり」
ここで否定しないのもまたレーンらしいなと大和は思った
基本、口数は少ないけど本当に頼りになる子だ。こう見えてまだ15歳だというのにしっかりしてるよ本当に
「お、また本買ったのかよ。いつも言うけど俺に言ってからそう言うのは買ってくれって言ったよな?」
「ごめん、でも、読みたくて…つい」
「お金は軍から支払われることになってるからさ、別に欲しいものは買ってもいいことになってるけど、決まりだからさ」
少し面倒くさそうに
「わかった」
とだけレーンは言った
素直で何よりだ。
大和的にはいちいち言ってこなくてもいい内容だと思うけど、軍の決まりだし、彼女たちのことを考えるとそうなるのも必然的なことなんだろう
ここに来て二年経つが、やっぱりまだ大和の心の整理はつかずじまいだった
「それで、このおもちゃを散らかした犯人のあの三人はどこに行ったのか知ってるか?」
レーンは少し考えるようにして口を開けた。少しだけ髪が開いた窓からの風によって揺れたのがわかった
「さっき書庫から出た時に見かけたけど、確か…外に行ったと思う。」
「え、三人だけで!?」
「ううん、ミツキも一緒にいたと思う。子供だけじゃ外に出せないからって、あとシャルも庭で洗濯物を干してたのを見た」
大和はホッと安堵して言葉を口にした
「それならよかったよ。ミツキが一緒ならまだちょっと心配だけどシャルも庭にいるんだったら大丈夫か」
レーンがきょとんとした顔を見せて大和に一つ言葉を口にした。それは少しばかりの彼女からの疑問だった
「ミツキ一人じゃ、心配?」
大和は急なレーンからの質問に少し驚きながらも返答した
「心配っていうか、あいつは容赦ないからさ。まぁ、それはあいつのせいでそう言う性格になったわけでもないしさ」
「???」
レーンは言葉を出さなかったものの顔からは明らかに疑問が増えたかの様子だった。
大和の言葉を聞くと気なる言葉が多いからだろう
「それじゃ、俺は庭に行ってくるけどレーンも一緒に行くか?」
小さな声でレーンが
「うん…」
とだけ小さく縦に首を揺らして頷いた
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「さて、3ヶ月外出許可をくれときたか。大和も大和なりに考えたってことやな」
独り言をこぼす青年がここにはいた。両端には何本もの同じ機種の剣が立てかけられていて
本棚の中はあんまり本で詰まっているわけでもない
拓人は、達者な様子で佇む机に足を置きながら一つの資料に目を向けていた
「でもわざわざ3ヶ月にした理由はなんなんやろか。期限なんか別につけんでもええと思うのに、否定されるのがオチやと思ったんやろかな」
書類を一枚一枚と立て続けにめくっていく。どのページも印刷された文字でびっしりと埋まっていた
紙の厚さも尋常ではない。
これら全てを拓人はじっくりと読むわけではなく、サラサラと流し読みをしていた
「まぁ、確かにと納得する点もあるか。俺がいい言うて外出を許可できるわけやないし、一度あいつの耳に入らなあかんからな」
拓人は一人の人物を頭の中に浮かべた。少し笑ってしまって、空いているカーテンのせいか日差しはくっきりと差し込んでいた
「感情妖精か、あの子達は俺たちの希望であり、最後の砦。ゆういつトゥールウェポンを使える存在や、やから簡単には大和の意見を受け入れることはできないんやろうな」
青い眼鏡をくいっとあげて、拓人はふと目に行くページに興味を示した
「これは……面白いことを知ってしもうたな」
ごく一部の人間にしか見ることが許されない書類を見て、拓人は自然と笑いが溢れてきた
頭がおかしくなるんじゃないかっていうほど笑い続けた
「ふふふふ…はははははあああぁぁぁ」
その笑い声は部屋中に響き続けた
見えた書類、拓人が見た一部
「笑いがとまんねえぇぇ」
ーー二年前のテイメレによる大地震について、死亡者名ーーー、ーーー、ーーー
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