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一億分の一の小説  作者: 成瀬諒太
一章 『此処から』
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6話 『思いの先に』




騒然とする街を出て暴虐の果て、意味のない沈黙を選択して厚いカーテンを閉めた

日差し一つかからない、太陽は昇っているというのに部屋の中はまるで夜のように暗かった


外からは元気に登校する近くの小学校の子供の声が疳高く聞こえる

今の自分にとってその声は苦痛でしかなかった

何度も耳を塞いだ。願いなんてはかないものだった


あれが最後だとして、いや、最後だ

あれが最後だ。何もかもがあれで全て終焉を迎えた


心の中にぽっかりと穴が空いた









************************************************






「なぁ、拓人。」



「なんや」



朝食を食べ終えて、二人だけになった空間で大和は拓人にそう声をかけた

大きな台所の方ではシャルが二人のことを考えてか一人で朝食の片付けをしていた


耳には食器を洗う水の音が聞こえてくる



「さっきのはあれだ、悪かった。」



大和は朝食の件について拓人に謝罪を入れた


『はぁ、』と誰にでも聞こえるような大きなため息をついて、拓人は口を開けた



「お前には呆れたわ。急に突っかかってきたから内心びっくりしたんやからな」



「それは本当に悪かったよ」



もう一度大和は謝罪する。

そんな大和の姿を見て内心笑いつつ拓人は言葉を口にした



「んで、他になんか話したいことでもあるような顔やけど?」



「よくわかるな。拓人には全部が全部筒抜けだ、少し話す機会が欲しくてよ」



大和は驚きながらも自分がそう思われる顔をしていたのか、と疑問にも思った


拓人とはそれなりに長い付き合いをしている。だからだろうか



「まさかやないけどその口実を作るために急につっかかってきたわけやないやろな?」



「んなわけないだろ」




拓人はまた笑いながら、立ち上がった



「んじゃ、俺もまだ仕事があるからよ」



「おう」



拓人はシャルのところへと向かった。

一緒に朝食の片付けするためだ


笑いながら、いつものように二人は肩をならべていた



話したいことならいくつかある。

ここにきてもう二年も経つんだ。もうそろそろだろう

そう思う理由がありすぎて逆に困るくらいだ。もう少しだ、もう少しで


始まってしまう







***********************************************






広くも狭くもない空間。気品にでもあふれているのかいないのかよくわからない空間。

要するに普通の部屋だ


なにをどこを見たって、『ああ、拓人の部屋らしい』と思ってしまう要素がありすぎだ


部屋の片隅には何本もの同じ機種の剣が立てかけられていて、一つだけ見るからに違う剣が一本机の上に置いてあった


(さや)から推測するに日本刀の類のものだろう



「俺の部屋やったらなんの邪魔もなしに話せること話せるやろ。あんまり居心地のいい場所やないかもしれんけど」



確かに端には剣が何本も立てかけられてるし、大きな本棚があるくせにめいいっぱい本が並んでるわけでもなかった


それに、そんな空間に一つの机と椅子。しかもそれは達者な様子で置かれていた

言うところ、すごく貫禄のあるものだった



「居心地は悪くないけど、毎日ご飯ばっか作ってるやつだと思ってたよお前。

ちゃんと仕事らしい仕事があるんだな」



「そりゃ当たり前やろ。だてにここの監督官やってるんやないんやからな。」



思い出したかのように大和は吹き出した



「ふっ。そういえばそうだったな。拓人の印象が食堂のおばちゃん感覚でしか最近なくってよ」



「失礼なやつやでお前は。こう見えてお前より立場は上の存在やねんぞ?」



「見かけによらず、だな」



大和は茶色と黒の入り混じった髪の毛と青い眼鏡をかけている拓人の姿を見ながらそう言った

見た目から見るととてもアホそうな感じだというのに、それでもものすごい強いし偉いんだから



「なんやとお前!……まぁ、大和にはかなり助けてもらっているしな。同じ境遇として、とてもいい存在やと思うよ」



「そう言ってもらえると嬉しいよ。

……北出拓人(きたでたくと)中佐」



拓人は一瞬黙り込んで大和の方を見つめた。アホそうな姿とは裏腹に凛々しい目力が大和に降りかかった



「中佐ゆうてもかなりの手負いやけどな」



「それでも俺は拓人には勝てない。それに、俺に戦い方を一から教えてくれたのは拓人だ。」



「そんなん大和が教えてくれ言うたからや。まぁ、正直言ってここまで強なるとは思ってなかったけどな」



軽く否定して



「こんなんじゃ強いとは言えねーよ」



笑いながらこの場をごまかすように大和はそう言った

自分の腰にかかる二つの剣が少し動くたびに重なり合う音が小さく聞こえながら



「そういえば、どうしたんだよ端の方に大量にかけられてる剣。」



大和は部屋の両端に立てかけられた大量の剣に目をやりながらそう言った

全てが同じ機種のものだ。言うなら大量生産されたものに違いない


普通なら銀色に輝く部分が真っ黒に染めあがっている。精を無くして何の感情もない無慈悲なもののように見えた



「あぁ、これか。これは"トゥールウエポン"をどんな人間でも使えるようにした何の感情も込められていない剣や」



さっきまでの声のトーンとは一転して中佐としての拓人がそう言った



「俺らが持っているトゥールウエポンと違って色がないんだな」



「そもそもトゥールウェポン自体が禁忌な上に使えるものが限られているからな。戦場で誰でも使えるように、って開発されたもんや」



「じゃあ、トゥールウエポンについて一つ聞いてもいいか?」



「別にいいぞ」



そもそもトゥールウェポンとは人間が独自に開発した剣だ。詳しくは軍のものでも一部しか知られていない代物。

別名、"不完全な道具"とまで言われている


何故そんな名前で呼ばれる理由があるのか、それはその剣を使うものだけがよく知っている


いや、よく知っていなくてはならないものだ


大和は朝食前にシャルと勝負をしたことを頭の中に浮かべた。彼女が持っていた大剣も、もちろんその類のものだ

大和自身が持っている剣も同じだ


実際勝負をして感じた。あの剣が本当の力を発揮していたならどのような状況、結果になっていたのだろうか


戦場でしか発揮できな強大な力はあの場では使えない。ならば、トゥールウエポン独特の副作用はどうなるのか、とても気になったのだ



「誰でも使えるって言ってたけど、それは俺らが使うトゥールウエポンとはまた違うということなのか?」



そもそもトゥールウェポンは誰もが使えるわけでもない。限られたものだけが使えるものだ。

たがら、大和は誰にでも使えるという言葉に興味を示した



「トゥールウエポンには違いはない。でも、全くもって副作用は発生しないんや。そのぶん力は従来のものとは劣るけどな」



「それはとてもいいもんじゃないか。今すぐそれを戦場で使うべきだ。」



希望を浮かべた大和はついつい声を大きくして言った。

そんな大和とは裏腹に拓人は横に小さく首を振った



「それは無理や。」



少しの時間が空いて大和は疑問を口にした



「なんでだ?」



少しの間が空いて、拓人の口がいつも以上に大きく開いたかのように見えたかと思うと耳に言葉が聞こえた



「それは……今は言えない。時期に知る時が大和には必ず来る。やからそう怒らんでくれよ」



「……そうか。時期に知る時が来るか。嫌な響きのする言葉だな。実は俺らが戦っているのはトゥールウエポンという不完全な道具に対してなのかもしれないな」



大和は何かに取り憑かれたかのように言葉を並べていった。

そんな姿を拓人は全てを知っているかのように見つめていた



「世界が変わった今ならわかる。なんでも思い通りにならないことばかりだって。だから、拓人に今日は話したいことがあったんだ」



「……なんや」



大和は日差しかかる窓の方に目をやった

まだ一日は始まったばかりだ。やるべきこともたくさんある。それを割いての話だった



「あの子達に3ヶ月間、外出許可が欲しい」











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