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一億分の一の小説  作者: 成瀬諒太
一章 『此処から』
3/12

2話 『二度目の秋』



「はぁーー」



かじかむ手にそっと息を吹く。それと同時に手は一瞬だけのぬくもりを放った

手袋を忘れた、それだけなのに、しかもまだ10月だってのにこの寒さ、なんという異常気象だろうか



「防寒具つけてないとここまで寒くなるのかよ」



大学の影響で大和は東北の方に来ていた。ここの地での二回目の秋だ。

だが、彼にとってここの地での秋とは故郷の町の冬となんら変わりないのだ


しかもまだ二回目。対策なんてねれるほどの経験値は大和にはなかった



「はぁーー。寒い」



もう一度かじかむ手にそっと息を吐いた



「それにしても、ふうな今日は遅いな。寝坊でもしちゃったのかな」



駅のホームでベンチに座りながらそう独り言をつぶやく

改札口の方を見てもふうならしき人物はいない。変わりにあるのは黄色や赤色に紅葉した木々が顔を出しているということだった



「どうしたんだろ、ラインも既読つかないし」



そう言ってラインを開く。集合時間を十分過ぎた今でも彼女から既読がつくことも改札口から彼女が走ってくる姿はなかった


寝坊でもしたのだろうか、もしかしたら何か巻き込まれたということもあるんじゃないだろうか、そんな心配でさえ頭をよぎった


なんせ、大体はふうながいつも先に集合場所にいる

ベンチに座っていて、大和が近づいていくとあふれんばかりの笑顔で


『おはよう!』


と言ってくれていた

それを見て今日もなんだかふうなが可愛く見える、いつも以上に好きになっているような気がしていた


もちろん、大和が先にいるときはふうなと同じように笑顔を見せる


だから、ふうなが集合時間に駅に来ないっていうのはなんだか寂しかった



「ふうなが集合時間に遅れることなんて付き合って一回もなかったのにな」



実際ノロケ話をすると彼女とは高校も一緒だった。高校生のときは付き合ってもなかったし、はっきし言って自分のただの片思いだった


なんていうのか、彼女のことを好きになったのもこんなふうに寒い秋だった


大学が一緒だって知って、とても嬉しくなったのを覚えている


これといって仲がとても良かったわけでもなかったけど、今を思うとそれで逆に良かったのかもしれない



「って、何考えちゃってんだろ。そんな過去のこと」



何本も乗るはずだった電車を見送った

それでもふうなは、どれだけ待っても来なかった

もう、待ってる時間はなかった


大和は『先に行ってる』とだけラインを送って、小さな背中を震わせて電車に乗り込んだ




************************************************







「よう!大和」



講義が終わって少しのこと。隣に座っていた友達の樽木健太(たるきけんた)がそう言って話しかけてきた



「おう、樽木か…。」



いつもの大和の声とは違う元気のない声が樽木には聞こえた

心なしか話しかけたのが自分で少しがっかりしているような感じが大和からは漂っていた

なんていうのか、よくわからないけどそんな気がしたのだ



「ーー?大和、お前今日なんかあったのか?」



樽木は基本鈍感な性格をしている。だから、多少変に気持ちを表に出していても大丈夫だと思っていた

たけど、今日に限って樽木は鈍感ながらも鋭い疑問を口にした



「なんでそう思うんだよ」



大和がそう言った刹那、樽木はきょとんとした表情を見せてメガネをぐいっと上に上げた

そして、少しの時間が経って



「勘。」



とだけあっさりと返答をした

それを見て俺は、樽木は馬鹿なのか鈍感なのかよくわからない性格をしているな、と今この瞬間思った


樽木らしいっていうかそんな感じだな



「相変わらずだなお前は」



こんな性格なくせに体はたくましいし自分よりも頭がいい

嫉妬もすることもあるけどまぁ、そうじゃないと友達になんてなっていなかったかもしれない


正直言っていいやつだし、女の子には興味なさげだけど



「んで、なんかあったんだろ。いいから言ってみろよ」



「樽木に言ったってわかることじゃないよ」



「そうなのか?でも、大和がそう言うんだったらいいけどずっとそんな雰囲気出されたら気にしないようにしても気にしちゃうぞ?」



「……樽木らしいな」



「まぁ、そう言わずに言ってみるだけ言ってみろよ」



樽木なりに自分のことを心配してくれている。そう感じた大和は無表情な彼に対して言うだけ言ってみることにした



「ふうなが今日いないんだよ」



「……あーー、なるほどそういうこと。それは悲しいなあ」



「思ってないだろ」



「まあな。そういうのよくわかんなくてよ」



実際のところふうなは今日に大学に来ていない。何回もラインを見直したが既読さえつけてくれていない

電話もかてみたけど出る気配も一向になかった


そんなことがあると講義なんて聞いているほど気が気ではなかった



「はは、樽木に言ったのが間違いだったな」



そう笑みを浮かべて樽木に言った。こうなることは大体予想がついたけど誰でもいいから同情してくれてなんだか心が軽くなった気がした



「なんだよそれ」



この時間、樽木がいい話し相手になってくれて少しだけふうなのことを考えることはなかった


くだらない話もして、面白くもないことにでもなんか笑ってしまって、こういう時間が楽しいと思っていた





ーー思えるだけで良かったのに




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