僕は僕の書いた小説を知らない (完)
作者さま:Q7/喜友名トト
キーワード:日常 前向性健忘症 小説 恋愛 苦悩 書籍化作品
あらすじ
1日ごとに記憶がリセットされ、新しいことを覚えられないという症状を抱えた小説家の「俺」。経験も出会いも眠るとすべて忘れてしまう。そんな状況のなかで小説を完成させられるのか。過ぎていく日常のなかで足掻く男の生活。
感想
文章力・構成力がとても高い。新たな思い出が作れない苦悩と恐怖が強く伝わってくる。
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寒気を覚えながら開いたテキストファイル。その一行目には、こうあった。
〈まずは落ち着け。大丈夫だ。お前は、いや俺は、つまり岸本アキラは、その状態でもう二年ほど生きている。混乱してバカなことをしないでくれ。例えばこのPCをぶっ壊すとかそいうことはするな。それやったら色々大変だから……落ち着いたか? いや、知ってる。お前はとりあえずこのファイルを全部読むはずだ〉
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全部忘れて、明日の朝目覚める。それは、今日の、今の俺が死ぬってことなんじゃないのか。
記憶の連続性が途切れた人間は、同じ人間として生きていると言えるのか。
それに、こんな生活を本当に続けられるのか。今日見た通帳ではまだしばらくは大丈夫なのかもしれないけど、減り続ければいつかは破綻する。
記憶力の無い人間。さっきとは別の意味で、生きていけるのか。
そして俺は、今こうして脅えていることを明日には忘れて、同じように明日も脅えるのか。
怖い。怖い怖い怖い怖い怖い。
タフでいたいと思う。逆境でも軽口を叩くハードボイルドがカッコいいと思う。
でも。
眠れない。死にたくない。忘れたくない。
明日の俺と、繋がっていたい。
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この迫力と臨場感……! とても表現力がある。序盤からグッと引き込まれちゃいますね。
小説という形で記憶を受け継いでいくアイディアも見事。消えていく記憶、書き溜められていく作品。良い構図でしょう。
普通には働けない状況の中で残された最後の希望。必死に物語を積み上げて姿はすごく応援したくなります。
そして、自分の書いた物語なのに「読者として新しく読める」、というある意味では製作者にとって理想的な状況。実に味わい深い。
また筋としては真面目でシリアスだけど、ユーモアのセンスもあり笑えるシーンも多数。
キャラクターたちも描写が上手く、それぞれ良い存在感あり。ヒロインの翼さんは本当に魅力的。終盤の展開もしびれる!
すべての要素がハイクオリティな作品です。
状態:完結
文字数:108,299文字
個人的高評価ポイント
◇ アイディアが良い!
◎ 高い完成度!
作品URL
小説家になろう https://ncode.syosetu.com/n7248el/