<四海走破> ⑦
(=ↀωↀ=)<風邪ダウンにより予定より遅れての投稿
(=ↀωↀ=)<すみません。お待たせしました
(=ↀωↀ=)<ちなみに作者は風邪の後遺症なのか逆流性食道炎状態です
(=ↀωↀ=)<三〇歳になったら体のポンコツ度が増した気がする今日この頃
□船団・中央船
時はバロア達が一隻目の幻を発見した時にまで遡る。
「通信魔法受信! 代表達が【亡霊戦艦】と会敵しました!」
「そうか」
通信士の報告を受け、ライト少佐は頷く。
今、ライト少佐は中央船から船団全体の指揮を任されている。バロアをはじめとして三人の船長が船団にいないため、【提督】であるライト少佐が船団をまとめて運用するためだ。
三人の乗った【連絡艇】を先陣として、船団は水平線の彼方、物理的に視認できぬ後方で待機していた。
それはどこから襲撃してくるかも不明な『見えない』相手を警戒し、船団が奇襲を受けることを警戒してのものだ。
作戦の第一段階として【連絡艇】に乗った三人が機雷で【亡霊戦艦】にダメージを与え、あわよくば見えない敵の座標を特定する。
そして第二段階として船団が戦闘エリアに急行して【亡霊戦艦】に火力を集中させる、というのが初期の作戦案だった。
「ですが、発見の報の後に通信が途絶しています。代表達は……」
「無事と考えて動く。次に通信が入ったとき……『第一段階クリア』の報を受けると同時に向かう。各船の【翠風術師】と【蒼海術師】は超加速航行の準備に入るよう伝達」
「了解!」
ライト少佐の指示が通信魔法で各船に行き渡り、各々が自分のすべきことを準備していく。
「聞いてのとおり、間もなく船団は戦闘行動に入ります。……この航海初の艦隊戦です」
「ふん。改めて思うが、初戦が<UBM>とは剛毅な話だな」
ライト少佐の言葉に、同じく中央船に乗っていたン・レフトが鼻で笑いながら応える。
「先行している連中が大丈夫だと思うか?」
「大丈夫でしょう。マシューがいますから」
「ほぅ?」
ライト少佐の返答にン・レフトが意外そうな声を上げる。
「予感を持つバロアでなく、超級職のあの娘でもなく、海賊の名を挙げるか」
「ええ。共に訓練を重ねて知っています。マシューは恐らくこの水平線の先の戦場において、不可欠な力を持っている」
「……ふむ」
「だからこそ、私がすべきは彼らを信じ、彼らが膳立てしてくれた戦場で自らの仕事を果たすことです」
「ああ。それぞれに、仕事を果たすべき時がある」
そう言って、二人は揃って水平線の向こう……今は【連絡艇】に乗った三人が奮闘している海域を見据えた。
「ああ。戦闘エリアには機雷が散布されていますが、大丈夫でしょうか? 超加速航行では回避できませんが」
「火や風ならばともかく、聖属性の機雷ならばアンデッド以外に効果は薄い。それに、各属性対策のコーティング剤も仕入れてある。小僧から作戦を聞いてすぐに船体表面に塗布してあるわ」
「流石の手際ですね」
「ワシの仕事は陸にいる間に終わらせるものだからな。……あとはお前の仕事だ」
ン・レフトはそう言って、ある物を懐から取り出してライト少佐に放る。
「……これは」
放物線を描いたそれをキャッチして、ライト少佐は表情を変える。
それが……転職用の【ジョブクリスタル】だったからだ。
「見せる意思も必要もないなら使わんでいい。だがどちらかがあるなら使え。そのためのものだ」
「……見破っておられましたか」
「バロアの小僧も薄々は察しているだろうな」
そうしてライト少佐はしばし【ジョブクリスタル】を見ていたが、やがて【ジョブクリスタル】を懐に仕舞いこんだ。
「そうか。それならそれでいい。では、【提督】としての力量を見せてもらうぞ」
「……存分に」
彼らがそのように言葉を交わして、以降はお互いに何も言わなかった。
そうして三〇分ほどの時が経ち……バロア達からの第二の連絡と共に彼らは動き出した。
◇◆◇
□■<南西境界海域>
「これは……!」
洋上に浮かぶ四隻の【亡霊戦艦】の姿に、ヴァナは戦慄した。
「……なるほど、複数隻いたのか。それは……全方位からでも攻撃できる訳だ」
先祖の遺した情報の理由を知り、納得と共に恐れを覚える。
【亡霊戦艦】の力とは、幻の中で死した怨念による座標誤認と先々期文明の分離式の独立攻撃システムが合わさったもの。
虚と実、両面の分散によって実体を捉えることが不可能な【亡霊戦艦】を生み出していた
「……おいおい、まさかあれを全部倒せってんじゃねえだろうな!?」
「かもしれんぞ、海賊」
「無茶言うんじゃねえよ! あいつら回復していやがるじゃねえか! 四隻分を削りきるほどアイテムもつのか!? アンデッドだぞあいつら!」
マシューはそう言うが、実際には修復能力はアンデッドだからではなく兵器としての機能だ。
四隻の【亡霊戦艦】はいずれも修復のための物資を積んでおり、それを使って船体を回復している。
アイテムボックスにより資源の枯渇が縁遠いのがこの世界における航海であり、それは【亡霊戦艦】にも適用される。
先々期文明の崩壊後から戦っていたがゆえの枯渇もありえるが、これまで尽きていなかったものがたまたま今尽きるのを期待するのは難しい。
そもそも、これまで【亡霊戦艦】を傷つけられた相手がどれほどいたかも怪しいのだから。
ゆえに、四隻を削りきることは難しい。
だが……。
「――本体」
バロアの目は、活路を見ていた。
「なんだって?」
「多分、本体がいます。あの全く同じ形の四隻ではなく、それを統率する本体がいる」
「なぜ分かる……と聞くのも愚かな話か」
そうしたものまで予感するのだろうと、ヴァナは結論づけた。
「なるほどな! 全部同じだったら名前が【亡霊艦隊】になってそうだしな! あいつらを指揮する頭一つ抜けた【戦艦】がいるってこった!」
「そういう話では…………いや、そういう話なのか?」
ヴァナは<UBM>の命名規則について少し考えるが、しかしすぐにより重要な問題を思い出す。
「それで、バロア。どうやってその本体を見つける?」
「ひとまずは、このままで。作戦の第一段階を続けます。それで、本体を見つけたら船団に連絡を」
「応! ばっちり避けまくってやるぜ!」
「さっきより大変だと思いますが、がんばってください」
「……何?」
そんなやりとりの直後、
「面舵二〇!」
バロアが回避軌道の指示を叫び、
マシューが操舵を行い、
【連絡艇】の後方に――四つの水柱が立った。
「ぬぁ!?」
「取舵一〇!」
マシューの驚愕が続く余裕もなく、バロアが次の指示を飛ばす。
予感による指示に従い、【連絡艇】は四方からの砲撃を辛うじて潜り抜けていく。
明らかに先刻までよりも弾幕の密度が濃い。
「……そうか、これまでは……四隻いたわけではないのだな」
後部座席で機雷を投下しながら、ヴァナは【亡霊戦艦】の戦術について考察する。
普段の【亡霊戦艦】は四隻のオプション艦をバラバラに分散して動かしている。
そして敵を見つけ、攻撃を行わせる。
単艦で撃破できるならば良し。
撃破できないならば分散していた他のオプション艦も合流し、一斉攻撃で片をつける。
だからこの【連絡艇】を相手取るときも最初は一隻のみだったが、手古摺っていたために他の三隻を呼んだのだ。
そこまで考えて、ヴァナは嫌な予感を覚える。
「……バロア。もしかすると……この場に本体はいないのではないか?」
やられても痛くないオプション艦だけを前面に出し、本体は後方に陣取って敵が倒れるまで動かない。
そういった戦術をとる可能性もある。
「その心配はありません」
「なぜ?」
「【亡霊戦艦】は……そこまで賢いアンデッドではないからです。彼らの分散と集合は、戦術ではありません」
「なに?」
「より多くの敵を倒すために分散する。倒せない敵を倒すために集合する。これはアンデッドでもありえる動きです」
例えば、迷宮のゾンビなどを例に挙げる。
知性のないゾンビは迷宮内で統率もなくウロウロと活動しているが、生命の気配を感知するとそちらに移動する。
ゾンビとの戦闘で生命体が一ヶ所に留まる内に、他のゾンビも集まってくる。
傍から見ればパトロールのための分散と包囲戦術のための集合に見えるが、実際は戦術などではなく本能の結果そうなっているだけだ。
【亡霊戦艦】の動きはこれと同じ……ヴァナが考察したような戦術ではなく、シンプルな行動原理の結果なのだとバロアは言う。
「そして多分……取舵一〇!」
バロアがそう言った直後――今までよりも巨大な水柱が海面に立ち昇った。
「……もう来ていますね」
「そのようだ……」
明らかに他より大口径の砲を積んだ戦艦が、この海域にいることをヴァナも理解した。
同時に少しだけ考えを改める。
先刻まではアンデッドとなり誤認能力を身につけたからこそ、【亡霊戦艦】は恐るべき脅威になったと思っていた。
しかしもしかすると誤認能力を使う今よりも、戦術を駆使できた生前の方が余程に難敵であったのかもしれない。
(聖属性が弱点化したことも含め、攻撃を当てられるならば今の方が戦いやすくはなっている……か)
機雷で本体を削りきることは難しいかもしれないが、後方にいる船団を呼び寄せ、集中砲火を浴びせることが出来れば……打倒できる可能性は高い。
「それで第二段階は……船団はいつ呼ぶ?」
「本体の位置を特定してから、ですね。それが分からないうちに呼んでも、本体を倒す前に船団が沈められます」
「確かにな。……つまり?」
「現状維持で、回避と機雷散布を続行です。マシューさん。最初の五倍の弾幕ですけど、最後まで避けきれますか?」
「…………」
マシューは苦い顔で沈黙した。
だが、
「やったろうじゃねえかああああああああ!!」
マシューは自棄糞の表情でそう叫んで、MP回復のポーションを煽ると共に【連絡艇】を全速力で振り回した。
高速ターンで白い波濤を海上に作りながら、【連絡艇】は着弾の水柱の間を疾走する。
「面舵……?」
バロアは、マシューの回避機動が自分の指示よりも早く行われていることに気づいた。
「マシューさん? あの、今……」
「避けるのに慣れた! 間違ったら訂正してくれ!」
その答えに驚いたのはバロアよりもむしろヴァナだった。
先刻までは予めバロアが指示した軌道に舵を取っていた。
しかし今は指示よりも早く、発射音が聞こえるより早くに、自ら回避軌道を選んでいる。
五隻の【亡霊戦艦】が撃ち放った砲弾の連なるような五つの水柱……一発当たれば終わりの死線を駆け抜ける。
それは勘であり、同時に五隻の【亡霊戦艦】の発砲の間隔を掴んだがゆえの回避機動。
半ば超能力と言ってもいいバロアの予感に、マシューは操船技術と慣れで追いついたのだ。
話しながらもマシューは巧みにペダルと舵を操り、転覆スレスレのターンで砲弾を回避していく。
(海賊というよりもこれは……操縦士の類の才能か? 先々期文明の頃には多くいたらしいが、今は絶滅危惧種だぞ)
操縦士は機械技術で出来た乗り物を操ることに秀でたジョブであり、先々期文明の崩壊後は大きく数を減らしている。
大陸北西の荒野に住み着いた一団が機械技術の再建を目指しているという噂もあるが、大陸が戦乱の最中であるため定かではない。
マシューも操船の補助のためにサブに入れていただけのジョブだ。
だが、少々の機械技術と共に作られたこの【連絡艇】を操る上で、【操縦士】の力は如何なく発揮される。
それだけでなくマシューはその才能を……本来であればセンススキルで取得するべき操作技術を、自前でスキルレベル以上に発揮していた。
「つっても、結構厳しいがな! やばいときだけ指示くれ!」
「わかりました。ヴァナさんは機雷を撒きながら、船団に【亡霊戦艦】の情報を。でも位置情報だけは伝えないで」
「……? 分かった」
そうして【連絡艇】は決死の回避航行を続ける。
マシューは驚異的な操縦技術を発揮しているが、それでも五隻からなる砲撃の網を回避するのはギリギリだ。
五隻が距離を詰めてきているのか、少しずつ狙いは正確性を増す。
至近海面への着弾で小型船の動きは阻害されることで少しずつ回避動作に支障をきたし、着弾点との距離が縮まっていく。
「面舵一五! ……っ」
操縦技術でもカバーしきれない唯一の脱出路を、バロアの予感が指し示す。
だが、それにも限度はある。
バロアの予感に欠点があるとすれば、それは予期していても回避不可能な状態に追い込まれることだ。
今の彼らは盤上競技の詰みにも似た状況に近づきつつあった。
ヴァナは攻撃のための機雷を投下し続けている。
その結果、四隻のオプション艦にはダメージが生じ、先刻のように座標の誤認が解けかけている。
だが、本体の姿は未だ見えない。
恐らくは誤認が解けるまでのダメージ許容量がオプション艦より大きいのだろうと、ヴァナも察している。
そして、オプション艦と違って近づいても本来の位置が見えない可能性さえあった。
そうして状況が打開できぬままに時は過ぎる。
「チッ!」
彼らの【連絡船】を挟んで三本の水柱が立った時、いよいよ危ういかと思われた。
「…………?」
しかしそのとき、バロアが気づく。
次いで砲撃が行われ、今度は四本の水柱が立った。
「…………数が違う」
バロアはそう呟いた。
マシューとヴァナがその意味を問おうとした時、【連絡艇】の周囲でまた三本の水柱が立った。
「「!」」
そうして、二人も気づく。
「砲弾が飛ばないタイミング……方向があります」
今のオプション艦には、ダメージによって誤認が働いていない。
ゆえに砲弾の放たれる方向は見えている姿と一致している。
そして……彼らを囲むように展開している四隻のオプション艦の中の一、二隻が、砲弾を放ってこない方向がある、と。
「……ある」
バロアは、把握していた。
前後左右に激しく回避機動を取り続ける船の上で、脳内に海上の地図を描く。
そして砲弾の飛来する方角を脳内地図に書き込み続けていた。
自らの位置と周辺の配置を、まるでゲームのマップのように脳内に表し続けた。
「……いる」
攻撃可能位置にオプション艦が存在していながら、攻撃を行わない角度がある。
それは他のオプション艦が射線上に存在する時。
アンデッドであっても、自分の一部とも言うべき他の艦を巻き込むようには撃ってこない。
包囲が狭まり、各艦の距離が近づいたことでその動きはより顕著に見えるようになった。
だが、他の艦を巻き込まないタイミングでも、砲弾が飛んでこないタイミング・方角がある。
見えている他の三隻のいずれも射線上に存在しないのに、撃ってこない方角。
それ即ち、
「本体の座標が分かりました!」
未だ三人の目に見えていない、最も強い誤認能力を持つ本体の存在座標である。
バロアはすぐさま、船に積まれた通信機器に指示を発する。
「ターゲット、確認。作戦を第二段階に移行します!」
『了解。これより船団の全艦船で強襲を実行する』
通信機に指示を飛ばした直後に、ライト少佐からの返答があった。
そして、
『超加速航行――全力稼働!!』
通信機を介してそんな言葉が聞こえて少しして……空が唸るような音が聞こえてきた。
それは水平線の彼方から響く、嵐のような風鳴りの音。
だが、吹き荒れる風の音は、その音を大きく響かせ続け……。
やがて、五隻の帆船が水平線の向こうからその姿を見せる。
五隻の速度は音速に近く、船舶の巨大さでなければ見失っていたかもしれないほどに桁違いだ。
超加速航行。
それは水属性魔法と風属性魔法を用いた、この世界の帆船にしかできない航法。
水属性魔法で帆船下方の海面に高速で動く海流を作り、風属性魔法で帆や船尾に音速の空気圧を叩きつけ続ける荒業である。
それを人に喩えれば、高速のオートウォークの上で全力疾走するようなもの。
人ならひっくり返って大怪我をしてもおかしくはないし……帆船ならば船体がもたずにマストや竜骨が折れても不思議ない。
だが、五隻の帆船はいずれも耐える。
レジェンダリアの木材とアドラスターの船大工によって創られた、この時代で最高峰の帆船は……常軌を逸した加速にも耐えている。
そして、船団は指示から一分足らずで戦場へと到達した。
「ッ!」
同時に、バロアはアイテムボックスから銃口の広がった銃――信号弾を取り出す。
次いで、彼が見つけた【亡霊戦艦】本体の座標の上に、信号弾を撃ち放った。
座標の上には、赤と黒の二色の信号弾が浮遊する。
「信号弾! 赤・黒! 座標は四・八六!」
それを読み取った各艦の観測手が、声を張り上げてブリッジに信号弾の色と座標を伝える。
「座標固定! 全砲門開けッ! 霊水爆雷用意!」
報告を受けて船団を指揮するライト少佐は、攻撃の指示を出す。
船団の五隻が加速航行から急速停止、そして全兵装の照準を合わせる。
「撃ェ!!」
彼らの目に何も見えない座標であっても一切の躊躇も再確認もなく、信号弾の真下へと一斉に砲撃を開始した。
なぜなら、赤と黒の信号弾が意味するものは『直下に全力で砲撃せよ』であったから。
そうして五隻の帆船から放たれた聖属性砲弾は、何も見えない場所に次々と吸い込まれ……。
『O……o……o……』
呻くような、軋むような異音と共に、無数の白い爆発が海上を照らした。
船団の集中砲火が、一〇〇〇年以上も隠されていた【亡霊戦艦 アヴァン・ドーラ】の本体に大きなダメージを与えていたのだ。
その誤認能力の影響を、まるで受けていないかのように正確に……。
◇
《ランブリング・ヴィジョン》の誤認能力は、二種類ある。
第一は、常に行っている視覚と聴覚の誤認。
第二は、第一の誤認を超えて本当の位置を知った相手に直接作用する方向の誤認。ヴァナが【ジェム】を投げた際に作用したものだ。
居場所を確かめて攻撃しようとした相手の精神に干渉し、攻撃の直前にその方向を記憶違いさせる。
つまりは、『ターゲッティングされている限り絶対に当たらない』のである。無敵の防御能力の一つと言える。
これを破る手段を見出せなかったがために、海洋王国の海軍も、数多のモンスターも【亡霊戦艦】に敗れ去った。
だが、これをすり抜ける手段は……実を言えば少なくとも三つある。
まず、既に【連絡艇】の三人が行ったもの。意思を持たぬ機雷をばら撒き、あちらからぶつからせてダメージを負わせる戦法。
次に、後の世に海洋に名を馳せる<超級>やあの【海竜王】のように、海域レベルでの超広域殲滅攻撃を仕掛けること。
そして最後の手段が、バロアと船団が実行したものだ。
それは、分担である。
第二の誤認はそこに【亡霊戦艦】がいると『知った上で』、『攻撃する』から発動するのである。
だから、座標を知っているバロアが攻撃ではない『信号弾を撃つだけ』では発動せず。
『本体がいると知らない』船団の各員が信号弾の指示に従って攻撃しても発動しない。
彼らは知らぬままに――あるいはバロアが「そうすべき」と予感したままに――無敵の防御能力を破るその手段を使ったのだ。
◇
聖属性砲弾の白い爆発を無数に咲かせながら、第一の誤認の効果を削がれた本体がその姿を露わにし始める。
その最中に、バロアは声を張り上げる。
「大砲の照準は動かさないまま撃ち続けてください!」
通信機でバロアの指示が飛び、艦上でライト少佐が全ての帆船に伝える
「撃ち続けろ! 砲の照準は動かすな!」
このバロアの指示が決め手だった。
船団が本体の座標を知っても、第二の誤認はその効力を発さない。
なぜなら彼らの武器は引く弓でも構える銃でもなく、艦船の砲なのだ。
指示された座標に一度定めた大砲の照準を変えず、砲弾を装填して撃ち続けることもできる。
それならば、相手の位置が動いていなければ……誤認も何もあったものではない。
さらに砲撃だけでなく、呪怨系状態異常……怨念を払う【高位霊水】が樽に詰めて爆雷のように投擲されてもいる。
それが余程に効くのか、あるいはこの誤認能力を得てまともにダメージを受けたのが初めてであるためか、【亡霊戦艦】は身動きもまともにできていない。
砲塔を回しての反撃すらもままならない。
撃てば当たる状態だ。
『O……o……』
それは朽ちた鋼の軋みか、年経たアンデッドの呻きか。
聖属性砲弾は、【亡霊戦艦】に多大なダメージを与えている。
そもそも、艦船は火力において生身の人間を容易く上回る。
上級職の奥義に近いダメージを砲弾の一発一発が叩き出し、それらは資産の許す限り物資としていくらでも船に積み込める。
人間が海上に適応できずに海を恐れるのは、水棲モンスターの潜水奇襲や未知の生態、【海竜王】が理由だ。
ゆえに攻勢に回ったならば――人類は今でも多くのモンスターを上回っている。
そして元は人類の兵器であった【アヴァン・ドーラ】も、今は<UBM>の【亡霊戦艦】。
アンデッドに対する聖属性砲弾は通常の砲撃を遥かに上回るダメージ効率を叩き出し、朽ちた装甲はかつてほどの堅牢さを持ってはいない。
それこそ、ヴァナの考えた通りだ。
モンスターと化したがゆえに、【亡霊戦艦】は劣るはずの帆船に追い詰められている。
だが、それでも【亡霊戦艦】は恐るべきモンスターであり、兵器である。
「バロア!」
「……!」
マシューが声を張り上げ、バロアとヴァナもそれを見る。
本体の窮地に、四隻のオプション艦が動き出している。
自分達の急所を攻撃し続ける船団を排除しようと、【連絡艇】の包囲を解きながら船団へと向かっている。
「ッ!」
現状、船団も本体同様にまた動けない。
動けば、第二の誤認でズラされる。
動かないままに撃ち続けて、仕留めきらなければならないのだ。
オプション艦が船団を排するのが先か、船団が本体を仕留めるのが先か。
「特に近いのは二隻か」
「……みてぇだな」
そんな状況を【連絡艇】の上でマシューとヴァナは確認して……。
「「俺達で潰すぞ、族長」」
己のやるべきことを、同時に口にした。
「……はい!」
バロアもまた、二人の言葉にうなずく。
◇
かくして、【亡霊戦艦】討伐戦は、最終局面を迎える。
今海上にある二つの船団、十一隻の船。
残る船団は――ただ一団。
残る船は――五隻のみ。
To be continued
(=ↀωↀ=)<まだ終わりませんでした
(=ↀωↀ=)<書いてたら長くなったのです
(=ↀωↀ=)<プロットだともっと短いはずだったのに奇妙な話です(いつもの)
(=ↀωↀ=)<六・五章もプロットはほとんどできたけど、これも長くなるのだろうか戦々恐々
(=ↀωↀ=)<ちなみに予定だとホーム決めとか戦争前の出来事とかスライムな内容です
・余談
艦船の攻撃力について。
(=ↀωↀ=)<砲をはじめとした大型兵器がメインとなりますが
(=ↀωↀ=)<基本的にコストと技術力によって威力が増し
(=ↀωↀ=)<使用者のスキルなどでさらに上乗せされます
(=ↀωↀ=)<人工のもので比較するならば、銃器と比較にならない威力を出します
(=ↀωↀ=)<大型で持ち運びしづらいデメリットはありますが、火力は抜群です
(=ↀωↀ=)(たまにSTRお化けが大砲抱えて撃ったりもするけど)
(=ↀωↀ=)<そのため当て続けられるならば大抵のモンスターに痛手を負わせられます
(=ↀωↀ=)<この数百年後のグランバロア軍事船団はさらに強力で
(=ↀωↀ=)<まともな相手ならば神話級にだって勝ち目があります
(=ↀωↀ=)<相手が海水で無限回復とかしなければね
(=ↀωↀ=)<ちなみに天地の艦隊戦はちょっと毛色が違います
(=ↀωↀ=)<超加速航行で敵艦に肉薄し
(=ↀωↀ=)<白兵戦お化けの修羅共が殴り込み
(=ↀωↀ=)<船体破壊ではなく乗員抹殺で勝ちに来ます
(=ↀωↀ=)<何なんでしょうね、あの国