アント・ワーカーズ (完)
作者さま:八木山ひつじ
キーワード:多脚戦車 地下迷宮 アクション
あらすじ
巨大な迷宮が発見されて、はや三百年。内部には未知のオーバーテクノロジー群と、鋼の化け物どもが犇めいていた。
人類は彼らに対抗するため、敵の素材と発見した技術を組み合わせた武装多脚砲台「アントリオン」を作り上げ、危険な迷宮探索に挑み続けている。
感想
個性豊かな少女3人組が、どったんばったんと大活躍。これぞアクションライトノベルの雰囲気。キャラ付けはある意味古典的で、なんというか90年代の息吹を感じます。「~にゃ!」という猫語尾キャラとか、一周回って珍しいような。
そして、主題となるのが多脚戦車ってのが良い。剣と魔法でも、人型ロボでもない。マニアックだけど多脚戦車もロマン兵器ですよね。脚を使って跳ねまわるバトルシーンはとってもスピード感があって迫力満点。
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水切り石のように跳ね飛び着地、ようやく停止ったかと思えば即座に再度の跳躍。稲妻の如き鋭角な連続跳躍に、骨が軋み、筋肉が圧迫され、内蔵が悲鳴を上げる。盛大に混乱する頭で、何が起こっているのか、と考えた矢先に、
「――あっぶにゃー! ぎりっぎりぃ!」
テクノギアから響くクレアの弾んだ声音を耳にして、遅まきながら冷や汗が吹き出してきた。
助かった。並のドライバーならば、初撃で両断されていたところだ。
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どくん、と鼓動の音を一つ置いて、まず最初に色が消える。ついで音が。
自分と世界とを分かつ境が消え、引き金と獲物だけが残される。
天地真逆の視界の頂点、切断マンティスの複眼がこちらの姿を捉え、旋転を開始する。
高速で振動する、二対のスペクトラム・ウィングの羽ばたきすらも見て取れる。
まるで、周囲の世界がまるごと蜂蜜に漬けられてしまったかのように。
ゆっくり、ゆっくりと進む時間の中で、ルトは引鉄に手を掛ける。
あれだけ燃えていた敵愾心すら遥か彼方。
後はもう、トリガーを引くだけで、
そう思った時にはもう、トリガーは引かれていた。
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機体の動きだけじゃなく、セリフとか心理描写も上手いんでしょうか? 戦闘シーンの書き方はかなりレベル高いと思います。
そして、個人的に好きなのが設定の見せ方。この作品、専門用語がほとんど説明されないんですよ。「ビショップ級」とか「王立多脚砲台専門学園」とか、いろいろ出てくるけど細かい説明はなし。
つまり「無知な質問者」が出てこない。だからこそ話のテンポがすごく良い。
『あの~、○○ってなんですか?』
『ええ、そんなことも知らないの?』
『すみません、田舎者なので……。』
『しょうがないわね、○○ってのは……』
こういう、シーンが無いんですよ。だからこそキャラクターたちが活き活きとしている。
現実世界で考えたら分かりやすいでしょう。
『あの~、アメリカ合衆国ってなんですか?』
『ええ、知らないのか? アメリカ合衆国というのは……』
なんて不自然な会話でしょう(笑) キャラたちが知ってて当たり前のことを「当たり前」としてわざわざ説明しない。これを一歩間違うと読者が置いてきぼりになって意味不明になるけど、この作品は書き方が上手く雰囲気でしっかり分かるので大丈夫。
読者に向かって細かく丁寧に書いてくれる小説も良いけれど、この作品のように「別世界の話なんだ、ちょっとぐらい分からんことがあってもノリで楽しめ!」というのもステキ。
設定、設定の見せ方、バトルシーン。書き方にすごくセンスのある作品です。
状態:完結
文字数:76,353文字
作品URL
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