初恋 :十数年越しに告白をしてみたら....
都心の多くの人が行き交う人混みの中で、僕はふと同世代ぐらいだろうベビーカーを押している女性を見つけた。
彼女は道に迷っているのか周りを何か探すように見渡していた。
僕はその人に声をかけた。
僕はそこでふと彼女が過去に知っていた人物だとわかった。
彼女も僕自身のことを覚えていたようで、ニコニコと笑みを見せて久しぶりと一言言ってくれた。
そして、僕はあることを思い出して内心驚いた。
その人は初恋の人だーーー
自分の人生で始めて恋をしたのは14歳の時だ。
きっと、誰もが経験するであろう体験だ。
僕はあまり自分に自信を持てていない生徒だった。イジメられるわけでもなく、特に明るいというわけでもなく、ただサッカー部にいて外で空手を習いに行っていた少年だった。
友達もそう多くはないし、毎日何か楽しいことなんてないとばかり思っていた。
そんな中、
クラスで人気だった初恋の彼女は明るくみんなと接していた。
僕にもニコニコとして話しかけてきてくれた。なぜか、話は弾んでいた。
その時はとても楽しかったのを覚えている。
いつしか、
それは違った感情が埋めていって
「これが恋なのかな?」
と自覚し始めた。
どうやら、ある日突然というわけでもなく、日々を過ごしている中でだんだんと恋をしていった。
だけど、
僕にはその時なにも自信を持てることも無かった。
誇れることも目立津こともなく、なんて取り柄のないやつなんだと自己嫌悪までしていた。
時は何も伝えることもできないまま。
伝えたいことは溢れかえっているのに自信がなくて塞ぎ込んでいた。
この思いを壊すのが怖かった。
今となってはそう感じることもできる。
高校は別の高校へ進学した。
高校の始めの頃はきっと、まだその恋を大切にしていた。
だけど、時は経ってだんだんと今ではない過去に変わり思い出になっていた。
あの時から倍の時日が流れた。
もうその思い出はどこか倉庫の奥に眠っている懐かしい何かの拍子で取り出さないと思い出せないモノとなっていた。
その倉庫から一瞬だったが、その懐かしい思いを自分自身が勝手に取り出していた。
ふと目に入ったが、
彼女の薬指には指輪がしてあった。
もしかすると、
中学生の頃の自分だったら少しでも想像していた明るい場面だと感じたが、彼女は違う男性のところにいる遠い存在なのかなとふと感じられた。
行き先も同じだったようで、途中まで一緒に行くことになって過去の思い出話しになった。
どことなく、懐かしい思いを持って、思い出してふと過去の事を思い出すかのようにワクワクしていた。
自分自身は過去と違い、自信に満ち溢れていたし笑顔で明るい話題を勝手に取り出して、雰囲気からも明るさを出せるようになっていた。
そしてふと、僕は別れ際に言ってみることにした。過去の自分その思い出のために。
「好きでした。もう、昔の話だけど、君のことが...好きだった」
彼女はそれを聞こえたのか聞いていなかったのか、子供が泣き出したのでベビーカーから抱き上げてあやしていた。
彼女はふと笑みを浮かべた。
そこにはあの頃の少女の顔ではなく母親になった彼女がいたように感じられた。
「そうだったんだーありがとう」
きっと、もしも過去にこうやって告白が出来ていたらどうなったのかは分からなかった。
彼女はそう優しく答えてくれた。
彼女の笑みはどこか、あの昔恋をした彼女の面影があった。だけど、もう昔のことだという事を気づかさせられた。
ふと、僕は分かれ道だというのに気がついて、自分自身の行き先へ足を向けた。
「道案内ありがとう!」
彼女はそう言って手を振ってくれた。無邪気な顔をしてキョトンとしている彼女の子供も母親に手を取ってもらって手を振ってくれた。
僕は、
止まることなく目的地に着くことができた。
後ろはもう振り向くことはなかった。
それは本当に思い出であって今の自分ではなかったからだ。
きっと過去の自分は満足してくれたと思う。
結果は多分、中学生の僕だと想像し得なかったと感じる。
玄関に入って靴を脱いでただいまという声を独り言のように呟いた。
すると足音が聞こえて、玄関に笑みを浮かべた今の自分が恋をしている人が迎えてくれた。
彼女のお腹の中には僕の大切な人がもう一人いる。
もし過去の自分だと今の結果を聞けば後悔したかもしれないが、
今の自分では後悔はないし、むしろ幸せだ。
過去の思い出は心の中で輝くものであって欲しい。
だけど、今の幸せとは比べられないものだ。
時間は進んで行く、十数年前の自分もきっと今の自分の気持ちをわかってくれればきっと後悔は無いと思う。
終わり