鋼の海の鯨 (完)
作者さま:もちもち物質
キーワード:SF ディストピア 古代文明
あらすじ
清潔で高度な『陸』と、過酷な作業で強いられる『海』。人間社会が2つに分断されている世界。もはや海水は生命を蝕む毒水になっており、長く潜っていると死んでしまう。しかし『海』の人々はそこから古代文明の金属片を拾い上げることで生活していた。主人公は世界の謎を知るために、空中に浮かぶ巨大機械『空』を目指す。
感想
生き物が死滅し金属が沈んでいるだけの海を潜る。静かな雰囲気に引き込まれます。
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暗く冷たい海の中に生命の気配は無い。海の水の中では生き物は生きられないのだ。
恐ろしく透き通った水の底に鋼が沈み、沈んだ時のまま、そこに在り続けるだけ。
生命無き海の底では、海の外でのようにバクテリアがものを分解することもない。海の底に沈んだものは消えもせず、朽ちもせず、ただ、永遠に沈んだままなのだ。
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死と静寂、そして永遠の透明空間。読者として見てる分にはロマンたっぷり。1度だけなら潜ってみたくなります。繰り返し潜り続けないと生活できないと言われたらそりゃ絶望しますけど。
また、主人公「ヴァル」を中心としたキャラクターたちの心理描写も上手い。現状に対する絶望・夢をあきらめきれない気持ち……
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何かが『空』にあるような気がする。そんな曖昧な希望だけが、ヴァルの生きる意味だった。
道程の険しさを知って、希望の儚さを思って、それでもヴァルにはそれしか無い。生きる為に生きたくはない。面白くもない人生だったと振り返りたくない。
惨めな生活に命を溶かしていくのなら、希望を手繰って、一瞬で燃え上がって消えてしまいたい。
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いわゆる少年漫画的な明るい希望とは違う。自分の行動で世界は変わらないだろうと思いつつも、夢を追いかけ続ける。自分だって100%信じているわけじゃない。でも希望を捨ててしまったら、もはや生きている意味がない。見事な描写だと思います。
あと『陸』『海』『空』『魚』『鯨』『神』といった単語の使い方もセンス良し。これをカタカナにするとまた雰囲気が変わるでしょう。
終わり方にも余韻と広がりがあります。苦いし残酷だけど未来が感じられる。
無駄のない文量で、1つの世界とそこに暮らす人々をしっかり表現している作品です。
状態:完結
文字数:94,715文字
作品URL
小説家になろう https://ncode.syosetu.com/n4450ep/