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54/103

海竜  (完)

作者さま:井波麟太郎

キーワード:竜 地震 人間ドラマ 文芸 


あらすじ

漁の途中、巨大な未確認生物に息子を殺された老人は復讐を誓う。どうやら、そこには地震が関わっているようで……?


感想

あらすじだけを見るとSFホラーみたいだけど、内容的にはどっしりとした本格文芸作品。


~~~


 真っ黒な海が、さざ波ひとつ立てず、鏡のように凪いでいた。

 夜の闇と境目のない漆黒の海の上を、眩しい漁火が、ディーゼル音を響かせながら通り過ぎていく。


「おいそろそろじゃ」

 年老いた漁師が、舷側から海を覗き込みながら、操舵室に声をかけた。


 短く刈り込んだ(こわ)い白髪に、皺の奥まで日焼けした赤茶けた顔は、長い日々、潮にさらされてきたことを物語っている。

 大きな腰が、ずっしりと甲板を踏みしめ、固太りした頑健な肉体は、七十という年齢を感じさせない。


~~~


会話文は少なく、漢字が多め。ライトノベルじゃなくて文芸小説の文章ですね。

内容としてもアクション要素はほぼ無し。良質な群像劇で、港町を舞台に息子を食われた老人・旦那を失った妻・裏社会の仲介人・地震研究者などの人生が交錯します。

1人1人の描写に現実味があり、「キャラクター」ではなく「人間」という雰囲気。中心人物である吾郎さんの「70過ぎの漁師」感とかめちゃめちゃリアル。相手の話を聞いてない感じが田舎の老人あるあるすぎる。

あと、視点の繰り替えがすごく上手いですね。群像劇なんで話ごとに登場人物が変わるんだけど、その移り変わりがすごくスムーズ。読んでてまったく混乱せず、スッと頭に入ってきます。


ストーリー的には、もう1つのメインテーマとして地震をからめてきているのが面白い。


~~~


 そんな中、島野は、GPSや微細な地震も計測できる震度計などの最新技術を駆使し、主にプレート型地震について、独自の仮説に基づいた地震予知の研究に取り組んでいた。

 そして、一年半前、太平洋沖のプレートで、二週間の間に、大規模な地震が発生するとの結論に辿り着いた。

 だが、センター内では、島野の報告は大きくは取り扱われなかった。

 なにしろ、十年~百年単位のものを、いきなり二週間という期間に縮めてきたのだから、慎重にならざるを得ない。

 だが、実際にマグニチュード七・○の地震が、島野の報告から六日目に発生したのだった。


 福寿丸が遭難した夜に起きた地震である。


~~~


はたして、巨大生物と地震の関係とは? オカルトじゃなく科学的な説明がしっかり登場します。


いろいろな人々が出会い、謎が解明されていく。老人の竜に対する復讐は果たされるのか……? 終わり方も何とも現実的。賛否両論ありそだけど、吾郎さんの人生観および作品の雰囲気としてはあの展開が妥当でしょう。


海・地震、大いなる地球の自然に対する畏敬とロマンを感じる作品です。


状態:完結

文字数:97,612文字


個人的高評価ポイント

◎ 高い完成度!

作品URL

小説家になろう https://ncode.syosetu.com/n2762ew/

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