空飛ぶ魔女の航空会社〈Flying Witch Aviation Company〉
作者さま: 天見ひつじ
キーワード:飛行機 お仕事もの 旅 近代 少女 おじさん バディ 魔法
あらすじ
かつて『冬枯れの魔女』として畏れられた少女「フェル・ヴェルヌ」と、ベテラン操縦士「ユベール=ラ・トゥール」。2人は飛行機に乗って各地を巡りさまざまな人々に出会う。少女の過去とは? 世界はどうなるのか?
第二次世界大戦時のヨーロッパ的な国々を舞台に展開される近代ファンタジー。始まってしまった大規模な戦争と、そんな状況でも続く人々の生活。
感想
飛行機! お仕事もの! 各地の美しい風景! おじさんと美少女! 私の好きなものがたっぷり詰まってる作品。キーワードを見てビビっと来たらぜひぜひどうぞ。
この作品を初めて読んだとき、私は衝撃を受けました。すばらしいアイディアに出会ったんですよ。その発想はなかった!
何が衝撃だったかというとヒロインである「フェル」の話し方。彼女は母国語であるルーシャ語と、後から習得した共通語の2言語をしゃべり、なおかつ言語によって口調が違う!
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『わざわざ解かなくてもよいのではないでしょうか?』
『それでは貴方の練習になりません』
フェルに合わせて彼女の母国語で返してやると、彼女は突然噴き出した。
『ふふっ……ユベールの喋り方、おもしろいですね』
「……習ったのはずいぶん昔だ。ぎこちないのは仕方ないだろ」
「拗ねてるのか?」
「拗ねてない」
「それを拗ねてるって言うんだ」
ユベールの口真似で得意気に言い放ったフェルの額を、デコピンで弾いてやった。
『いっ……痛いです! 八つ当たりなど、恥ずかしくないのですか!』
「悔しかったら、俺と口喧嘩できるくらい共通語を上手くなるんだな」
「……っ、ちくしょうめ」
「待て、そんな捨て台詞をどこで憶えた」
「メニーベリー基地の兵士が使っていた」
「……あー、なんだ。汚い言葉だから、あんまり使うんじゃないぞ」
「では、どれが正しい?」
「改めて聞かれると答えづらいな。そうだな、憶えていろ、とかになるのか……?」
「では……憶えていろ」
「そう。いや、違う……ううん、まあ、いいか。とりあえず降りろ。飯にするぞ」
「了解した」
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『』がルーシャ語、「」が共通語ですね。う~ん、すごく良い……
フェルはルーシャ帝国のお姫様、もともとは高貴かつ丁寧に話す。しかし、習った共通語は固いものであり男っぽい。
つまり『おしとやかな姫様』と「男口調のクール系少女」という2つの性質を合わせ持っている!
言語を使いわけることで、1人のキャラクターに複数の性質を持たせる……これはすごい発想では!
萌え要素だけの話でもなく、この作品においては2つの言葉は、ルーシャ帝国の姫にして冬枯れの魔女『フェルリーヤ・ヴェールニェーバ』と、見習い航法士「フェル・ヴェルヌ」という、少女の2つの立場も表現している。
高貴な出自と悲劇、逃げた先で見つけた新しい生き方。フェルというキャラクターの人生が言葉によって明確になっている。上手い表現です。
そして、飛行機によって巡る各地の風景も美しい。高知の草原、南の島、砂漠の宮殿……飛行機の上から遺跡を探すとかロマン。
ストーリーの方向性も良い感じ。舞台設定的には世界大戦中らしいんだけども、メインの2人は戦争には参加しないんですよね。それを横目で見つつ別の場所で仕事をしてる。
実際、戦争が起きててもそれ以外の人々の暮らしだって続いてるはず。「敵を殺せ! 悪を倒せ!」なんて盛り上がってるのは一部の人間だけじゃないかと。
そんな狂気と熱気に侵されず、淡々と自分たちの人生を貫く。もしくはそこに商機を見つけて強かに仕事をする。すごく好みの雰囲気。
全体を通して何とも良い空気感な一作。
状態:連載
文字数:202,009文字
個人的高評価ポイント
◇ アイディアが良い!
◎ 高い完成度!
☆ 私の特に好きな作品です!
作品URL
https://ncode.syosetu.com/n5806di/