4話 『久々とは』
「ーーこの電話は電源が入っていないか電波の届かない場所にあり…ブッ」
途中で電話を切った。右手には空虚に鳴り響く電話のピーという音が響いていた。
わずかにその音の振動が手に伝わってくる
それがとても嫌でしょうがなかった
「ふうな、本当に何があったっていうんだよ」
一人、大学の正門前でそう言葉をこぼす大和がいた
コートをはおって、少しの風が彼の髪を横に揺らしていた
無言に大和は電話の画面を見つめた。
そこにはさっきまでかけ続けていた彼女であるふうなの電話番号がある
これ以上電話をかけるのもどうかと思う。
ふうなが大和からの着信履歴の多さにドン引きしてしまうかもしれないし、メンヘラぽくってちょっと気がひける
だからこれ以上電話はしたくないんだけれど、彼女に限ってラインすら既読がつかないなんて、ましてや風邪とか家の事情で休むなら言ってくれたらいいのに、と思う
「とりあえず、ふうなの家に行ってみるか」
************************************************
帰り道の中、いつものように呑気にソシャゲを楽しんでいた。最近ではこのモンスターが強くて…なんて思いながら作戦とか練っているわけだ
無課金である大和にとって良いパーティーを作るには相当な時間と手間がかかる。
だから、学校の帰り道でさえゲームをしていたのだ
「うわ、一撃で倒してくるとかなくね。これ俺のパーティーだったら三回ぐらいコンテニューしないと勝てないやつじゃんか…」
かじかむ手を時折息を吐いて温める。その度一瞬の暖かさを感じてまた徐々に冷たくなっていく手にさえ腹がった
まぁ、手袋忘れた自分が悪いのだけれど
そんなことを愚痴として口には出さず心の中で思っていると肩に小さな重みを感じた。それと同時に感触も加わって
「よ、大和。」
声が聞こえた。もちろん反射的に声が聞こえた後ろへと振り返る。
「あ!藤川じゃないか」
「久しぶりだな」
マフラーを巻いた短髪の青年がそこにはいた。その青年は藤川和志、高校時代の同級生だ
もっと言えば中学三年からの付き合いだ。元々彼は転校生で中三の時に初めて知り合ったんだが、なんでかわからないけど話す機会が増えていつも一緒にいた
簡単に言うといつも大和は藤川と樽木と一緒にいたっていうことだ
「どうしたんだよお前、こんな偶然に会うなんて。なんかあったのか?」
「なんかあったのか?って大学が大和のところと近い場所にあるんだよ。それで偶然帰り道にお前を見つけたんだ」
「あーね。俺の大学の近くって言ったらあそこしか思い浮かばないんだけど、お前ってそんなに頭が良かったっけ?」
大和が指す大学は今自分が通っているところより偏差値が二か三ほど高いところだ
即答で少し藤川はドヤ顔で
「当たり前だろ。俺は自分で言うのもなんだけどそれなりに勉強については努力したんだから」
「ふぇーー。藤川って、てっきり数学しかできない系のやつかと思ってたよ。ほら、毎回90以上とってたし」
「それはもちろん大学入試までに苦手な社会や英語まで頑張ったんだよ。本当にあの日々を思い出すと泣きそうになるくらいに」
「そんなに勉強してたのか?毎回テストでは俺の方が上だったような気がするんだけど。藤川、お前頑張ったんだな」
「そんな当たり前のこと言わないでくれよ」
藤川は若干おふざけ混じりに照れた。それを見て大和は少し笑いながら見ていた。なんていうのか久々に彼に会って話ができるのはなんか楽しかった
話してる内容は内容で大学生らしくないんだけど、なんていうのか入試間近の学生みたいだ
「当たり前のこと言わないでくれって自意識過剰すぎるだろ」
「お前に言われると萎えるわぁ。」
「萎えるって、なんで萎えるんだよ。そんな感じなこと俺なんもしてないだろ」
「いやいや、だってお前高校の時から好きだった新本と一緒の大学に行けたんだろ?なんか青春してるなぁって思ってよ」
「なんだよそれ。ていうか近況、俺今はふうなと付き合ってるんで」
一瞬の間が空いて、藤川は驚いたように大きな声を出した。大和に対して一層大きく
「はぁーー!?え、大和と新本は今付き合ってんの!?てっきりまだ大和の一方的な片思いだと思ってたよ。てか、嘘とか言うなよ?」
「証拠を見るか?」
こくりと頷いて藤川は返事を返した
それを見て大和はさっきまでソシャゲをしていたアプリを落として写真を見せた
もちろんそこにあるのはふうなと二人で撮った写真だ
「うわー、まじもんのやつやん。なんだよめっちゃ大学生活楽しんでるやん。もっと萎えたわ俺」
「そういう藤川に彼女はいないのか?普通に今のお前を見るといそうな気がするんだけどな」
「あいにくいないんだよ俺は」
「うわっ、つまりその様子を見ると大学生活を満喫しているとは…」
さっきと同じように大きな声で叫んだ
「いえねぇよ!」
笑いながら大和は藤川の言葉を聞いた
藤川と話して久しぶりに話していると時間はあっという間に過ぎた。でも、大和にとって藤川の姿を見ると同じように地方から北のほうに来たっていうのになんか慣れてる感じがとてもしていて羨ましく感じた
大和にとったら彼女がいるいない関係なしにそこが一番大きなポイントだった
「じゃあ、俺はここで」
藤川が交差点に差し掛かったところで大和と反対の道に指をさした
「おう。久々に会えて楽しかったよ。またいつでも連絡して会えたら会おうな」
「おっけ。またな!」
藤川は大和に背を向けて歩き始めた。
少しづつ小さくなっていく藤川の背中をなぜかずっと見ていた。交差点の信号は赤だったとしてもなぜそんな行動をとったのかよくわからなかった
***********************************************
「えーと、久々だから不安なんだけどふうなの家はここら辺だったはず…ん?」
電話もでないしラインの既読もつかないということで心配になった大和はふうなの家へと来た。アパートに一人暮らしをしている彼女の家に、だ
迷惑かもしれなけど、どうしても来てしまった
でも、なんでかよくわからないけどその彼女が住むアパート周辺に多くの人混みができていた
前来た時はもっと人が少なくて静かな感じだったというのに
「ーーてか、あの人混みってふうなのアパートのところじゃないのか?」
急いでその場所へと近寄っていく。近所のおばさんたちが三人組になって何やら深刻そうに喋っていたのが見えた
他にも仕事終わりのサラリーマン、ただ通り過ぎただけだろうっていう人もいれば
何やら気がかりな服装をしている人もいた
「あの、ちょっといいですか」
大和はその三人組のおばさんたちに話を聞きに行った。案の定この人混みはふうなのアパートが原因だったらい
彼女たちは振り返って大和に深刻そうな顔を見せた
「何かあったんですか?」
大和はおばさんたちの中の一人にそう疑問を口にした
「あんたここの住人の人?」
「え、いやそういうわけじゃないんですけど、ここに知り合いがいまして」
「あら、そうだったの。実はね私が聞く限りなんだけど」
一人のおばさんが淡々と話し始める。でも、彼女の言葉にははっきしと重みを感じて、はっきしと不確かなものが聞こえた
「ここの103号室の人が何者かに殺されたんだって。私、この家の近くだからこんなの聞いちゃうと怖いわ」
「そうね。なっちゃんはここの家の近くだから用心としないとね」
「私もしっかりと防犯対策しなきゃだわ」
三人組のおばさんたちが口々に言葉を口にする。それを聞く以前に大和の言葉は声を無くし、感情もなくし、無慈悲に不確かな言葉だけが頭の中をぐるぐると回っていた
「103って……ふうなの住んでるところじゃないか。一体、何を言ってるんだ」
そう言葉が勝手に自然に出ていた。
なんていうのか、連絡がつかなかったのも辻褄があって、どうしようもなく無情になった
「何を言っているんだ」
大和は人混みを押しのけて、途中で見えた青い制服を着た警察官を押しのけて103号室へと飛び込んだ