悔打ちのジョン・スミス
作者さま:留龍隆
キーワード:バトル 吸血鬼 スチームパンク 義手・義足 格差社会
あらすじ
吸血鬼はびこる蒸気の都。両腕を蒸気機関の義手に換えた男「ジョン・スミス」、新しく派遣されてきた凄腕の体術家シスター「ロコ」。訳ありな2人組の吸血鬼狩りスチームパンクアクション
感想
主人公の両手が義手、これは珍しい設定では。普段は動かない金属義手、ここぞという場面で起動する必殺技! なろうでよくある剣による戦いとは一味違って個性的。
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「では、さらばだ」
五指を揃えた。
途端にかきん、という音がいくつも連なった。手首から指先までの関節がロックされた音である。
奥歯を噛みしめジョンが踏ん張りをきかせると同時、左腕の深いところでまたも、どるんと低い音が轟いた。
雷電エレキテルが特別な経路を辿った。
機関の鼓動が広がった。
金属の震えと軋みが一点に集まった。
内部の核が瞬時に赤熱――注入されていた水を弾けさせ、ボンベ内の圧力を限界まで高めた。
ジョンが右手の剣を離し腰を切る。
「――《杭打ち》」
蒸気の暴力が咆哮した。
肘の噴射孔から解放された蒸気がジョンの後方へ膨れ上がり、重く空間を揺らす。
凄まじいまでの推進力を得た義手の一撃は、傍目には銀の光しか残さない。
内旋させ捩じりこむ左の貫手は男の防具へ中指から順に潜り込み、容易く向こう側へ突き抜けた。
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う~ん、かっこいい! 絵になりますねぇ。
また、作者である留龍隆さまは舞台設定にも定評があります。本作の舞台、灰と蒸気の町「ドルナク」の描写も何とも素晴らしい。
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止み、溜められていた大気の波が、轟ごうと通りに押し寄せ溢れた。
びりびりと窓硝子が震える。けたたましい音を引き連れて、灰色の暴風が外を流れていく。
通り雨のように瞬間的に訪れた風は、外のすべてを揺らし震わし破滅的な音色を響かせた。
しばししてから。
通りにつむじ風だけを残し、灰色は去っていった。
静けさが一瞬あって、次にばたんばたんと窓の開く音。色々と物を外に干していた住人たちが、馬鹿野郎、クソが死ね、と次々に悪態を吐き散らす。
室内に、濃いスモッグの臭いが少しずつ入ってきていた。またスピーカーから、『ささ産業区画のの洪煙ごうえん排出はは終わりましたたた 速やかなな撤収をお願いい致しますす 繰り返しますすささ産業区画の……』とエコーがかった声が流れていた。
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ごうん。
ごどん。
ジョンたちの立つ大舞台が、重く軋んで持ち上がっていく。
大断崖の絶壁に、上等区画まで垂直に伸ばしたレール。この溝に沿ってまっすぐ、この大舞台は昇っていくのだ。
ぶしゅうと辺りを取り巻く蒸気の白。大舞台の真下にある炉でくべられた石炭が燃え盛り、動力機のタービンを回し、ベルトチェーンとシックワイヤーを幾重にも張り巡らして吊るされたこの場を引き上げていく。
この昇降機がなかったころは、大断崖を大回りして一日がかりで上等区画へ向かわなければならなかったのだという。進歩はいいものだなとジョンは思った。
「わ……」
「ん。ああ、景色か」
感嘆で言葉を飲み込み、黙り込んだロコの視線を追ってジョンは言う。
蒸気が晴れ、ある程度の高さまで昇ると、ここからは街の全景が見渡せる。
右手へと蛇行していくロンサ川、それに巻かれるかたちで広がる産業区画とその高い障壁。
左手からは下等区画の高層住居群が並び、針山のようなそこを過ぎるとタウンハウスと平屋がガタガタと立ち並ぶ地区へ。
正面まっすぐを見据えれば下等区画と貧民窟の境界がはっきりしており、そこからはあばら家と廃屋立ち並ぶ混沌の図だ。その、最果てには曲がりくねって伸びてきた川を受け止める最終処分場がある。先は大河に繋がり、海へ往く。
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いかがでしょうか。この存在感! すばらしい表現力! 小説家になろうでは中世ヨーロッパ風の世界観が多い中で異彩を放ちますね。
キャラ、ストーリーも重要だけど個人的には物語の舞台そのものにこだわってくださる作者さまは好感度が高い。
個人的に、舞台設定ついては小説家になろうでも最上位に魅力的な作者さまだと思ってます。
もちろんキャラクターたちも魅力的。主人公ジョン・スミスは両腕を無くした暗い過去を背負っているし、ヒロインであるシスターのロコも謎に強くて秘密がある様子。他にもヤンデレな天才発明家などなど、灰色の町にふさわしく訳ありで癖のあるキャラばかり。
作者である留龍隆さまは割と長く小説家になろうで活躍している方。経験の蓄積があり、すべての要素のレベルが高い。
作者の趣味とこだわりが感じられる、本格ライトノベルです。
状態:連載
文字数:197,157文字
個人的高評価ポイント
◇ アイデイアが良い!
◎ 高い完成度!
作品URL
https://ncode.syosetu.com/n4219ef/