23巻発売記念SS 前準備
(=ↀωↀ=)<SP3発売とかクマニーサン誕生日とか色々あるけど
(=ↀωↀ=)<今日お出しするのは23巻の発売記念SSです
(=ↀωↀ=)<そして23巻の発売記念SSなのに
(=ↀωↀ=)<時系列的には七章のエピローグあたりまで読んでること前提です
(=ↀωↀ=)<お気をつけてお読みください
( ̄(エ) ̄)<俺の過去編はまたの機会クマ
■<ドラグノマド>・首都工房
巨大地竜にしてカルディナの移動首都、ドラグノマドには幾つもの重要な施設がある。
都市国家連合としての議会場、政治を担う庁舎、あるいは腹の中に隠した要塞。
そして、それらに匹敵する重要性を以て扱われるのが、一人の技術者の工房だ。
それが、カリュートの工房。先日、空位となった【機械王】の座に就き、<メジャー・アルカナ>“節制”へと正式に任命された男の拠点だ。
彼の工房では、今もカラーリングの異なるメイデン……シルキー達が働いている。
かつてユーゴーの【ホワイト・ローズ】の改修を始めた頃は独りだけだったが、今ではそれが三人に増えている。
シェフの必殺スキルによって一ヶ月に独り増やし、配置できるシルキー。
それを今はカリュートの工房に勤めさせている。
勤務する人数が一人増える度に施設の性能を倍化させる破格のメイデン。
それをこの工房に集めているのはシェフのスポンサーである議長の意向であり、カリュートに任せた仕事の精度を引き上げるためだ。
「…………」
黙々と作業を続けるカリュートの前に在るのは、一機の<マジンギア>。
小アルカナシリーズ、【MGMA-S グラディウス】。
量産型にして無人機であるこの機体は、後々の運用のためのテストとして、先日ウィンターオーブの戦いに投入された。
正確には、戦場に落として<UBM>……【フーサンシェン】に使わせたという方が正しいか。
まだ機体のベースはできているが、無人機としてのAIや戦闘プログラムは完成に程遠い。
その参考とすべく、無生物を操る<UBM>に提供してデータを集めた。
結果、【フーサンシェン】の手駒となった【グラディウス】は【サードニクス】や【ホワイト・ローズFB】を相手に暴れ回り、しかし結果として全機破壊された。
データを集めるという目的は果たし、また他の機体の実戦性能も測れたので十分だが。
しかしやはり、<神話級UBM>のバックアップという下駄を履いてもこの結果と言うのはいただけない。
量産機ならある程度は妥協してもいいという意見もあるだろう。
だが、妥協するようならば彼はカルディナに来ていない。
ゆえに、彼は自らの壁を越える必要があると考えている。
彼はあらゆるものを利用し、自らの作品の質を上げる。
超級職を得て、シルキー達のバックアップを重ねて、回収された先々期文明兵器を用いてレプラコーンによるリバースエンジニアリングを繰り返し、賭けで得たアムニールの枝やかつてガチャから出土した超級金属をも素材とする。
それら『最高の環境』こそが実力を認められて<メジャー・アルカナ>の一員となる際に議長との取引で彼が得たもの。
“節制”を号するには余りにも皮肉な彼の在り方。
しかしそれでも、彼は自分にできる更なる向上を以て、壁を破らんとする。
彼の技術の先を行く機体群を見たがゆえに。
「…………」
カリュートは視線を卓上の設計図に移す。
その設計図は完成しておらず、書きかけだ。
しかも、【グラディウス】やその改良型のものではない。
小アルカナシリーズの開発を進め、ノウハウを集め、技術を高め、その先に創る彼自身のための最高傑作……彼のための<超竜王級マジンギア>。
それこそが、今の彼のゴールだ。
(尤も、現時点では【蒼穹之大歌劇】どころか【ホワイト・ローズFB】や【サードニクス】……竜王級にも届かないが)
未だ完成系定まらぬ、超兵器。
そこに至るためにも、カリュートはまず目の前の課題をクリアしなければならない。
(少なくとも、【フーサンシェン】が操ったとき以上の戦闘機動を可能とするプログラムを組む必要がある)
カリュートはパイロットではない。
機体を運用するならば、自動操縦の無人機以外にない。
かつての特務兵にして機械式ゴーレムのスペシャリスト、Dr,ドラギニャッツォのスタイルが近いだろう。
だが、シミュレートを重ねても機体の戦闘機動はまだまだだ。
《操縦》レベルで言えば下級職と同程度の動きしかできない。
数日かけて【フーサンシェン】のデータを参考に新しく組んでもそれだ。先は長い。
(直接的に無人機からリバースエンジニアリングできればいいが、現時点では王国から流れてきた煌玉兵の残骸くらいしか現物がない)
そして、その煌玉兵……王国の<遺跡>で稼働していた【風信子之閃光】と【風信子之砲火】自体もあまり性能の良い戦闘プログラムではない。
あれらは数を用意して弾幕を張るための機体だったからだ。
指揮官機たる【風信子之統率者】ならば話は別だったが、生憎とその現物はカリュートの手元にはない。
(……フランクリンならば問題にもしないのだろうが)
かつての自分の古巣のオーナーならば、この問題を容易に解決するだろう。
機体運用に合わせた改造モンスターを頭脳体として機体に埋め込めばいい。
フランクリンならばそれをするだろうとカリュートは考えていたし、実際に制作された【MGD】の在り方はそれに近い。
「…………」
フランクリン以外にも、あそこには多くの<マスター>が集い、各々のオンリーワンや持ち寄った知識でより高度な開発を行っていた。
だからこそ、<叡智の三角>は皇国のトップクランとなれたのだろう。
その環境から自ら離れた。
メリットとデメリット……否、居心地の良い部分と悪い部分を比較して、許容できない域に達したからこそそうした。
そこに後悔がないと言えばウソになるが、既に決断した道。
己の手でクランの<マジンギア>を、他の<マジンギア>を上回る機体を生み出すことが……カリュートの進む道だ。
そんな風に、彼が感傷に浸っていると……。
「やっほー♪ 【オペラ】の整備終わったカーちん?」
「……AR・I・CAか」
彼のいた作業場の扉を無遠慮に開けて、フライトジャケットを羽織った女……AR・I・CAが室内に踏み入ってきた。
「整備は済んだ。納めた【ガレージ】は其処に置いてある」
「お、さっすがー。仕事早いじゃん。超級職になった甲斐あったね♪」
彼女の言うように、整備師系統超級職に就いた影響は既に出ている。
カリュート自身、『スキルレベルがEXになるとはこういうことか』と感心と共に作業をしていたほどだ。
「ついでにパイロットスーツの方は?」
「まだだ。要求が高すぎるからもう少し技術の進歩を待て」
「えー。またいつ星間飛行するか分かんないのにー……」
ヴェンセールでのエドワーズ夫妻との戦いを思い出しながら、AR・I・CAはブーブーと文句を言った。
だが、あれこれ言われても無理なものは無理だ。
というか、宇宙用と聞いてパワードスーツをベースにした宇宙服に近いパイロットスーツをお出ししたら『ダサい太い厚い動かしにくい』と文句を言って突き返されている。
なお、その際にAR・I・CAの提示したパイロットスーツは成人向けSFゲームのような薄くてぴっちりして透けたものであった。
カリュートは『プラグスーツより薄いじゃねえか』とか『こんな布一枚未満の厚さにどう詰め込めと……?』とか『デザイン的にも機能的にも私ではなく魔法担当の“月”が作った方が良くないか?』とは思ったものの、一先ず開発は続けている。
「そういえば、聞いているか?」
「何を?」
「王国と皇国の戦争が終わった」
「あ、それか。負けたねー、皇国」
カルディナが暗躍していたものの、この二人は戦争自体に直接関わった訳ではない。
しかし、二人は元皇国……元<叡智の三角>のメンバーでもある。
自分達の古巣の敗戦について、少なくともカリュートの方は思うところがあった。
対して、AR・I・CAの反応は薄く、軽い。彼女の要求するパイロットスーツのように。
「フランクリンか。……流石に戦争後にパンデモニウムを墜とすのはやりすぎだろう」
「そうかな?」
カリュートは本心からやりすぎと思っていなさそうなAR・I・CAを凝視し、溜息を吐く。
「……市街地で【大歌劇】を動かすのとどちらがマシかという話ではあるな」
【蒼穹之大歌劇】は個人戦闘型の機動兵器であると同時に、致死性呪詛を広範囲にバラまく広域殲滅環境汚染兵器でもある。
巨大質量物の落下とどちらの方が生存者は多いだろうか?
「まぁでもさ。何にしても、良かったよね。フーちゃんも今は喜んでるんじゃない?」
しかしそんなカリュートの思考は、AR・I・CAの意味不明な言葉で遮られた。
「……何を言っているんだ?」
最高傑作を破られ完敗した親友に送る言葉が『良かったよね』は畜生が過ぎる。
カリュートは内心引いた。
しかし、AR・I・CAは続けて奇妙なことを言う。
「良かったは良かっただよ。“不屈”くんも負荷テスト合格おめでとうってこと。まぁ、その辺はプライベートというかパーソナルな話だし、詳細はナイショかな。フーちゃんも自覚してなさそうだし」
最悪の裏切りかまして出奔した奴が理解者ヅラで何か言っている。
だが、その口調には何らかの確信があるようだった。
「でも、今は皇国よりこっちのことだね。カーちんは例の興行について聞いてる?」
「お前が<セフィロト>入りした交換条件の件か?」
「そ」
特殊な商取引への参加を願ったマニゴルド。
新たな医療技術の流布を願ったイリョウ夢路。
セフィロトの超級達は、在籍と引き換えに議長の権力と能力によって何かしらの願いを叶えている。
そして、AR・I・CAの願いは『機動兵器による決闘競技』。
かつて皇国で花開かなかった望みのレギュレーションを、このカルディナで叶えた。
「しかし、正気か?」
「今更アタシに正気か聞くこと自体どうかしてるけど、何のこと?」
「闘技場を使わないことだ」
「それかー」
機動兵器決闘競技のレギュレーションは、主に二つ。
新設された闘技場内で行われる一対一の戦い、<バトル・リング>。
砂漠にて行われる機動兵器のサイズと数に一切の制限を設けない無差別非対称戦、<ビッグ・ゲーム>。
しかし新設された闘技場には観客保護のバリアはあれども決闘での損耗をなかったことにする結界はなく、砂漠に関しては言うまでもない。
壊れたものは治らず、死んだものはそのまま死ぬ。
それがこの国で始まる新たな決闘だ。
「こっちは王国ほど闘技場がないからね。あと新しい大型施設作ると良い感じにお金も動くって言ってたよ」
実際、これを機に新たな大都市が開発されようとしている。
「それに、私としても闘技場の結界はない方がいいから」
「なぜだ?」
「――その方が人間は本気になれる」
そう言うAR・I・CAの口許は、いつものように笑みを浮かべたまま。
しかしその目は、肉眼も義眼も笑っていない。
「取り返しのつかない恐怖が、それを避けたい必死さが、限界を超えた力を発揮させる。そういうの分かるでしょ?」
「だが、恐怖で実力を出しきれない場合もあるだろう?」
「それでいいよ。勝手にビビって弱くなるならそのまま倒す。アタシは遊びたいんじゃなくて競いたいからね」
「…………」
AR・I・CAの発言に、カリュートは言葉を返さない。
恐怖の中を、己の意思と技巧、マシン性能で突き抜ける。
それが彼女の望みで、そのための眼で、そのための愛機だ。
彼女の望んだレギュレーションでの真剣勝負。
そこで、彼女は自分と真に競える相手を待っている。
その欲求のために、彼女は親友も古巣も捨てたのだ。
「……しかし、真剣勝負はいいが、<バトル・リング>で【大歌劇】は使えないぞ」
バリアで【大歌劇】の汚染を防ぐのは難しいだろう。
観客も市民も全員死ぬことになる。
「そうだね。<バトル・リング>は【オペラ】までかな。あっちを使うなら<ビッグ・ゲーム>一択」
「だが、そもそも<ビッグ・ゲーム>は規模がデカすぎる」
グランバロアの決闘を参考にしたルールになるが、一戦に掛かる投資額が桁違いだ。
あちらは国是として造船業の技術発展と従事者のレベルアップを進めているグランバロアの国家的バックアップがあるから成立している。
その点に欠けるカルディナは、何を目的とすればこの興行を成立させられるのか。
「そこは賞品次第かな」
「賞品?」
「どれだけ予算や人員が必要になっても、そのコスト以上に欲しいものが賞品だったら人は動くからねー」
「何を考えている?」
その問いかけは、付き合いの長さから来る直感だ。
この女は、自らの本能のままに加速する【撃墜王】は、何か良からぬことを目論んでいる。
カリュートは、それを察したのだ。
「議長から良い話を聞いてね。賞品に良さそうなものがあるから、主催者としてちょっと準備しようかなって。【オペラ】のメンテ状況を聞きに来たのもその都合」
「どこに何をしに行くつもりだ?」
「――ちょっと北に果物狩りにね」
「あそこ、これから少し荒れるらしいからさ」とAR・I・CAは笑う。
その言葉の意味をカリュートが知るのは、もうしばらく後の話だった。
To be continued
(=ↀωↀ=)<内容的にはむしろ第三部前振り
(=ↀωↀ=)<記念SS書いてる内になんかこうなったのです! ごめんね!
〇<バトル・リング>
(=ↀωↀ=)<概ねバト〇ング(ボトムズorゼノギアス)
〇<ビッグ・ゲーム>
( ̄(エ) ̄)<ちなみにこれバルドルOKクマ?
(=ↀωↀ=)<機動兵器なのでOK




