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バターチキンカレーによる恐ろしき未来


 最近、バターチキンカレーが恐ろしい。


 饅頭が怖いとかそういう話ではないのだ。なにかこう、バターチキンカレーを作って食べていると、言い知れぬ不安を感じる。

 美味しくて、簡単で、大好きなのに。彼には何か秘めたる恐ろしい力を感じてしまう。

 今はまだ彼は正義でも悪でもないが、いつか彼が悪に堕ちた時に世界は破滅に向かってしまうのではないか。


 そう感じてしまう、二月の寒い日。皆さまいかがお過ごしでしょうか、ころっけぱんだです。


 そういったことを相談すると「大丈夫、気のせいですよ」ところっけぱんだの先生(心の中の)は言う。だが果たしてそうだろうか。この心中に流れる冷や汗は気のせいなのだろうか。


 いや、気のせいなんかじゃない。


 よくよく考えるとバターチキンの恐ろしさは存在する。しっかりと言葉にできる。

 今日はバターチキンカレーの恐ろしさについて言葉に直し、皆さんに伝えることでこの恐怖とはなんなのか分析していきたい。是非お付き合い願いたい。



 まずバターチキンカレーの持つ恐ろしさは『情報優先度』にある。

 ここでいう『情報優先度』とは何か。これは言わば脳が自然に取り込む情報の速度だ。

 例えば何気ない日常を部屋で過ごしている中で煙の臭いを嗅いだらどうなるか。テレビやスマホといった機器からの情報を遮断し、脳はすぐにその『煙』という情報を取り入れ「火事ではないか」といった考えを引っ張り出してくる。

 これはやはりダーウィンの進化論を背景とした、種が存続するうえで必要な情報ほど脳に素早く届くように遺伝していった結果だと言える。人が煙の臭いを恐れるのは火事から生き残った先祖の遺伝、鼠を恐れるのは伝染病から生き残った先祖の遺伝なのだ。


 その背景はともかく、バターチキンカレーの香りはその『情報優先度』が高い。

 鼻孔に触れれば誰もが「バターチキンカレー……」となる。脳が一瞬ではあるものの、他の情報を全て捨て去りバターチキンカレーに染まってしまう。


 こうなってしまう原因は日本人の特性にある。


 例えどんなに悲しいことがあってもカレーの匂いを嗅げば脳内に「あっ、カレー」という考えで真っ白になる。

 熱い戦いの最中にあってもカレーの匂いを嗅げば脳内は「カレーじゃん」となる。

 愛する人とベッドで濃厚な、こう……。とにかく良い感じの場面(掲載サイトがノクターンならばここで三千字使った)にあってもカレーの匂いを嗅げば「カレーかぁ」ってなっちゃう。

 我々日本人というものは旧日本海軍のせいなのか学校給食制度のせいなのか知らぬが、カレーの匂いを嗅ぐと瞬間的に脳内がカレー一色に染まってしまう。

 カレーの匂いは明らかに脳を一種の催眠状態へと導くのである。


 さらにいえばバターチキンカレーは通常のカレーよりも情報優先度が上だ。バターチキンカレーの香りは所謂本格的なカレーを想起させ、通常のカレーの香りよりも強烈な印象を与える。

 いつものカレーとは違う、何か特別なカレー。脳がそう認識してしまうのである。仕方ないね。



 次に特徴的なのが『量産性』だ。つまり作るのが容易なことである。

 バターチキンカレーのレシピは極めて簡単だ。鶏肉をカレー粉とヨーグルトとニンニクを混ぜたものに漬け置き、それをバターで炒めトマト缶を加えて煮る。そして生クリームを入れるだけ。

 多少レシピの差異はあるだろうが、基本はこれだ。普通のカレーよりも具材が絞られており、下ごしらえの点において大きく優位である。


 さらにこのレシピはオミット、省略化することができる。

 バターチキンカレーの味のベースはバターだと誤解されやすいが、実際その根幹を担っているのはトマトとヨーグルトだ。バター風味が薄くてもかなり美味しい。

 つまりバターをマーガリン、生クリームを牛乳へと変えても大きな問題はないのだ。むしろ「アッサリしてこれはこれでアリじゃね?」となる。

 ただでさえ量産に優れたバターチキンカレーが、量産型バターチキンカレーに進化するのだ。鶏肉も胸肉を使用すればかなり価格を抑えることができるだろう。



 そしてなにより食べられる。バターチキンカレーは『可食性』を持つ。

 人間に必要な衣食住の内の食を担い、生物の三大欲求の食欲を満たすバターチキンカレー。

 一種の中毒性があるのではないか、と思ってしまうほどの鮮烈なフレーバー。小麦粉を使わないせいか、重みがなくついつい本家のカレーよりもスプーンが伸びてしまうリピート性。

 食後も通常のカレーよりもたれずスッキリとした気持ちで、これほど良い『食』はないのではないかと思えるほどだ。


 以上の三つ『情報優先度の高さ』『量産性』『可食性』がバターチキンカレーの持つ特性であり、私の恐怖の原因になる部分だろうと思う。

 そしてこんな風にバターチキンカレーの恐ろしさを皆様に説いている間に、一つの結論に至った。



 バターチキンカレーを使った洗脳……!



 何を馬鹿なと思うかもしれない。

 だが先ほどまでの三つの特性がそれを可能とする。


 その匂いで大衆からの注目を集め、食べることで幸福をもたらす。それでいて大量生産が可能。


 この文面を見て危機感を覚える人間は少なくないだろう。特にこの「小説家になろう」において、そういう人間は多い傾向がある。

 いわゆる犯罪を創作内のギミックに利用するような人間はピンと来たのではないか。



 このバターチキンカレーに情報を付加することで洗脳が始まるのだ。



 例えばバターチキンカレーを駅前で配っている団体があるとする。名前を『人類管理実現党』とでもしようか。

 本来なら見向きもしない団体であるが、そのバターチキンカレーの匂いに注目せざるをえない。

 喉をゴクリと鳴らしながら、いつのまにか歩み寄る。ついつい「怪しいけど、無料なら一杯食べるくらい……」そう思い、バターチキンカレーを食らう。

 そうなってしまったが最後だ。試食コーナーが今もなお続いているように、食べてしまった罪悪感により署名、投票。当選、政権奪取。


 こうして『人類管理実現党』は機械による人類管理を見事実現し、人々は細分化された数万ある小さなコミュニティたる『箱』の中で機械によって管理される。


 人類は井の中の蛙として大海を知らぬまま、その『箱』の中で生きていくのだ。

 傍らの友人が、最高の親友なのだと信じ。

 傍らの異性が、最高の伴侶なのだと信じ。

 この『箱』の中こそが地上の天国だと信じ。

 そしてバターチキンカレーこそが最高の食べ物だと信じ、生きて、死ぬ。一見平和であるが、ただそれだけの人生しかない。

 それだけの人生しか許されぬ未来があるのだ。



 ……これはあくまで可能性の低い未来である。だが、もしこれ以上の『バターチキンカレーと情報の結びつき』が行われれば、この確率はグンと上がる。

 先ほどのような原始的な洗脳である「バターチキンカレーの配布」以上の方法を思いつく人物なぞ、この世に溢れている。


 バターチキンカレーはそれだけの恐るべき力を持っているのだ。ただ皆が気づいていないだけなのだ。


 世に火薬というものが生まれた時、当時の人はどこまで想像できたのだろうか。

 鉄の筒から鉛を吐き出し、数多の人々の命を奪うのだと誰が思った。

 誰がそこまで考えた! どれだけの人が考えることができたか! 言ってみろ!


 ……言えぬだろう。

 今回のバターチキンカレーによる洗脳も同じようなことなのだ。

 今を生きる人は笑うかもしれないが、後を生きる者にはあり得る未来の一つなのだ。


 恐ろしい未来だ。

 回転寿司のタッチパネル注文や受付のロボット(冷静に考えると凄いと思うんですよ)にほがらかな未来を感じている場合ではなかったのだ。

 私達があの日思描いた明るい未来はすぐそこにあるが、そのすぐ先にはSF作家が思い描いた暗い未来もある。


 いわゆるディストピア。バターチキンカレーによってもたらされる悲しみの管理社会。

 未来の私達は外の世界を知らずに、箱の中で一生をバターチキンカレー以外の喜びを知らずに生きるしかないのか。



 いや、対抗する手段はある。

 バターチキンカレーを日常に取り込むことで耐性を付けるのだ。



 バターチキンカレーによる洗脳工程は全て最初の『情報優先度』に起因するものだ。バターチキンカレーが脳に働きかける『情報優先度』さえ潰すことができれば、洗脳は起こりえない。

 バターチキンカレーは、ただのバターチキンカレーになる。


 つまりバターチキンカレーの陳腐化。これこそがバターチキンカレーによる洗脳に対抗する最も有効な手段なのだ。


 そのためにバターチキンカレーを作ろう。

 週に一度はバターチキンカレーを作って食べよう。

 我々は日頃からもっとバターチキンカレーを摂取するべきなのである。


 インド料理店に行ったからとかテレビで特集を見たからとか、バターチキンカレーはそんな理由付けして食べるものではないのだ。安く美味しく簡単に作れるのだから、食卓に上るチャンスは大いにある。


 今ここに宣言する。

 バターチキンカレーは常食になりうる。


 ありきたりなカレーに飽きている男性陣、ここに新しきカレーがある。

 日々の献立に悩んでいる女性陣、ここにお手軽かつお安いカレーがある。


――※注意※――

 文章の韻を踏むために『女性陣』という表現を使いましたが、私には「料理をするのは女性に限定する」といった差別的な思想はありませんし、その考えを押し付けるものではありません。

 むしろ、未だに『料理は女がやるもの!』といった悪しき考えがあるのだということを、人々に思い出させることが私の狙いです。

 そして男女の垣根を超えて日々口に運ぶ料理について、より深い見識を持つべきというのが作者の考えであります。

――――――――

 

 もっと家庭料理の中にバターチキンカレーの土俵を広げようじゃないか、諸君!

 本来バターチキンカレーはもっと肉じゃがやポテトサラダに肩を並べるくらいの位置……。

 いや、バターチキンカレーは所謂家庭のカレーを駆逐することができる!


 さぁ、今や時代は変わりし時!

 ルゥで作るカレーの時代は終わった! これからは新しき時代だ!

 若者よ、老人よ!

 男よ、女よ!


 ヨーグルトを買ってニンニクをすりおろして入れよ!

 そこにぶつ切りにした鶏肉を漬けるのだ!

 あとはレシピ参照! 自分の信じるバターチキンカレーを作り、家庭の味として継承せよ!


 大衆よ!

 これからの世を守るため、バターチキンカレーの普及に努めるのだ!


 作:バターチキンカレー大好きころっけぱんだ

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[良い点] なんか開いてはいけない世界を開いてしまった感ww ぼく、知ってるんだこの世には知らない方が良いことがあるって。 [気になる点] バターチキンカレーに親でも殺されたんかって思う程の熱量を文章…
[良い点] この時間にバターチキンカレーを検索してしまいました。 画像を見てしまいました。 テロだと思いました(笑)。
[良い点] とても面白かったです。 週末は、ぜひ、作って食べようと思います。 [気になる点] 恐ろしいことに頭がカレーに染まりました。
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