四億円当てた勇者ロトと俺は友達になってる (完)
作者さま:新木伸
キーワード:日常 ラブコメ スローライフ ネトゲ 書籍化作品
あらすじ
ネトゲの友人が宝くじで4億円当てたらしい。相談を受けて訪ねてみると、おっさんアバターの中身は引きこもり美少女だった! そのまま金銭管理を任されて永久就職の同棲生活が開始。六畳一間、ポンコツ倹約スローライフ。
感想
ヒロインの「ろと」がすっごくかわいい。子供っぽくて生活能力皆無。主人公「とれぼー」のポジションは、相棒兼ヒモ兼執事兼ママ兼飼い主。
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台所に立つ俺の手元を、ろとのやつが、じーっと、見ている。
「座ってろ」
俺は言った。
注視されていると、なんか、やりにくいったら、ありゃしない。
「うー……、見てちゃ、だめ?」
「まあ……、べつに、いいけど」
俺は料理をつづけた。
キャベツを切る。ざくざくと切る。
「すごいねー、すごいねー、すごいねー」
ろとは言う。だが主語を言え。
なにがすごいのか。ぜんぜんわかんねえんだよ。
「すごい、すごいすごーい、……はわわー」
あーもー、くすぐったいったら、ありゃしねえ!
「なにが凄いっていうんだよ。こんなん……、べつに普通だろ」
ああ。言ってしまった。
リアクションしたら負けだと思ってた。だから無視していたわけだが、そろそす限界だ。
「キャベツの千切りって……、キャベツからできるんだねー」
そこかよ!
俺はがくりとなった。
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「あのねあのね! ケーキがあるとね! クリスマスな感じなってね! ごちそーいっぱいでね! とれぼーとふたりで、しあわせになれるの!」
ろとは頑張ってプレゼンする。
両手も使って体中で表現する。
だが俺は、まだイエスとは言わない。
「どう、しあわせなのか、そこが足りないな」
冷静にダメ出し。
「みんな! ――みんなやってるの! ごちそーいっぱいなの! みんなとおんなじなの!」
「みんなと同じが、しあわせとは限らないぞ」
論理的矛盾点を、ただ本人に投げ返す。問答の壁役に徹する。
「ぼく……。ぼく……。ずっとひとりだったから……。クリスマスがきても、お祝いとかできなくて、ひとりだと、クリスマス、やっちゃいけないんだよ? しってた? ……でも、こんどのクリスマスは、とれぼーと一緒だから、できるんだよ? ……だからこれは、必要なものなの!」
ろとは目を閉じて大声でプレゼン。自分の中で確信に至ったもよう。
「ごちそういっぱいか……。じゃあ、ほかにもごちそうがいるな。トリしゃんとか。シャンパンしゃんとか」
「え……? いいのっ?」
頭を撫でられている、ろとは、涙をはらんだ目で、俺を見上げる。
「いいもなにも。必要なんだろ?」
俺の目的は、ろとにいじわるをすることではなくて、ろとが自分で答えを見つけること。
まあ……。たしかに……。なんだ……。説得力はあったな。ほろりときたな。
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ろとさん、かわいい! キュート! 癒し系!
しかし、この性格で20歳越えってんだから、冷静に考えると相当な社会不適応っぷりですなぁ。セリフだけ見てると10歳に見えるレベルだし。
内容としてはベッタベタに甘いけどいわゆる恋愛シーンはほぼなし。ろとは社会常識が無さすぎて恋愛に関する知識もゼロっぽくて、そういう空気にならない! 全体を通してゆる~い雰囲気。
美少女と家に引きこもって、こたつの中でひたすらにネトゲ。理想の生活では?
あと、家の強制退去・ネトゲの終了、この2つの話も印象的。主人公たちには金はあるんですよ。だから生活としては何も困らない。でも「自分たちの世界」「今までの思い出が詰まった場所」から追いだされてしまうのが悲しい。新しい生き方をしないといけないのが怖い。分かりますわ~。
そしてメイン2人以外のキャラも良い味してます。個人的にゾーマさんすごい好き。
古いイメージのオタクっぽくしゃべるんだけど、めっちゃ有能で頼りになりまくるおじさん。そして鍋奉行。
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「ささ。ロト殿。トレボー殿。このあたりがいい煮え加減となっておりますぞ」
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殿・~ますぞ、とか小説の中でさえ久しぶりに見ましたよ(笑)
こんなにユーモアたっぷりで、いざとなったら華麗に助けてくれる人生の先輩とか理想の存在すぎる……むしろ美少女の恋人よりゾーマさんが欲しい。
老後まで心配の要らない貯金・仲良しの美少女・頼りになる仲間……何というか「幸せ」の具体化って感じの物語。
個人的には異世界転生して勇者になるより、こういう生活がしたい。しみじみと主人公がうらやましい作品です。
状態:完結
文字数:153,637文字
個人的高評価ポイント
☆ 私の特に好きな作品です!
作品URL
小説家になろう https://ncode.syosetu.com/n2077da/