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一億分の一の小説  作者: 成瀬諒太
一章 『此処から』
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1話 『今立つ現状』




あいつにあんなことを言われるなんて思ってもいなかった

思いたくもなかった。俺にとったらなんで、彼女にこうやって面と向かって言ってもらわないと気づかなかったのか


それが恥ずかしくて、悔しかった


こういう立場になって思った

彼女もまた何年かすれば戦場に向かって勝利のない道へと向かうことになる


あの日から、世界が変わったあの日から自分にとって一番大事な存在は此処にいるこいつらだったはずなのに

やっぱり心の片隅にはあいつがいる


急に顔を見せなくなって、連絡もよこさなくなって、今はどんな格好をして街を歩いているんだろうか

そんなことを今でさえ思っていた


今でも持っている。君の最後のプレゼントだ

忘れることもない記憶として、鮮明にある


君のことを考えたくない時もあった。今ある現状を見るとそんな暇さえないことも分かった


世界は変わったんだ

平和で呑気に小説書いてドラマ化や映画化が夢だ、なんてほざいてることさえできなくなった


今はただこいつらのいい暇つぶしになってる


今は、こいつらといることが俺にとって一番大切なことだ





************************************************






「ヤマトー!早く起きてー、もう朝だよー!」



甲高い声と可愛らしい声が混ざって少女と少年の三人組がぼすんとベッドに飛び込んできた

急な重みと急な衝撃につい空気が口から漏れた



「うっ……うーーん」



毎朝のことだけど、これはこれでいい目覚めとは言い難い

嬉しい、嬉しいんだけどここからがめんどくさいからあんまりこいつらに部屋に入ってきてほしくないんだけどな



「おはよーヤマト」



「はよ起きろヤマト」



「おはようございます、ヤマトお兄ちゃん」



三人組の少年少女がいつも通り大和に挨拶を交わす。性格も様々な三人だし、声質も口調も違うから誰が誰かは声ですぐ判断がつく

これは相当な親バカと言わず兄バカって言うのか?



「んん……。おはよう…チビども」



寝ぼけ混じりにかすれた声で彼らの顔を見た。寝起きだからまだ視界ははっきりしないけどカラフルな髪型がぼんやりとだけ見えて誰が誰かはだいたい分かった


重い体をチビどもに手を引っ張られて強引に起こされて、朝からこいつらは元気だなと思いながらのっそりと起き上がった


自分たちの力じゃ引っ張っても大和の体を起こすことはできない。なのに若干おふざけ混じりに体を起こそうとしてくる姿は子供特有の可愛さがあった



「はよ起きろヤマトー!」



「起きてる、起きてる。だからさシン君。俺の腕はもう引っ張らなくてもいいから」



呆れているのか今この現状を楽しんでいるのか、そのどっちもが混ざり合って今の自分の感情があった

楽しい、率直に言えばその言葉しかなかった



「あと、微力だけどニーもメルちゃんも俺の足引っ張ってるよね。足引っ張ったら俺がベットから落ちちゃうだろ」



「だってー、ヤマトが全然起きてくれないからー。」



「す、すいません…」



桃色の髪色をした少女とベージュの髪色をした少女が続けざまに言葉を口にした

一人はお転婆でもう一人は恥ずかしがり屋だ

丁度二年前の俺みたいに



「相変わらずメルちゃんは素直だな。メルちゃんを見習ってシン君もニーも毎朝のこういう起こし方をもう少し考えてだな」



「メルクは素直っていうより臆病なんだよ。俺みたいに強くてカッコよくなきゃ!」



シンが元気にそう言う。その言葉を聞いて一人の少女がピンと耳を立てた



「シンがかっこいいなんて、そしたらヤマトはシンの百万倍は強くてかっこいいよ!」



それはニーナだった。お転婆以外にシンとはいい仲なのかはよくわからない感じだからか、この子は妙にシンに対して突っかかった



「なんだとニーナ!俺がヤマトなんかより百万倍もかっこ悪くて弱いなんていうのか!?」



「そういことだよ!」



シンとニーナが急に口論を始めた。しかもヤマトの部屋のなかで、だ

二人の声が部屋中に響き渡っている。正直言ってうるさいし、こんなことになってたら後々めんどくさい


しかも、話の内容が子供らしくて怒るにも怒れない。可愛らしいものだ

大和がシンより強いのは、まぁ当たり前のことだ。年齢差もあるし体格も身長差も技量も違う

はっきし言って経験の差ってやつだ


でもまぁ、百万倍も強くはないと思う。こっちはただの人間なんだからさ



「おいおい。シン君にニーに、何もそんな喧嘩するような内容でもないだろ…」



「あはははぁ……」



メルクは二人の喧嘩を見て呆れ顔で眺めている。自然と口から空気が漏れて

お姉さんって感じがするのは断然この子だなって思う

シンもお兄ちゃんとは言い難いし、ニーナも百歩譲ってお姉ちゃんだ。



「はーー。ため息しか出ないぜ…」



嘆息が漏れて、同じようにメルクもため息をついた

シンとニーナの間には火花でも散っていそうなほどのガチ喧嘩だ。止めに入ってもいいけど、入るにも入れない内容だったから、どうすることもできなかった



ガチャ



そんなことを思いながら、手に負えない二人の喧嘩をメルクと一緒に見ていると 大和の部屋のドアが開く音が聞こえた

軽やかな足音とともに



「ヤマト、朝ごはんできたから早く食堂の方にき…て…、ヤマト、これはどうゆうこと?」



うわ、嫌なところで来ちゃったよ

この家の絶対的お母さん。年齢と言ったら大和の方が年上なんだけど彼女には逆らうことは絶対できない

5ヶ月間の経験上の上でそう思うのだ



「え、あ、シャルちゃん…。いや、な、これは、あれだよあれ。俺のことを起こしに来てくれたんだよチビどもが」



「そんなの見たら大体は予想がつくわよ。布団も汚いし、まずこの子たちがヤマトの部屋にいる時点で明白な答えは出るわよ」



「ですよねー」



大和は『さすがシャルちゃん』とでも言っているかのようにぎこちない笑みを見せた

それを見てか、


重たく、少し冷たい声で

プラスで若干呆れた顔で



「それより、」



シャルは青く澄み渡った髪を揺らして、強引にシンとニーナの喧嘩を仲裁した

二人は両腕をぐるぐる回して今すぐボコボコにしてやるアピール全開だ


とりあえず喧嘩をするときは腕を回しときゃいいって聞いたことはあるけども、これは子供の必殺技でしかないだろ

大人がこんなのやってたら逆に怖い



「なんでシンとニーナが喧嘩してるの?」



「あー、なんかシンが言った言葉にニーナが反応しちゃって、そしたら喧嘩になっちゃって…」



「だってシンの方がヤマトより百万倍もかっこよくて強いんだもん!」



「ヤマトの方がシンよりも百万倍もかっこよくて強いもん!」


二人の言葉の内容が聞こえたが刹那シャルは重い声質で、目がもう明らさまにヤマトに対して呆れている感じを見せながら



「って、二人は言ってるけど。喧嘩の理由ってヤマトのせいなんじゃないの?」



逃げ場がなくなった。どうせなら自分が先に二人を仲裁しておくんだった

なんせ、メルクがすんごい冷静でお姉さん感がすごかったからさ



「えーと、かもしんない」



少しの間が空いて



「ちょっときて」



この後のことは想像に任せるということにしておこう

大和は強引に部屋から出されて、その後のことは、シンたちの三人組の小さな頭では考えがつかなかった



「えーと、ヤマトお兄ちゃん。シャルお姉ちゃんに連れて行かれちゃったよ?」



「あ、あーそうだな。ま、決して、俺のせいではない!」



「わ、私も」



シンとニーナの二人は引きつった顔を見せて必死に焦りを隠した

二人の額からは明らさまに汗が見えた






************************************************






シンは黒い短髪で、わがままだ

ニーナは桃色の長髪でお転婆さんだ

メルクはベージュのショートで恥ずかしがり屋だ

シャルは青色の長髪でしっかり者だ



「ふー、やっぱり全部この通りか。外見と性格まで全部一致となるとやっぱりそういうことになるよな」



大和は、昼過ぎになった今、そう独り言をこぼした


お昼ご飯も食べて、お腹も膨らんだ今は仕事がはかどる

小説、を書きたいんだけど今はそれどころじゃなくて書類に対して長々とハンコを押し続けている


これだから今の世界は何かとしんどい



「クライシスねぇ。全部が全部これに書いている話になるってことなんだうか。それならそれで一気読みできないのが悲しいな」



山積みにされた書類を机の端の方に寄せて、一つの本を広げる



「ふうな。君にもらった小説はいったいなんなんだ?」



二年もたった今でも彼女からもらった小説を持っている。いつどんな時でも

1日に三ページしか読めないこの小説を


今立つ現状が読んでいた小説とタイムリーに重なっている

それを知ったのはここの人達に出会ってからだった



「世界は大きく変わってしまったんだよ。ふうな」

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